36.座敷童①
御影一族の屋敷には、とある妖怪が住み着いている。
その妖怪は、黒髪のおかっぱ頭に子どものような容姿をしている。
くりっとした丸い目で、隠れてソラを見ている。
「……敵か、味方か、蔵か」
それは、蔵を守るという平安時代から続いている契りである。
廊下の片隅から、ソラを覗いている少女が座敷童になったのは、大昔に起った大飢餓が原因であった。
妖怪が産まれる原因とは、何も自然から発生するだけではない。人が妖怪に転じることも大いにあり得るのだ。
トイレの花子などが、その最もな例である。
幽霊であった少女が、いつしかトイレに居着く妖怪へと転じる。
この少女も似たようなもので、飢餓で亡くなった子どもの霊から、座敷童へと転じた。
座敷童が呟いた。
「あいつ、誰じゃ」
そして、座敷童が見えるのは……子どもだけである。
(あっ、曲がった。蔵の方だ)
座敷童が追いかけようと、シュタタタ! と行く。
そして、ジーっとソラを観察する。
(アカリ、楽しそう)
モヤっと心の中に嫉妬が芽生える。
(私の友達……)
アカリが座敷童を見えなくなり、完全に忘れてしまって六年。
ずっとこの屋敷で、アカリたち御影一族を見守ってきた。
座敷童の役目は、【蔵を守る】こと。
だが、時が進むにつれて座敷童にも変化があった。それは【御影一族を守ること】へと変わっていった。具体的に言うのであれば、アカリを守ることである。
そうして観察していると、どこからか声が聞こえた。
「……何してるの?」
「観察。蔵とアカリを守るためじゃ」
「蔵、食べ物ある?」
(……誰?)
思わず、座敷童が振り返る。
なぜならば、自分のことが見えるのは子どもか同じ妖怪……もしくは、安倍晴明のような人間だけである。
「僕、アオ。こっち、今日のご飯」
「勝手にご飯にするな」
アオの頭には、狸のグラビトが乗っていた。
「…………」
アオの容姿は、間違いなく人の子である。
しかし、その姿は……ソラと瓜二つである。
先ほどまで観察している人が、真後ろにいる。
「ヒャ……」
座敷童にとって、声を掛けられたのは何十年ぶりであったか。
アオとグラビトの声が重なる。
「「ヒャ?」」
「ヒャアアアアアアアアア!!」
目の前で、おかっぱ頭の少女が絶叫する。
もちろん、話しかけただけでそんな反応をされてしまって驚かない人はいない。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」





