33.術式の修理/御影の家
その日はダンジョン配信とかではなく、雑談配信であった。
ダンジョンに潜ることも考えたのだが、それよりも先にやるべきことを済ませようと思ったのだ。
その過程を配信するべく、今日は雑談として枠を取っている。
今回はサクヤのトラックを一部使って、作業場として配信中だ。
ボウボウ、と軽く炎が手から出る。
「うーん……これは参ったな」
”マジックみたい”
”第七術式の炎っぽい”
”これをどうすんの?”
”アオがジーっと眺めてて草なんだ”
「アオとの戦いで、第七術式を一時的に壊したと思うんですけど……それで完全に術式がイカレちゃって」
少し前、ダンジョン内部でアオとの戦闘時、『一緒に印を組もうか』と言って、第七術式を一時的に使えないようにした。だがその後、俺は無理やり第七術式を使って、完璧に壊してしまったのだ。
「流石に無茶苦茶な使い方したからなぁ……」
腕があるだけ、まだマシなのかもしれない。
”術式が壊れたらどうなんの?”
”じゃあもう使えないの?”
「それを今から直す配信ですね~」
”……?”
”え、直せるの……?”
”そんな機械を直すみたいにw”
”ガチ?”
それを聞いていたアオも驚く。
「それ、知らない」
「アハハ、本当だよ。ほらアオ、おいで。教えてあげるから」
アオは俺と同じで、多くの術式が使える。
知識の一部を引き継いではいるようだが、全てではないようで、分からないことも多くあるそうだ。
教えられるところは俺が教えて、常識とかはカツさんに一任しよう。
”ソラが増えた”
”可愛いなこいつらw”
「術式の修理は、すべての陰陽師ができることじゃないよ」
俺は分かりやすいように、視聴者にも伝えていく。
「そもそも、第五術式までしか使えない人が殆どだったんだ。それだけ使えれば十分だけど」
基本の形、というのが非常に分かりやすいかな。
そこから先の第六術式や第七術式と、自分で派生を作っていくことが多かった。
”ほえ~”
”面白いな”
”自己流になってくってことか”
「そうそう。それを見て、同じ術式が欲しければ頼み込んで教えてもらったり、一緒に作ったりする」
俺は壊れた第七術式を摘出する。
「第四術式展開……呪式浮世」
俺の腕から青色の文字列が出て、目の前に浮かぶ。
アオが声を漏らす。
「おぉ……!」
「綺麗だよね」
術式の色は、人によって異なる。
かなり前にも説明したが、医術に向いている陰陽師もいたのだ。
そういう人間は赤色。呪詛や人を呪うことに長けた陰陽師は紫色。
すべてに長けた人間は複雑な色を持っている。
そして、一番平凡な色が青色だ。
「僕も、僕も出したい」
「えぇ? 良いけど……」
アオにも同じように第七術式を摘出する。
「アオは、自分の術式が欲しい?」
「……! いいの?」
「もちろん」
”アオ可愛いw”
”ソラがすげえお兄ちゃんやってるw”
”こういうの結構好き”
”何か兄弟愛見てる気分だわ”
”ぽかぽかする”
俺としては、ついでに術式を改造するような感覚だ。
大した労力でもないし、アオが自分を出せるようにしていくのも大事だろう。
「僕、アレが欲しい。時間を遅くする系」
「えっ……なんで」
「テレビ、もっと見れる」
あっ、そういうこと。
「まぁ出来なくはないけど……」
”え、出来るの……?”
”ソラ、それガチ?”
”冗談だろ……?”
「出来ますよ」
アオがパチパチと拍手する。
「ソラ、凄い」
「アハハ……まぁ、とりあえず術式直しますね」
術式の修理は慣れている。過去に何度も壊してるし……今回のような例は初めてだが。
第四術式で術式を摘出し、浮かんでいる文字列を調整する。
必要なら書き換えたり、作り変えたりもする。
今回の場合は、壊れている文字を取り出し、新しく文字を入力していく。
呪力で文字を刻み、術式を修復。
片手でアオの術式も改造していく。
「こことここの文字を入れ替えて……」
”はっやwww”
”なんかむっちゃ眼を動かしてるwww”
”すげえなwww”
”何してるか分からんwww”
”ハッカーみたいな動きしとるなw”
数分もすれば、完全に術式の修理が終わる。
「ほい、アオ」
浮いている術式をアオの元へ戻す。
「ありがとう、ソラ」
それだけ言うと、アオが「わ~」と外へ駆けだして行く。
さっそく新しく得た術式を使いたいようだ。
「可愛いよなぁ……あいつ」
ついつい、幼い頃の晴明を思い出してしまう。
”お前もだぞ”
”ソラ、お兄ちゃんみたいでいいね”
「よし、俺もちゃんと術式が直ってるか確かめたいので、外に出ますね!」
アオと同じように「わ~!」と駆け出す。
” 兄 弟 ”
”この兄弟終わりだよ”
”このお兄ちゃんもうダメです”
”アホしかいねえwww”
”素でやってんだろうなこいつwww”
”ソラとアオそっくりじゃねえかwww”
その後、外に出た。
アオは時間を遅くする系の術式を手に入れ、満足していた。
「これで映画がたくさん見れる」
”絶対アカン”
”ろくなことになる気がしないwww”
”なんでも吸収するからある意味怖いwww”
俺もスメラギを参考にして作った、思い出深い術式が直ったことを確認する。
「第七術式展開……炎華」
ボウッ、と花のように炎が広がる。
うん、ちゃんと直ってる。
”そういえば、第七以降はフル装備って言ってたけど”
”言われてみれば、気になる”
「今は持ってないんですよね~。誰かが俺の装備を持ってるとは思うんですけど……」
”え?”
”どういうこと?”
*
御影アカリは、部屋でソラの配信を見ていた。
御影一族の本家は、現代ではお祓いや悪霊退治……それに準ずる仕事をしている。
本家がある場所は塀で囲まれた和風な家であり、東京でもそこそこの場所に建っている。
かなり広いため、使用人も雇っているのだ。
「アカリ~! アカリ~!」
「あ~、もうママうるさい! なに!?」
「パパもママも見たわよ!? 陰陽師の人とコラボしてたわね!?」
「コラボじゃなくて、共闘」
あれから御影アカリは、自宅に戻っていた。
一か月の家出も、ソラの一言で帰ることにしたのだ。
ソラから『家に戻った方がいいよ。親御さんが心配してる』と言われ、渋々帰って来たのだ。
軽い説教をされたのち、しばらくは自宅にいるようにと言われてしまった。
(アイツに言われると嫌でも従う私がほんと悔しい……なんでなのよ)
ぐぬぬ……とアカリが悔しがる。
「あの人とは結婚するの? ねぇ、いつ結婚するのかしら? あんなに強くてカッコいい陰陽師の人なら、アカリも満足じゃない?」
「けっ! あいつとはまだそういう関係じゃないから……! ほら、出てって!」
慌ただしい足音が近寄って、アカリの父親が出てくる。
「妻よ! お赤飯が炊き終わったぞ!」
「まぁ! アカリちゃんも食べる?」
怒る気力も失せたアカリが、肩の力を抜く。
「はぁ……陰陽師ってそんな大事?」
アカリの両親が困ったような顔をする。
さも当然だ、と言いたげだ。
「短命の呪いを解いて下さったのが、陰陽師なのよ? その恩を返さないと……」
「我が家の蔵にも、それに関する書物はたくさんあるぞ。本当だからな!」
「あっそ……蔵に平安時代のものがたくさんあるんだっけね」
どうでもいい、と言いたげにアカリが視線を逸らす。
(陰陽師じゃなくても、別にソラみたいな人なら……)
「蔵には凄い宝物がたくさんあるんだぞ~。安倍晴明から受け継いだ物もあるらしいしな! 『これは恩人の物だから、大切に守れ』って言われてるらしいぞ!」
「なにそれ。そんな大昔の約束を守ってるとか、馬鹿じゃないの……待って。蔵……」
(ダンジョン配信事務所の陰陽の打ち上げ以来、私はソラと会ってない……てか、会う理由がない)
でも、とアカリが考える。
(陰陽師関連の蔵があって、それを配信して欲しい的なお願いなら……理由としては十分じゃない?)
「ま、ママ……テレビでよく、開かずの金庫みたいなのやってるじゃない?」
「え? えぇ、そうね」
「それに近いこと、やってもいい?」
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