30.最後のページ
あれからしばらく経ち、いつも通り配信をしていた。
「どうも~、ソラです~」
”こんちゃー!”
”ソラマメ~!”
”配信きちゃ~!”
「今日はですね~、新しい仲間を紹介しようと思ってまして~」
「初めまして。アオ、です」
”ふぁ!?”
”ソラと髪型違うソラだ!”
”あのコピーだった奴じゃね!?”
”髪切ったのね!”
”うおおお! 式神化して出てきた~!!”
”なんかこっちの方はやる気ない感じだなwww”
”アオとソラで青空ってことねwww”
「僕は……喋るのが苦手です。仲良くしてください」
”草”
”素直でよし”
”可愛いね”
”仲良くするわw”
「よろしくお願いします」
ペコリ、とアオがお辞儀をする。
コメントはアオの質問で埋まっており、その間、俺は画面外にいた。
「見てよ、サクヤ。凄いよなぁ、俺たちのアオもあんな立派になっちゃって……」
ポロリと泣きそうになる。
サクヤが唖然とした面持ちで言う。
「私もお前も特に何も教えてないだろ……」
あれ、そうでしたっけ。
まぁいいや。
「教えたの俺なんだけどねぇ……ハハハ」
俺たちの陰陽で最も常識人であるカツさんが、アオを仕込んでいた。
お陰で、人間は友達、とまるで心優しきモンスターみたいなことを言い出している。
まぁ、良い事だけどね。
あとで、御影一族のアカリにちゃんとお礼を言わないと。
俺一人なら、アオを倒すことはできなかっただろう。
それから、その配信は無事に大成功を収めた。
アオは俺と外見が一緒であったこと、アホな性格が非常に似ていたことで、がっしりとファンの心を掴んだのだ。
それを見ていたヴァルは唯一、「私だけ……ファンが一番少ない……」と嘆いていた。
グラビトはその狸の外見から女性人気が非常に高く、グッズを作る計画をサクヤが立てているのは、言うまでもない。
*
その日、配信を終えたソラたち。
ソラの後ろの方には、サクヤのトラックがある。
サクヤやカツさん、アオ達もそこにいる。配信終わりの宴と、アオの歓迎会だそうだ。
カツさんが来てから、こういうことをするようになった。
俺たちなら面倒臭がってやらないだろうしね。
アオが呟く。
「ソラマメ豆腐……うまい……」
俺が呼んだ将軍ことアカリが唸る。
「まぁ……うーん、私も嫌いじゃない」
俺は丁度良い柵に座り、スマホを見る。
そこには、陰陽師についてのテレビ放送がやっていた。
────安倍晴明の日記。
まさか、こんな形で晴明の日記を読むことになるとは思ってもいなかった。
「ソラ……?」
離れた所で、サクヤが小さく呟いた。
微笑んで柵に座っているソラは、とても小さく見えた。
スマホから音が漏れる。
「『一体誰に向けた内容なんでしょうかね……? これ』」
「『さぁ……日記の最後の一枚だそうですが……』」
そうして、最後のページが読まれた。
*
平安時代。
小鳥のさえずりが聞こえる。
すぐ傍には、ソラがよく座っていた縁側があった。
その近くで、晴明が日記を前にする。
静かな空気の中、晴明は筆を握った。
「……」
あなたが居なくなってから、どれほどの時間が経ったのでしょうか。
私は一人、あなたが居た縁側に座り、空を見ています。
あなたが座っていた場所を手で触り、風を感じ……これまで、確かにここに居たのだと……。
『うん? なに?』と言ってくれた優しい声。
いまだ、鮮明に覚えております。
あの声が好きだった。
権力者になりたくて来たのに、本物の陰陽師になりたいと……あなたが私を変えた。
先輩。あれから私はちゃんと、正規の陰陽師になりましたよ。
もう見習いではありませんよ。
凄いでしょう。あなたならきっと、褒めてくれると思います。
よくやった、偉いぞ、凄いぞ……と、また頭を撫でて欲しい。
ただ……それだけが欲しかったのです。
アハハ……もう子どもではないのに、こんなこと、恥ずかしいですね。
でも私は……あなたの前では、純粋な一人の少年なのです。
あなたが居なくなってから、気付いたことがたくさんあります。
私は愚かですね。
気付くのがもう少し早ければ、辛くなかったのに。
もっと傍に居て欲しいと、素直に言えばよかった。
あなたが大好きであると、伝えればよかった。
居なくなってから、こんなにも苦しいと思うのなら……初めから伝えればよかったんだ。
ポツポツと、紙にシミが付いている。
……御影一族が、私に協力するようになりました。小さかったあの子も大きくなって、私を手伝ってくれています。
相変わらず、我儘な子ですが。
陰陽師の中でも、私一番強くなったんです。
あなたとの約束通り、人をたくさん助けています。
いつかはあなたを超えられるように────。
超えてみせますから、見ててください。そしたらどうか、また褒めてください。
この言葉も、きっとあなたには届かない。
────届くはずがない。
分かっています。でも、ずっと言いたかった。
あなたのお陰で、救われた命がたくさんある。
あなたのお陰で、人々が笑顔になった。
それを私はこの目で見てきました。あなたが歩いた道があるから……私はここにいる。
私の最も大切な人────ソラへ。
私の世界を変えてくれて、ありがとう。
*
それをスマホで見ていたソラは、静かに呟く。
「ちゃんと届いてるよ。晴明」
晴明が恥ずかしくて言えなかったことくらい、知ってるよ。
スマホからは『なんだか寂しい日記ですね……』や『平安時代のラブレターみたいなものでしょうか?』と続いていた。
アカリが叫ぶ。
「あ〜! ちょっとそれ私が食べようとしてた寿司!」
「……早い者勝ち、カツが教えてくれた」
「俺、そんなこと教えてないよ……? あれ、アオくんさりげなく俺のせいにしてる?」
アオの教育はカツさんに一任している。
たまに胃を痛めていた気がするけど、気のせいだろう。
「ソラ~! グラビトがグッズ化されるのを嫌がっているんだ! 説得してくれ」
「オッケー」
ひょいっと柵から降りて、サクヤの元へ向かう。
風が吹く。
思わず、その風から空を見た。
透き通るような、美しい空があった。
あの時、縁側で交わした約束を、あの小さな子が果たしてみせた。
あんなに小さくて、ふふんっ!としているような子だったのに。
大きくなったんだね。
……晴明。約束を守ってくれて、ありがとう。
「晴明。お前は、凄いよ」
俺たちは同じ空の下に居る。
そこにある空は当たり前だ。
でも、その当たり前が、凄く綺麗に見えるって……とても、とても幸せなことだと思うんだ。
だから、俺は空が好きだ。
当たり前の世界が、とても美しく見えるから、この世界は綺麗なんだよ、と。
誰かが教えてあげなくちゃいけない。
誰かが示さなくちゃいけない。
そう思うんだ。
だから、俺は人を救い続けるだろう。
配信者兼陰陽師、上野ソラとして。
一章終わりです
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