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34.side【神崎サクヤ】のソラ汁


 上野ソラが人気配信者になる前を、私は知っている。

 この高校へ入学した時、前の席に座っていた男が──ソラである。

 

 友達もおらず、作ろうと思えば作れたが私は一人でいた。ソラ曰く、『サクヤって話しかけてくんなオーラあるね!』と真正面から言われた。

 それくらい、私も少し理解している。てか、分かってても普通は本人には言わないだろ。


 外見のせいか、性格のせいか……いや、両方だろうな。


 友達が出来なくても、別に学校生活には困らない。

 これは父親に対する、小さな抵抗なのだ。私だって抵抗できるんだぞ、と示すための……。でも、こんなことは無意味だ。


 子どもじみた行為で、結局は何も変わらない。私は会社の道具だ。

 

 それをソラが変えてくれたから、今の私がいる。


 そして、徐々に芽生えてきている気持ちを……押し殺していた。

 それは気付いてはいけない。まだ見てはいけない感情な気がしていた。


 そう思っていたある日、私が個人所有している配信トラックにて、御影アカリが訪ねて来ていた。

 

「御影家が所有する蔵を配信してみてはどうか? だと?」

「ええ、そうよ。ソラって歴史もの好きでしょ? うちの屋敷は由緒正しい家系だから、所持しているお宝も凄いはずよ」

「だが、お前への利はないだろう」

「あ、あるわよ……蔵とか、古い建物で……そのー、立て直そうと思っててね! 掃除を手伝う代わりに!」

「……怪しいな」

「あ、怪しくないわよ!」


 今の日本で、ソラを狙う人間は数多くいる。

 日本だけじゃない、世界から見てもトップクラスのバズりを見せ、その人気は停滞せずに上がり続けている。


 配信者であれば、少しでも良いから絡みが欲しいと考えるものだ。


 運のよいことに、大神リカ、榊原カツ、インゲン女と良心的な……インゲン女以外は常識人である。


 アカリはソラの人気にあやかろうとして……とは考えにくいな。そもそも、若手実力派冒険者として名が通っている。人気もかなりある。


 純粋に掃除を手伝って欲しいから……か?


 もしかして、友達がいないのか。


「……そうか。ソラの意見も後で聞いてみよう」

「ねぇ、優しい目て見るのやめてくんない。絶対、なんか勘違いしてるでしょ」

「私も友達がいない気持ちは分かるぞ」

「あんたと一緒にしないでよ……」


 すると、コンコンッと誰かがノックする。

 

「サクヤさ~ん。近くに寄ったので、お土産を……あれ?」


 アカリが驚く。


「お、大神リカ!?」 

「えーっと、御影アカリさん、ですよね?」

「お、大物女子高生配信者だわ……!」

「お前も女子高生だろ」


 あ、そういえば私も女子高生だったな。

 モニターとエナジードリンクに囲まれた生活が、果たして本当に女子高生と呼べる生活なのかは定かではない。


「良かったら、アカリさんもどうぞ。最近流行ってる大豆ジュースです」

「豆、なんで?」

「ソラの影響で、豆ブームが来ているんだ。どの店舗も、我先にと手を出しているぞ、浅ましい考えだがな」

「ソラマメ汁じゃないのね」

「あれは人の飲み物ではない」

「アハハ……サクヤさんは相変わらず辛口ですね」

「当然だ。甘いのはソラに対してだけだ」


 大神リカから柑橘系のスッキリとした香りがする。

 それに比べ、私はコーヒーやエナジードリンクのケミカルな匂いだ。科学香料も悪くはないぞ。

 

 御影アカリは……なんだろうな、こいつの香りは。チョコレートみたいな、少し甘い匂いか。

 

「そもそも女子高生とはあれだろう? タピオカ飲んで、キャッキャしていればモテるのだろう」 

「サクヤさん、偏見も行き過ぎですよ~」

「そうか? まぁ、私も仮にも女子高生だ。流行りには乗っかるべきだろう……と思ってな、これを作ってみた」

 

 豆関連が流行っているということもあり、色々と企業案件が来ることが増えてきた。

 どれもアイデアは陳腐だし、商品を紹介して欲しいだけで微妙なのばかりだ。そのため蹴り飛ばしている。


 ないなら、私が作るまでだ。


 そうして、リカとアカリに見せる。


「私が作ったのは、ソラ汁だ」

「なにその飲みたい欲を一気に消し去るネーミングセンス」


 私が作った物は、ペットボトルサイズで、風船のように膨らませた袋の中にジュースを入れている。


「ソラさんの絵がプリントされてますね! か、可愛い……! 買いたくなる……かも」


 アカリがやや引いている。


 一応、中身の飲料は他企業とのコラボだが、こちらがパッケージを開発したということもあり、利益は陰陽に大きくなるよう交渉は済んでいる。 

 あとはその企業がソラの大ファンであったことも、かなりデカかった。お陰で惜しみなく協力してもらった。


 そうして私は自慢気に続けた。


「面白いだろう。だが、これだけで終わらないのが私だ……!」


 中に入っているジュースをストローで飲んでいくと、ソラの絵が徐々に萎んでいく。


「し、萎んでってる……! ソラさんが! 栄養を吸われてるみたい……!」

「思いっきり吸うと、声を出すぞ」

「本当ですか!?」


 さらに私が勢いよく吸うと、袋から音がした。


「うわ~」


 ソラに近いやる気のない声である。

 これはストローと袋の形を調整することで、それっぽい音を出しているに過ぎないのだ。コストもかからない、かなり凄い代物だ。


「なんであんた、そんな才能があって、こんなもの作ってんのよ……才能の無駄遣いじゃない……」

「アカリさん! 何を言うんですか!」

「そうだぞ、ソラの面白玩具なんて何個あっても困らないんだ」

「そ、そう……」


 リカも一緒に飲み始め、楽しそうにしている。

 これを発売すれば、今やっている他の豆ジュースを簡単に超えることもできるだろう。


 ふふふ、やはり私はソラのことになると天才かもしれない。


「で、あんたさ、それソラにちゃんとオッケーもらってんの」

「いや、まだだ。どんな反応するか分からない」


 ソラなら『オッケー!』と言いそうな気もするが。


「じゃあ、まず反応はアオで試してみたら? ダメそうだったら改良してソラに見せればいいし」

「そうだな、そうしよう」


 *


 そうして、カツさんの配信で食レポを終えたアオを連れてくる。


 アオはソラ汁をチューチューと吸っていた。


「ど、どうだ……?」

「おいしー」

「いや、そっちじゃなくて」

「……? おいし~!」


 聞こえてないとアオが思ったのか、ちょっと大きめに言う。


「……なぁ、人選ミスじゃないか?」

「私はカツさんに聞くべきだったと思いますね」

「やめて、私を責めないでよ」


 意見が一度まとまり、カツさんに見せた所、「業が深い飲み物だね……」と言われた。

 ふむ、そういう意見になるのか。 

 

 まぁ、問題はないということでソラにも確認したところ無事に許可をもらい、公式として発売することになった。


 実験のため、短い期間の発売だが、きっと気に入ってもらえるだろう。


 *


 ネットからの反応。


【上野ソラ】”公式からソラ汁が発売された時のネット民の反応集”

 

『業が深すぎる』

 

『まさかの公式からソラ虐』


『なんだこの飲み物は……』


『公式の頭がおかしい』


『銀髪の子が考えたらしいけど……あの子も平安狂なんじゃないか?』


『ソラ汁でうわ~って声がするのヤバすぎるだろ』


『好きすぎて食べちゃいたい、を現実にした商品』


『他の中途半端な豆ブームを終わらせにきた商品』


『公式の方が強すぎるってヤバいなwwwwww』


『ぶっ飛んでるわ』


『これ使って大量の動画できそう』


『狂ってる』


『公式供給助かる』


『みんなでソラを飲もうって説明が終わってて草』


『どんな状況で飲むんだよこれ』


『電車の中でこれ飲んでる人がいっぱい居て、「うわ~」って声が流れてくるたびに笑っちゃうw』


『ジュースで日本を笑顔にした男』


『私たちは今日もソラを吸います』



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