表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/63

21.インゲン豆配信者


「美味しい……!」


 安西ミホが、第一声に発した言葉はそれだった。

 あれからピグデリシャスの肉を持ち帰ったソラは、カツへと食材を渡した。


 てっきりソラも料理をするものだと思っていたサクヤが、横から口を挟んだりもしていた。


「ソラは料理をしないのか?」

「出来るよ、全部メニュー古いけど。でも、今日はカツさんが主役だから」

「……そうだな」


 軽く頷いたサクヤに、ソラが詰め寄る。


「サクヤこそ料理はしないの?」


 驚いたようにサクヤが数歩下がる。


「ち、近いぞ……私ならシェフでも雇うさ。安心安全で、味も格別だ」

「そっか。残念」

「残念……? ソラ、料理は自分で作るよりもプロに任せた方が完璧だろう。素人の料理には、限界がある」


 ソラはカツを眺め、楽しそうにしている。


「確かにそうだけど、その人の想いには勝てないよ」

「想い……?」

「おにぎりとか、冷凍食品……簡単なものでも、その人の想いが詰まってれば、凄く美味しいんだ」

「冷凍食品は作られた物ではないか。手料理と呼べるのか?」


 ソラがはっきりと告げる。


「立派な手料理だよ」


 ソラは思う。


 たまに、『冷凍食品は料理じゃない!』なんて言う人がいるけれど……それは違うと思う。

 朝の忙しい時間の中で、両親が作ってくれたり、用意してくれる。もちろん自分でも作るけど。


「どんな形であれ、食べて欲しいと思って作ったら……十分なんだ。ソラマメ豆腐も、そんな想いがあったから、美味しいって思ったしね」


 ソラの視線の先には、カツがいた。


 安西ミホに、『美味しい』と言ってもらえて、とても嬉しそうな顔をしている。


「はぁ~! 良かったぁ~」


 それを見ていたサクヤが、自身の手のひらを見る。


「おにぎりでも……良い……」


(確かに、ソラはなにを食べても必ず……『美味しい』と言う。不味いなんて言ったことは一度もない。挑戦して失敗することが怖いけど……失敗してもソラなら……)


 やってみよう、と心の中で思う。


 すると、最近言われた執事の言葉を思い出す。


『サクヤ様は少し変わられました』

『私が変わった? 冗談はよせ』

『本人は意外と気付かないものですよ。サクヤ様』


 それを思い出し、悩む。


(私が誰かのために、何かをするなんて……私は、本当に少し変わったのだろうか?)


 思わず鼻で笑ってしまった。


(誰も信用しない。誰にも頼らない。誰にも……って思っていたのだがな。これも、ソラのせいか)


 サクヤは少し、変化していた。

 ソラを有名にする。その目的が変わることはない。でも、これまで自分が培ってきた考えが、ソラによって溶かされていた。


 それを、サクヤは認めた。


「ソラの為なら、まぁ、良いか……」


 安西ミホたちにドローンのカメラが向いている。

 コメントが流れた。


”カツがカツ丼作ってて草”

”カツはカツ丼好きらしいからな”

”私も食べたい……!”

”今日はカツ丼だな”

”ガツガツ! ガツガツ!”

”安西ミホが美味いって言うなら、ガチで美味いんだろうな。嘘つかないし”

”一流階級の人間すらも満足させられるピグデリシャスの肉……需要あがるな”

”乱獲が始まるか?”

”ちょ! ソラと銀髪の子を映せ! 一瞬ラブコメの波動を感じたぞ!!”

”どういうことだよw”


「いや~! 最後にいい思い出が出来て良かった~!」

「ほんと、良かったですよミホさん~……お肉がなかったら、大事でしたしね~」

「カツくん、その時は別の肉使えば良いじゃない」

「別の肉……?」


 二人の視線が、ちょうど呆然と立っていたグラビトに移る。


「……おい、何を見ておる。私は肉ではないぞ」

「狸鍋か……ありですね」

「たぬき汁もありじゃない?」

「貴様らは、なんの話をしておるのだ!!」


”草”

”草”

”扱いが非常食で草”

”ぽんぽこ狸太郎”


 コメントがグラビトの話題で埋まり、羨ましがっていたヴァルは考えていた。


(私も鎧汁なるものを開発すれば、皆様にネタにしてもらえるのでしょうか……?)


 つぷっちーのトレンドに、ピグデリシャスの肉が載り、さらに安西ミホまでもがランクインする。


 カツのデビュー、そして陰陽設立後初のライブ配信は大成功といっても過言ではなかった。

 

 その規模は既に、一介の配信者の集まりではない。誰も無視ができない勢力図が出来上がっている。


”よくよく考えたら、とんでもないメンバーで草”

”雰囲気がガチで好き”

”一緒にご飯食べてる気分になる”

”安西ミホがガチ笑いしてるの初めて見た……”

”すげえ楽しそう……!”

”えっ、誰がいんの? ここw 凄すぎw”


「今はここに……サクヤ、カツさん、ミホさん……あとヴァルとグラビトがいますね」


”規模えぐ過ぎるwww”

”すげえメンツ……!”

”これ、全部ソラのお陰で集まったんだよな……?”

”っぱソラよ”


 そうして腰を落ちつかせると、たくさんの質問が流れてくる。

 ソラがそれに答えていった。

 

(思い返してみれば、こういうタイミングを作ってなかったな)


 *


「はい、俺はお風呂派ですね。なんか贅沢してる気分で……」


”そういえば、ソラって第何術式まで使えるの?”


 あっ……前にも同じ質問をされたっけ。

 その時は確か、魔物の邪魔が入って教えることができなかった。


 コメントがさらに増える。


”第五術式はまだ結局見てない”

”将軍を相手に、途中で出すのやめてた”

”すげえ気になるんだよなぁ~……第五術式”

”陰陽師って第五術式までが基礎でしょ? 基礎から先があるんだろ?”


 ふむ……みんなしっかり見ているな。

 

「そうですね。第五術式までがあくまで基礎。そこから先はもちろんあります」


”うおおおっ……!”

”ほんま底知れねえ……!”

”流石俺のソラ”

”みんなのソラだぞ”


 みんなのソラ、か……。

 上を向く。


 天気は晴れている。

 雲もないし、快晴だ。


「確かに、みんなのソラですね」


”なんか意味深”

”ソラって空って意味でもあるのか”

”将軍どうすんの? あの子、強敵っぽかったけど”

”将軍強かった!”


「アハハ……あの子、呪障は使いこなしてはいましたけど、まだまだ未熟なので……」


 平安時代の御影一族の力はあんなものではない。

 少なくとも、力だけでいえば陰陽師の次に強かった。


 平和になったお陰で、その力も弱くなったんだ。凄く良い事だよ。

 

”煽ってて草”

”煽ってくスタイル”

”いつも通りの素で煽るソラ”


「いやいや! 煽ってるつもりないです! 信じてください!」


 *


 街中を、インゲンを持った女が歩く。


「インゲン~インゲン豆は要りませんか~」


”こいつ、またインゲン豆配信してるよ”

”インゲン豆売りつける配信とかほんま草”

”怖っ! なんだこいつ……!”

”初見か? いつもこんなんだぞ、こいつ”

”豆がつく人間には頭がおかしい奴しかいないのか……?”


 その登録者数は、数万と地道に伸ばしている。

 だがほとんどの人間は、興味本位で登録しているに過ぎないのだ。


「あっ、インゲン豆って、漢字で隠元豆って言うらしいですよ。なんかエロいですね!」


”急にどうした!?”

”何言ってんだこいつ……”

”やばい……”

”この女、とんでもねえ発言してる……”

”これで逆に人気出てるんだよ”

”どう考えても頭がおかしいだけだろ……!”


「どうしてみなさん、カリカリしてらっしゃるんですか? 困ったことがあったら、インゲン豆にでも相談していいんですよ?」


”相談できるか!!”

”絶対相談相手間違えてる……!”

”インゲン豆に相談ってなんだよ!”


 インゲン女の足が止まる。


「あっ」

「あっ……」



 

カクヨムで一話先行公開してます。



【とても大事なお願い】

 仕事をしながら合間で執筆をしています!

『面白い!』『楽しみ!』

そう思っていただけたら応援


作品のフォロー

評価の【★★★】


それらで大変モチベーションの向上に繋がります……!

よろしくお願いします!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ダンジョン配信者を救って大バズりした転生陰陽師、うっかり超級呪物を配信したら伝説になった
3月1日発売!!
クリックすれば購入ページへ飛ぶことができます
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ