25.第二のイレギュラー
ソラが急に後ろを振り向く。
「────────ッ!」
なんだ、この気配。
ダンジョン内部の空気が変わった。
この圧し掛かるような重い威圧……ボス部屋の方からだ。
「インゲンを~、育てるんです~」
「あれ、ソラさん?」
”ソラ?”
”急にどうしたんだソラ”
”こっち向いてくれ~!”
”カメラこっちだぞw”
”あれ、気付いてない?”
サーッ……と瞼を僅かに下げる。
まだ、遠いな……。
「はぁ……はぁ……はぁ!」
冒険者が数人、走ってきた。
その姿は傷だらけで、必死な様相をしていた。
「た、助けてくれ!」
「ボスが、部屋から出てきた!」
「あんなの勝てねえ!」
「おかしいって、ねぇ絶対おかしいってあれ!」
「魔法通じねえし、攻撃も魔法じゃないぞあれ!」
そうして、ようやくこちらに気づく。
俺の顔を見て、彼らは小さな悲鳴を上げた。
「ひっ────!!」
「なんで!?」
「嘘だろ……!」
”ふぁっ!?”
”上位冒険者じゃん!”
”えっ、下層でパーティー組んでたら普通にボスも倒せそうな人たちだけど……”
”俺知ってる! この前下層クリア100回達成した堅実なパーティーだ!”
”えっ……その人たちが下層ボスから必死に逃げてきたの?”
”ヤバくね……?”
「結界に入ってください」
「えっ……」
「早く」
俺の真剣な声音に、警戒しながらも結界内に入る。
どうやら大神リカやインゲンさんがいたから、俺のことを警戒しつつも安心していたようだ。
俺をやけに怖がってる……。
「あ、あのソラさん……? どうしたんですか?」
「俺は呪力が見えない。だけど、感じることはできるんだよね」
可視化できるほどの濃密な呪力があるだけ。
細かい流れや、力を測ったりすることはできない。
でも、感じる。
これは魔力でもなんでもない。
このボス……呪力を持っている。
しかも間違いなく、強い。
冒険者たちが叫ぶ。
「ぼ、ボスが来るぞ! ここから逃げないと……!」
「……っ! ソラさん! 逃げましょう! インゲン豆さんも!」
「え、えぇ!? せっかく畑が出来たばっかりなのに……」
結界から出て、逃げようとする彼らを静止する。
「ソラさんのこの感じ……東京ビアドームの……!」
”ソラの雰囲気が違う……!”
”真面目モードだ……”
”ヤバい奴……?”
”ガチ?”
”え、どういう状況?”
濃密な呪力の塊。
妖怪や悪鬼の類ではないな……。
「誰も────」
その言葉に、全員の足が止まる。
呪力を込めずとも、彼らは肌でその意味を理解する。
「結界から、出るな」
ズドォォォンッ……! と重い振動がダンジョンに走る。
声が響いた。
それはよく聞き慣れた声だ。
「『第六術式展開……』」
リカが呟く。
「嘘……!」
”まじか……!”
”第六術式!?”
”ふぁっ!?”
”ヤバくね……!?”
「ヴァル、グラビト」
「御意」
「まったく、人使いの荒い……」
ヴァルが盾を構える。
グラビトが重力魔法を展開した。
「来るぞ────」
その場にいた全員が息を呑む。
「「「────ッ!!」」」
「『鳴神呪響』」
シィィン……とした刹那、奥の暗闇からダンジョン内を無数の雷撃が走った。
不規則な軌道で行き先が読めず、すべて神速。
その膨大なすべてが、こちらの結界に向かって放たれる。
もはやそれは、魔法の次元を超えていた。
「第二術式展開……呪層壁」
「魔害盾」
「星の重力」
ペタペタ、とグラビトが足踏みする。
俺が壁を展開し、ヴァルの盾で呪力を少しでも減らしつつ、重力魔法で勢いを殺す。
”無数の雷……!”
"眩しぃぃぃっ!”
”うおおお! 画面が凄いことになってる……!”
”ヤバすぎる……!”
”こんなの、どうして防げるんだ?”
”すげえ……”
誰かが呟いた。
「凄すぎる……」
大きく砂埃が舞う。
雷の雨が止むと、自分たち以外……結界の外は壁が深く削れ、穴が開き、もしも結界の外に居たら……と想像したくもない。
「お返しだよ……第六術式展開」
瞬発的に、濃密な呪力が放たれる。
「神雷」
ビュンッ! と一本の大きな雷を放つ。
無差別な小さな雷とは異なり、真っ直ぐ一本の早い攻撃であった。
”ふぁっ!? こっちもか!?”
”何だこの戦い……!”
”お互いに姿見えてないのに大技ぶっぱか!?”
”すげえええ!”
バァァンッ! と音が響く。
「当たったんですか……!?」
”やったか!?”
”フラグやめろよ!”
”いや……第六術式をいきなり見せられてビビってる……”
”鳥肌やべえ……!”
”ガチかよ……”
”第六って雷なんだな……”
”なんで雷なんだろ……!”
「……」
ふぅん……そういう感じ。
予想していたよりも、厄介だな……。
てか、こんなのがダンジョンにいるなんて聞いてないよ。
こういう案件は基本、陰陽師の仲間に任せていた。
平安時代、俺は絶対にやってはならない依頼があった。
鏡写しの依頼、心を読む妖怪の依頼、乗っ取る力が強い妖怪の依頼だ。
それは……帝から直接言われた禁止事項であった。
『お前が敵になったら────誰も倒せない』
「みなさん、俺が警戒してる奴いるって……言いましたよね」
”そういえばさっき……”
”えっそれってまさか……”
「……俺自身ですよ」
砂埃が落ち着き、ようやくボスが姿を現す。
それは……薄い色をした上野ソラであった。
*
配信を管理していたサクヤが、すぐに接続を繋ぐ。
「……っ! カツさん、緊急事態だ」
「『えっ、なに。ちょうど今、苦戦してた蟹の調理が……』」
「ソラの救援に向かって欲しい」
「『えっ、ソラくんの!? ……分かった。どこ?』」
*
ダンジョン管理センターは、のんびりとした空気だった。
「いやぁ、安西ミホの奇跡以来、なんか静かですね~」
「アハハ! そうだよなぁ、聞いたか? あれからイレギュラーが一度も起きてないらしいぞ?」
「おぉぉ……! 数年ぶりじゃないですか!? そんな奇跡!」
「俺たちも、こうしてのんびりできるから本当に良いよなぁ……ここ一年、なんか変だったもんなぁ」
ここ一年のグラフに目を通す。
それは急激なイレギュラーの発生率上昇と、危険度が増しているとの報告であった。
「急に一年前ごろから、おかしくなったんだよなぁ……」
「そういえば、配信者ソラくんも一年前から活動始めたらしいですね。人気が出たのは最近ですけど」
「まさか、そのせいだったりしてな! ハッハッハ!」
「やめてくださいよ~、そんなのある訳ないじゃないですか。一人のせいでダンジョンが一気に活発的になるなんて」
呑気に話す二人の職員の前に、局長が立つ。
「お前ら……ダンジョンを何も分かってないな」
「えっ、局長!?」
「す、すみません……雑談しません!」
二人をキッと睨み、ため息を漏らす。
「いいか、ダンジョンのイレギュラーが長いこと発生しないということは……」
経験上から、局長は知っている。
これまでのイレギュラー発生とその危険度。
これは地震と同じなのだ。
「次はバカデカいのが来る」
投稿する回を間違えたお詫びで今日はもう一本投げます。
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