31.始まり
二章スタートです
いつもの配信機材を積んでいるトラックで、俺たちダンジョン配信事務所陰陽のメンバーは集まっていた。
無表情のまま、アオが呟く。
「人間、友達。人間、食べない。人間、助ける」
あぁ、また可哀想なモンスターみたいなこと言い出した。
「今度は何見たの?」
「……ゾンビ映画」
カツさんは一体何を見せたんだ。
……あれ、この前に『勝手にテレビの映画見てるんだよ~』って言ってたっけ。
いつの間にか人称も僕になっているし、性格も俺からどんどん離れて行く。
式神化したものの、俺はアオを成長させたいから比較的自由にさせている。
ほぼカツさんに押し付けているが。
だって俺、人に何か教えるの苦手だもん。晴明からもよく怒られたもん。
教えるの下手クソって。
今日は、カツさんが妹さんとの面会で、俺とアオ、それにサクヤの三人しかいない。
「おい、アオ。私の話を聞いていたのか?」
「アイルビーバック」
アオはキラキラと眼を輝かせながら、親指を立てる。
思わず俺は頭を抱える。
「とにかく知った言葉を使いたい時期なのね……」
分かる、分かるよアオ。
俺もそういう時期はあった。
深くは触れない方がいいだろう。
「……ふむ、そうか。今日は私の独り言デイか……」
「ちゃんと俺は聞いてるよ! サクヤ!」
なんで信じられないって眼をするんですか、やめてください。
ちゃんと聞いてます。
サクヤ曰く、アオの人気はグラビトに並ぶと予測しているらしく、カツさんの配信で一緒に配信してもらっていた。
カツさんは料理系配信をメインにしてやるが、その味をカツさん以外の人間の反応があった方が面白いのではないか、と考えたのだ。
ただし、語彙力の乏しいアオでは何を食べても『うまい』や『おかわりある?』しか言わないため、コメントからも”お前もうコメントやめろwww”とか”ただ飯食ってるだけじゃねえかwww”とツッコみが相次いでいた。
……一体、誰に似たんだ?
*
少し離れた場所で、その会議を覗いている人達が居た。
それはヴァルと、グラビトである。
「一体何の話をしているのでしょうか……」
「また私のグッズ発売の計画ではないだろうな……! あの銀髪娘め……!」
「私はあなたが羨ましいですよ……ファンも多くいて」
「なんだと!? なら、お前も狸姿になってみるか!」
「なれるものならなりたいですよ! 女性から『可愛い~!』とか『抱っこしたい!』って……私だって抱っこされたいですぞ!!」
「そのデカい巨体で気持ち悪いことを言うな! なんだ、その眼は……私とやるのか!」
グラビトは狸の前足を伸ばし、シャーッと威嚇する。
「わざとやってるんでしょ。その威嚇も可愛いと思ってわざとやってるんですよね!」
「狸の威嚇を知らぬから、レッサーパンダを参考にしておるのだ!!」
「あ~っ! やっぱりわざとだ! この人は本当に……!」
「あの銀髪娘が、これが人間界だと一番恐れられている威嚇と言っておったのだ! 私のせいではない!」
「人のせい!! そうやって自分が可愛いのを────」
その騒ぎ声は、会議中のトラック内にすら聞こえていた。
サクヤが溜め息を漏らし、頭を抱える。
「カツさん……早く来てくれ……私一人じゃ、この自由人どもを抑えられない……」
「アオ~、今日何食べる~?」
「ソラマメ豆腐、ソラマメ汁、ソラマメ炊き込みご飯」
ソラが指を鳴らす。
「それにしよう! わーい!」
ソラとアオが、一緒にばんざーい! と夕食を決定する。
サクヤが両手で顔を隠す。
「カツさん、カツさん……!! 頼むから早く来てくれ……!」
*
一方そのころ、病弱の妹へ会いに来ていたカツ。
「お兄ちゃん? なんか最近手土産が豪華だね」
「ちょっとお金に余裕ができるようになったんだ~。ほら、お兄ちゃんも配信者ってのを始めてさ」
「へぇ! お兄ちゃんずっとやってみたいって言ってたもんね! 歳だから~って変な言い訳してやってなかったけど」
「アハハ……まぁねぇ……だから今は凄く楽しいんだ」
心底楽しそうな表情をするカツに、妹が驚く。
「……お兄ちゃんのその顔、久々に見た」
「え? そうかな」
「そうだよ。ずっと辛そうにしてたし……ねぇ! その配信者の人たちに会ってみたい!」
「え、えぇ~……」
カツが視線を逸らし、渋い顔をする。
「ダメだったりするのかな」
「ダメ……じゃないけど、だいぶ変人というか……会うと混乱すると思う」
「え?」
「凄く良い人たちなんだけど……自由人すぎるから……」
カツが思う。
(今日は俺抜きで会議してるけど、凄く胸騒ぎがする。なぜかサクヤさんが俺を呼んでいる気がする……き、気のせいだよな? なんかすげえ心配なんだけど……! 今頃、どうなってんだあっち!)
「……うん、気にしないでおこう」
「な、なんか凄い人たちなんだね……」
「あぁ、とにかく凄い人たちだよ。尊敬できるくらい」
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