19.合同配信
「こんにちは~、ソラです~」
”ソラマメきた!”
”ソラ~!!”
”俺たちのソラだ!”
”待ってた平安人!”
”ダンジョンだ~!!”
”おおおおお!”
「今日は深層から配信してます~」
すると、コメントが止まる。
”……え?”
”しん、そう……?”
”ガチかこいつ!”
”やっば!”
”さりげなくとんでもないこと言い出したぞ……!”
”確かソラの年齢で深層潜ってるの、五人しかいないだろ!”
「実はですね。カツさんと俺で、一回合同配信をしてみようって話になって……俺が魔物を狩る。それをカツさんが調理する、って流れです」
”やばwwwwwww”
”え? え? 理解が追い付かない……え?”
”魔物を……た、食べる……?”
”頭平安狂か?”
”そ、それで深層……?”
「はい! 深層の方が、魔物が美味しいらしいので!」
”狂いすぎてて好き”
”最高”
”美味しいだけで深層潜る人初めて見た……”
”ヴァルたちは!?”
「ヴァルたちなら、そこに居ますよ~。はい! 紹介どうぞ!」
「こ、こんにちは視聴者殿たちよ! ヴァル公だ!」
”わ~!”
”ヴァルヴァル!”
”忠犬ヴァル公w”
今度はグラビトの番なのだが、肝心の本人は不貞腐れた態度を取る。
「……チッ」
カメラがそちらに向く。
”……!?”
”!?!?”
”ふぁっ!?”
”グラビト!? グラビトだよね!?”
”えぇぇっ!?”
コメントが荒れる。
当然だ。グラビトは姿が全く異なっていた。
あの髭のある像ではない。
「私だが、何か?」
”なんで……狸になってるの……?”
”尻尾まで生えてるwww”
”ぬいぐるみ……ぽい?”
”どういうこと?”
二足で立ち、短い手で腕を組んでいる。
「いやぁ、実はですね。グラビトくんの身体が結構ボロボロで、事故で髭が折れちゃったりしたじゃないですか」
”事故のせいにしてるぞwww”
”折れた←× 折った←〇”
”折ったのお前や!”
”草”
「治そうとしたんですけど、損傷が酷くて……まぁ、像の身体が壊れそうだったので第四術式で引っ越したんです」
第四術式は、簡単に言えば魂の術式だ。
今回の場合、グラビトは像から他の物体へと魂を移動させた。
”それで、なんで狸のぬいぐるみ……?”
ちょっと恥ずかしくなる。
少しモジモジしながら言う。
「えっ……令和狸合戦ぽ〇ぽこ見て感動したから……」
”wwwwwwwww”
”草”
”草”
”草”
”笑うしかねえwww”
”何照れとんねんwww”
「狸のぬいぐるみなんて可愛くない! 私の立派な髭はどこへ!?」
「そうかなぁ。可愛くない? ねぇ、ヴァル」
「はい! 可愛いです!」
「ほら、可愛いって」
「うぎゃぁぁぁっ! もうやだ! 私はどこで間違えたのだ……!」
”ほんまこいつらの雰囲気好きだわwww”
気が付くと、同時接続数が増えている。
なんか今日やけに多いな……いつもなら、始まっても数万人しか集まらないのに……。
それでもかなり凄いんだけど……。
狸可愛くないかなぁ。
昔は化け狸、という妖怪がいたけど……あいつら可愛かったんだよなぁ。
お酒持ってくと、敵味方問わず受け入れて、酔ったところを討伐されてたっけ……憐れ。
あとは隠れるのが苦手で、草むらから尻尾とか隠せないでフリフリしてて堪らないんだ。
あいつら、元気かなぁ。
「じゃ、お目当ての魔物が出るまでカツさんに場面を飛ばしますね~。よいしょっ」
狸になったグラビトを頭に乗せ、歩いて行く。
”草”
”ツッコみたいけど……ラジャー!”
”次はカツ視点か!”
”カツは良い奴だから、どうやって場を持たせるか楽しみ”
”そういえば素人か”
”カツの好物ってカツ丼らしいぞw”
場面が切り替わる。
公園のような広い場所だ。
「おっ、映ってる? ヤッホ~。ドローン作れるなんて、ソラくんの彼女って凄いんだねぇ」
「いや、ミホさん……サクヤさんは彼女じゃないって言ってましたけど……」
「え~!? そうなの!? うーん、私の勘違いかなぁ」
そこには、日本の歌姫である安西ミホが居た。
”はぁぁぁぁぁぁ!?”
”ビビったわ!!!!”
”なんで安西ミホがいんの!?”
”カツかと思って、全然身構えてなかった!!”
”すげええええええ!”
あっ、と気付いて一応声だけ入れる。
「言い忘れてました。今日ゲストでミホさん居ます」
”先に言えや!!”
”先に言え!”
”とんでもねえ大物忘れてるぞこいつ!!”
”ついで感覚で日本トップの歌姫を出すな!!”
”草”
”普通忘れねえだろwwwwww”
「アハハ~! ソラくんって面白いね~。私のことも『誰?』って言ってきて、ちょっとビックリしたよ~」
”ソラはマジで平安人なので”
”平安狂”
”頭平安時代”
”俺達のソラマメ小僧だからな”
”ソラマメ好きなアホだから好き”
”キャラが徹底してるので……”
「そうかなぁ、私から見るとたぶん素だと思うけど……。今日はね、せっかくだから、私も魔物飯っての食べてみたいなーって思ったんだ。ねっ、カツくん」
「昔から、ミホさんは『思い立ったら行動』は変わりませんね」
「お礼も直接言いたかったんだ~大恩人だからこそ、恩返しはしなきゃね」
”安西ミホって、どの配信者にもゲストで出たことないんじゃ……”
”これが初じゃね!?”
”マジ!?”
”ソラが初めてとかすげえ……”
”流石ソラ”
”出演料とか、普通だったら一千万とかくだらないからな……”
”えぐぅ……! トップの歌姫は凄いな”
「まっ、味の審査は私もします! よろしくね、カツくん」
「はいはい……」
”カツが慣れた感じで草”
”交流あったんだ”
”カツって押しに弱そう”
”頼んだら色々とやってくれそうだしな、良いおじさんだから”
”押しに弱いおじさん”
”草”
「はぁ……ソラくん、そっちはどう?」
「え? こっち?」
カメラが切り替わり、深層が映し出される。
「いやぁ、まだ見つからないです」
”ふぁっ!?”
”うわっ!”
”死屍累々で草”
”やばwww”
”ほぼ数分くらいしか画面変わってないのに、魔物の死体がwww”
”すげえええwwwwww”
”深層でも余裕そうで草”
”やっぱこいつが現代最強だよ”
”何探してるんだろ……”
俺は考える。
深層って結構深いんだ。
今の放送から考えて、目的の獲物を見つけ……倒す。
それを運ぶまでの時間。
もっと簡単に見つかると思っていたけど、そうでもないらしいな。
「ピグデリシャスって見つからないんですね」
”遭遇する確率が数パーしかない超レア魔物じゃん!”
”流石に見つからなくないか?”
”配信で見たことないわ”
”深層しかいないしな、どの部位の肉も高級肉を超えてるレベル……都市伝説だけど”
”噂しか聞いたことねーwそもそも深層すら挑む人そんないない”
「ねぇ、グラビト。グラビトの鼻で探せない?」
「私を本物の狸だと勘違いしてないか!? 違うからな、私は狸ではないぞ!」
「やってみて、ダメなら諦めよ?」
「恥ずかしいだろうが! ちょ、私を抱き上げるな!」
グラビトがシャーッと前足で威嚇する。
”草”
”怒ってるのも可愛くなってるの草”
”前よりこっちの方が好きw”
”可愛いwww”
「ソラ様! もしかして、アレではありませんか!」
ヴァルが指をさす。
俺もそちらを向くと、全身金色の目ん玉ギョロギョロした魔物が居た。
ダンジョンの天井に、ペタッと張り付いている。
「あれか!」
”おおおっ! 本物だ!”
”本物初めて見たけど気持ち悪くて草”
”ギョロギョロ目怖っ!”
”まずそう”
”食欲失せる見た目してるwww”
ヴァルの『断絶』では消滅させてしまうかもしれないし、グラビトの重力魔法では潰してしまうかも。
俺が直接倒した方が、最も安全に肉が保てる。
食べられないのは頭。つまり、狙う先は頭部……!
「第一術式展開……水命糸」
呪力を循環させ、身体を強化させる。
そのまま、地面を蹴り飛びかかる。
「ギョロッ!!」
こちらに気付き、ピグデリシャスが逃げだそうとうする。
指先を銃のように構え、呟く。
「第二術式展開、呪層壁」
逃げる先であろう場所に、呪層壁を展開し、逃げ場を失くす。
ガンッ‼ とピグデリシャスがぶつかる。
「捕まえた」
”一連の動きが凄すぎて、コメント止まってるぞ”
”今気づいたわ”
”見るのに集中してたw”
隙を逃すことなく、俺は糸を絡ませる。
その刹那、ここからは見えない位置から赤髪が現れる。
ん……? 赤髪……? それに、この呪力……。
赤い閃光が走る。
「今日のご飯……! 赫槍」
「水命糸」
お互いの攻撃がぶつかり、誰から見てもオーバーキルな攻撃がピグデリシャスを直撃した。
”うわwww”
”ほとんど消し飛んだwwww”
”なに、なにこれ!?”
”どういうこと!?”
その返り血が、ブシャッとソラにかかる。
「……真っ赤になっちゃった」
ふにゃっとした顔をしていると、コメントが騒ぐ。
”ソラ虐www”
”可愛いwww”
”さっきの誰?”
「っ! なんでこんなところに人が……! あんた誰よ! これ私の獲物だからね!」
”誰?”
”あれ、そいつ……!”
”あっ!!”
”深層冒険者が言ってた、次世代の五本指に入る一人……将軍じゃないか!?”
”もう一か月以上深層に潜りっぱなしの冒険者じゃん!!”
”うおおおおおおおおお!”
”深層ガチ勢だ……!”
「それ、御影一族の呪瘴か……?」
赤くて、黒い光が彼女を包んでいる。
呪瘴とは、妖怪や鬼から力を奪い、自身の生命を繋げる。
陰陽師とは異なるけれど、魔を祓う本質は同じだ。
普通の人間や妖怪よりも圧倒的に強く、赤い髪が特徴的。
呪瘴はそもそも、呪いの力である。神に呪われた彼らは、その力を逆手に取り、魔を祓う。
そして、その呪いの特性から、彼らの寿命は十~二十五年と大変短い。
「────ッ!! あんた、何者? なんで御影一族って知ってるの?」
「なんでって……」
平安時代を思い出す。
とある男が、俺の元を訪ねてきた。
彼は深く土下座し、頼みごとをしてきたのだ。
『あなたは当代最強の陰陽師とお見受けする……! 一つ、願いを聞いてはくれませぬか! どうか、どうか……我が一族の短命の呪いを解除して欲しい!!』
『その呪い、かなり強いよ。神の呪いだし』
『娘が……産まれたばかりの娘の呪障が強く、このままでは数年と保たない……! あなたに我が御影一族は一生仕えます……! ですからどうか、どうかお願いします……!』
その時の俺は、凄く困っていた。
なぜなら、呪いは解除に失敗すれば自身に降り注ぐ。
誰もやりたいとも思わないし、見かけても関わろうとしない。
強力であればあるほど、その代価も求められる。
『神の呪いねぇ……』
思い返してみれば、俺は狂っていたのだ。
神の呪いなんて、失敗すれば死ぬどころでは済まない。
『面白そう。良いよ』
『やはり無理で……へっ?』
*
一方そのころ、ソラの影響もあって、テレビでは陰陽師の話題が出ていた。
「陰陽師と言いますと、平安時代に活躍した安倍晴明が有名ですね」
ボンッと、テロップを出す。
そこには、『安倍晴明の日記』と書かれている。
「それなら! 最近陰陽師研究者を興奮させた事件もあります! なんと、安倍晴明の日記が見つかったのです!」
「まぁ! 凄いですね!」
「はい。全部は公開できないのですが、解析が終わったこちらなら、見せられます」
古い言葉を見せられ、スタジオの人たちが苦笑いを浮かべる。
「先生、こちらはなんと書いてあるのですか?」
「まず、こうですね。現代風に翻訳します」
緊張とワクワクとした空気の中、第一声が放たれた。
「『神の呪いを解除したとんでもない陰陽師がいる』」
神の呪い。
それの凄さを知らない彼らは、首を傾げる。
知らないからこそ調べる。考える。それが彼らの仕事である。
そうして、内容を続ける。
「『その陰陽師について、私が思ったことを書き記しておこうと思う』」
────安倍晴明。
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