24.畑を耕す/赤髪の将軍(side)
すみません
出す回間違えました
榊原カツが飲み物を作って、サクヤに渡す。
エプロン姿が非常に似合っており、ダンジョン飯料理系配信者として、その地位は盤石のものとなりつつあった。
「サクヤさん、本当に良いの? リカちゃんも混ぜちゃって」
「大神リカ本人も、『事務所のかなり上の人たちから、コラボしないとダメでしょ』と言われたそうだ。事故でああなってしまったら、断ろうにも断れないだろう」
「あぁ……インゲン豆さんね。配信切り忘れって、やらかしてたもんね……。切り忘れかぁ~、普通はしないと思うけどなぁ」
カツの言葉に、静かにサクヤが視線を逸らす。
まるで思い当たる節があるような表情であった。
「そ、そうだな。普通はないな……! カツさん、そろそろ配信の時間じゃないか?」
「あっ、危ないね。今日はジャイアント蟹の料理配信だったね。ドローンは三号機で良い?」
「あぁ、一号と二号はソラの配信で使っている」
「了解~」
カツがドローンを持っていく。
「……私も切り忘れたことがあるけど、黙っておこう」
何を隠そう。
ソラマメブームのきっかけを作り出したのは、配信を切り忘れたサクヤの影響であった。
「そろそろ、ソラたちも時間か」
*
「どうもソラマメです~」
「インゲン豆ですよ~」
「…………大神、リカです……」
ふにゃっとした顔しているソラ。
テンションが上がっているインゲン女。
やけにテンションの低い大神リカの三人がダンジョン内部に居た。
”リカの反応で草”
”草”
”草”
”メンツがwww”
”異物混入みたいな感じで草”
”リカちゃーん!”
”こんちゃー!!”
「今日はですね~、ダンジョン菜園なるものを試そうと思って」
”試そうと思って、って常人なら思いつかねえよ……”
”リカが両手にスコップ持ってて草”
”なんでこいつらダンジョン来て農作物育てようとしてんだwwwwwww”
”魔物と戦えよwww”
”ダンジョン……ダンジョンとは?”
「インゲン豆さんと、大神リカさんも来てくれてます~」
「はい! インゲン豆を育てて農家やってます! インゲン豆です!」
”インゲン豆に呪われてる女”
”インゲン女”
”お祓いした?”
”お祓いした?”
”お祓いしたの?”
「別にインゲンさん、悪霊に憑りつかれてませんから……」
俺からみてもそれは間違いない。
「純粋にこの人はインゲン豆に呪われてるだけです……」
”呪われてるじゃねーか!”
”呪われてんじゃん!!”
”草”
”恐ろしや……恐ろしや……”
”恐怖! インゲン女!”
”B級ホラー並みの映画やめろ”
まぁ、そういう思考ってだけだ。
俺だって、ソラマメ豆腐が好きって言ったら『頭おかしい……』と平安時代の仲間に言われた。いや、もはやあの時は何を言っても『あいつは平安狂だからな……』と言われていた気がする。
俺の味方……どこ?
「ソラ様ぁ! 私はどこを掘ればいいのでしょうか!?」
”ヴァル! スコップ持ってる!”
「ここ掘って」
「はい!」
”ここ掘れワンワン”
”もはや犬である”
”これがイレギュラーボスの末路かぁ……”
”草”
その光景を見ていたリカが呟いた。
「あれ、おかしい……ここダンジョンの下層ですよね? 安心感が凄いんですけど……」
”慣れろ”
”安心感凄いから見るんだぞ”
”ソラなら何が来ても対処できるから……”
「一応、結界も張ってるしね。魔物は入ってこれないよ」
占術と同様、これも基礎の一つである。
リカが結界に触れる。
「ど、どういう原理なんですかこれ……凄すぎませんか?」
「境目を立ててるだけだよ。あちらの世界とこちらの世界、妖怪の話とかで、そういうのたまに聞かない?」
「私、そういうのは疎くて」
”俺も分からない”
”ソラってすげえ昔の知識知ってるよな”
”日本人が好きなホラー話とか上手そう”
”そういう話もっと聞かせて”
”妖怪の話聞きたいかも”
”よく分かんね~w”
「えーっと、かみ砕いて言うと、例えば橋とか、道と道の間を繋げるものじゃないですか。それを壊して渡れないようにする、というのが分かりやすいですかね……?」
橋がなければ向こう側に行くことはできない。
そのイメージで魔物だけが通れないようにする。
それが俺の使う結界だ。
平安時代の奴らには、『お前の場合は参考にならん』と言われていた気がする。
例え方が悪かったのかなぁ……。
「ソラさんが本当にそのイメージで結界を作ってるのなら、人間も通れないんじゃ……」
「人は通れるよ。その時に橋だけ作る感じで」
「え……?」
”訳わからなくて草”
”ソラは説明が下手くそだからな”
”まさか、作って壊して作って壊してを繰り返してるって感じか……?”
「そうですそうです! その例え、良いですね!」
”褒められた……!”
”なんだその拷問みたいなイメージ……”
”意味不明で草”
「まぁ、やや使い勝手は悪いんですけどね」
だから、戦闘では呪層壁の方が便利で使い勝手が良い。
あっちは色々と属性も付与できるしね。
指定した位置に出現させ、消したり、増やしたり……将軍もそれで混乱していた。
”ソラって敵居なさそう”
”こいつに叶う奴いないだろwww”
”お面白れぇ男”
”敵なしだよなぁ……”
「俺もいますよ、警戒してる奴」
「え……? あのソラさんが……?」
”え……”
”ガチ……?”
”ソラですら警戒する敵って誰?”
”すげえ気になる……!”
「アハハ……秘密です」
これはちょっと言えない。
傍にいたグラビトは察しているようで、「……隠すことでもなかろうに」と呟いていた。
本当に警戒してるから、下手に口に出来ない。
もしも出現したら、厄介どころの話ではない。
まず、倒せない。
言ってはならない、見てはならない……という系統ではないのだが、単純にこれは俺の問題だからだ。
まぁ、絶対に会うこともないだろうけど────。
インゲン女が両手いっぱいに肥糧を持ち、ヴァルが耕した場所を均していく。
「いやぁ、ここのダンジョン……とても野菜の育ちが良いんですよね~」
”この会話の隣でせっせと農作業してんの草”
”おいwwwこれコラボだろうがwww”
”コラボに混ざれwwwwwww”
”リカがちゃんと話引き出してるのに、この女……!”
”コラボの意味とは”
”キャラブレねーなぁ、インゲン女w”
”この雰囲気すこ”
”マジで見てて楽しいなw”
”飽きねえw”
俺もせっせと苗や種を運び、準備をしている。
俺も野菜植えないとな~、とのほほんと畑を耕す。
リカが頭を抱えていた。
「コラボ、コラボとは……? これ、ただ畑耕してるだけじゃ……? 私のソラさんとの初コラボ……」
ベテラン配信者であるからこそ、本当は彼女が仕切るべきなのだろう。
俺も誰かとコラボしたことないしなー。
でも、こういう集まって勝手に各々が色々とやってるのも、悪くない。
”てか、そのダンジョン……将軍と同じところじゃね?”
ビクッ、と俺の背中が固まる。
”あっ、反応した”
”将軍で反応したwwwwww”
”下層だから会わないとは思うけど……将軍って鼻良いよな”
「将軍……眼が怖い……」
あれは何日もご飯を食べず、戦いながらお腹を鳴らす子……それがあの子のイメージだ。
御影一族って、現代だと貧乏なのかな……当時は超が付く程の大金持ちだったけど。
”眼ってwww”
”そんな変な眼してるか?w”
”血走ってる落ち武者だからな”
”将軍~! 俺は赤髪が好きなんだ出てくれ~!”
”あいつ配信者じゃないからな”
「へぇ、将軍って配信者じゃないんですね」
じゃあ、一人で活動してる冒険者なんだ。
まぁ、御影一族の力があれば、深層でも生きてはいけるだろう。
”将軍は引き籠りだから、深層から出てこないだろw”
”引きこもり将軍で草”
”もしかして会ったりしてなw
「いやいや~、流石にないですよ~アハハ」
ここは下層だし、彼女は深層から出てこないだろう。
*
ソラたちと同じダンジョン。
その深層にて、赤髪の女が居た。
「あむ……この保存食、意外とおいしい」
ソラが渡した保存食は、将軍の口に合っていた。
「はぁ……強かったわね、あの変な奴」
将軍は負けを知らない。
小学生の頃から、同年代や年上の男子であろうとも、間違っていれば襲いかかって勝っていた。
悪口を言ったら謝る。
酷いことをしたら謝る。
怪我をさせたら謝る。
どれも当然のことだ。
なのに、みんなはそれができない。
「よいしょっと……あ~! あたしの馬鹿ぁぁぁっ……」
唐突にソラとの戦闘を思い出し、頭を抱える。
いくら空腹だったとはいえ、冷静に考えるとあれは横取りに近かった。
(数日も何も食べていなかったとはいえ……あぁぁっ! やだやだ、恥ずかしい……)
しかも、逃げられた。
ソラとの出会いから、もうずっと引きずっている。
謝れれば良いのだろうが、将軍はソラの名前すら知らない。
(深層から出たくない……外に出れば、また一族の話になる……)
「陰陽師なんかと結婚したくない……」
過去、御影一族はとある陰陽師に救われた。
それによって寿命の呪いがなくなり、天寿を全うできるようになった。
それでも、魔を祓って呪障を回復しなければ、体調が悪くなったり、空腹感が増す。もしも放置していれば、次第に病になることだってある。
救ってくれた陰陽師へ感謝の意を込めて、一族は仕えることになった。
「だからって……陰陽師と結婚する仕来りなんて……馬鹿みたいじゃん!」
時代の変化と共に、陰陽師は薄れ消えて行った。
しかし、その名残りは残っている。せめての恩返し……と御影一族は陰陽師の血だけは絶やさずにいた。
(親が決めた結婚相手……しかもそれが一族のためなんて嫌! 絶対に嫌よ! 私は私が恋した人と結婚するの!)
将軍の名は、御影アカリ。
頬を赤く染め、膨らませた。
「私だって素敵な恋、したいじゃない……」
親への抗議の意を込めて、御影一族から、家出していたのだった。
金がかからず、人が来ず、食料がある場所。それはダンジョンの深層しかなかったのであった────。
「でも、あの男……黒いもじゃもじゃが見えた……」
冷静になって、アカリはソラとの戦闘を思い返す。
昔から、アカリには黒いもじゃもじゃが見えていた。
呪障の力があったため、危険な目に遭っても乗り切ることができたのだ。
(本当……何者なんだろ……)
一人ぼっちの環境にいたアカリは、ふとしたことでもソラのことを考えていた。
自分のやらかしを反省しているが……それ以上に気になっていた。
黒いもじゃもじゃについて、一族の人間に聞いても誰も分からない。
だからアカリは考え、答えを導きだしていた。
(黒いもじゃもじゃは危険────あの男も危険、なはず……だけど、怪我させられなかったし、ご飯も置いてってくれた……)
さらに考えがまとまらず、かきむしる。
「あぁぁぁぁあ! もう分かんない……! 会いたい……もう一回会いたい! そしたら、謝る……謝る……」
ブツブツと呟いて、槍を手に取る。
ふわっと目の前に何かが通った。
「────────ッ!!」
眼を見開き、その通った物を確認する。
「黒い、もじゃもじゃ……」
黒いもじゃもじゃが流れている。
ここから登った場所、それは下層へだ。
「彼が来てるの……? いや、でもこの感覚……なんか変……」
ソラの黒いもじゃもじゃは、見えても怖くなかった。嫌な臭いもしなかったのだ。
「もしかして、下層でイレギュラー……?」
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