17.陰陽(おんみょう)
近場の街を一望できる場所に許可をとって、夕方に配信をする。
今日は広い場所が必要だったのだ。自室は狭いし。
「こんばんは~、ソラです~」
”待ってた!!”
”やっときたか!”
”今日は何するんだろ……!”
”どこにいるかと思ったら、街が一望できる場所? どこだろ?”
”顔ふにゃっとしてて草”
”ソラって配信始まると、いつも顔『もにゃっ』、か、『ふにゃっ』としてる”
”可愛い”
”好き”
そんなに、ふにゃ……としてるかな。
でもうるさい感じの挨拶は得意じゃない。
なぜか、挨拶で気が抜けてしまうのは癖だ。
「今日はですね~……新しい仲間を紹介します」
”新しい仲間……?”
”まさか、配信外で式神捕まえたのか!?”
”そういうこと!?”
「いや、式神とかじゃないんですけど……ど、どうぞ」
俺は前に出てくるように促す。
緊張しまくった慣れない足取りで、横に立つ。
「は、初めまして……! 榊原カツです!」
”ふぁっ!?”
”まさかのカツ!?”
”ここで出るのか!”
”ソラの敵じゃないのか!”
「き、緊張するねソラくん……」
「分かります。今、同接続、13万人も居ますしね」
「じゅ……! 13万もいるのかい!? それ全部、ソラくんのファンだろ!?」
「はい! みんな良い人ですよ!」
”天然で草”
”大丈夫? ソラ、騙されない?”
”なんか逆に心配になってきたわ”
”良い人って言われると、不思議と罪悪感が……”
「これで会社ももっと賑やかになりますね~」
”……ん?”
”え? 今なんて言った?”
”聞き間違えか?”
”はい?”
「えっ……あっ、言ってなかったっけ。実は、俺とサクヤ、カツさんと事務所を作ったんです。名前は『陰陽』」
サクヤと一緒に考えて、決めた名前だ。
未成年は起業できないから、一応名義はカツさんを借りている。
カツさんに相談したら、『その会社の理念、乗った!』と快く受け入れてくれた。
”…………”
コメントが静まり返る。
「あれ? コメント止まった?」
「いやたぶん……」
カツが答えようとした瞬間、ぶわっと書き込みが増える。
”すげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!”
”うおおおおおおおおおおおおっ!”
”ふぁああああああああああああ!?”
”うぉぉぉぉっ!”
”マジか!!”
”歳そんなに変わんないのに凄いわ!”
”ソラも事務所入りか~。感慨深い”
”おめでとう!”
個人から企業へ入った配信者は、基本的に祝福される。
やっぱり、規模がデカくなったり、仲間が増えるからだ。
”事務所の理念は?”
そう、それが重要だ。
後で調べたのだが、多くの有名配信者を抱えるPooverは、輝かしく人気で、常にトップを走り続ける。と理念を掲げている。
「陰陽は……『困っている人が居たら助けるダンジョン配信者』です」
静かに俯く。
コメントは、俺の言葉を待つように静かになっていた。
カツさんもこちらの言葉を待っている。
「安西ミホさんのライブで、駆け付けない配信者が多くいたと聞きました。もちろん、そのことで怒ったりはしません」
彼らは命懸けだ。責められないよ。
「でもさ……もしも、同じことが起きた時に、本当に誰も駆けつけなかったら……」
悲しいと思ってしまった。
いつの時代も、人は助け合って生きている。
現代はその感覚は薄れているけど……失って欲しくはない。
誰かが困った時に。
「そんな時に、必ず来てくれる人が居たら……いいなと」
陰陽師は人を救うためにいる。
それは今も昔も……平安から続いて来た共通意識だ。
だから、どの時代でも正義の味方として描かれる。
俺はそれを曲げたくない。
「そんなダンジョン配信者がいる……陰陽です!」
俺は真っ直ぐと顔をあげて、微笑んだ。
*
Pooverの事務所で、ソラの配信を見ていた大神リカが思わず目を見開いた。
『困っている人が居たら助けるダンジョン配信者』。
ソラさん、あなたはどこまで……。
「ハハ、このタイミングで発表してきましたね……噂は本当でしたか」
「俺は楽しみですよ~、だってこれから、もっと伸びるんでしょ?」
事の重大さを理解できていないマネージャーは、呑気に構えている。
「呑気ですね……でも、控えめに言ってこんなこと、ソラさんが思いつくハズがない」
口元を隠して悩む。
裏でこれを仕組んだ人間がいる。
脳裏に銀髪が浮かんだ。
……間違いなく、あの銀髪令嬢だ。
日本で最も勢いがあり、最強の配信者事務所はPoover? いいや、違う。
今は……彼らの『陰陽』だ。
それをここで決定付けられた。
世間VSネット?
どっちが活躍したか? どっちのお陰で人が救われたか? 違う、あの令嬢はそんなもの、最初から眼中になかったんだ。
どちらも味方に付けるつもりだった。
世間で最も人気のカツ。
ネットで最も熱いソラ。
この二人がいる時点で……今まで最下位に居た立場を、一気にトップまで引き上げた。
あの令嬢……とんでもないやり手だ。
流石は英才教育を受けた、ダンジョンネットワーク大企業の御令嬢だ。
天才に相応しい……。
でもそれを成し遂げることができたのも、ソラさんのお陰だ……!
だからあの二人の相性は……最強なんだ。
「このままだとPoover……トップの座を明け渡さないといけませんね」
ソラさん……あなたは本当に、本当に凄い人です。
あの救われた時から、たった数歩でここまで上り詰めた。
それに二度も救われた。感謝もしているし、きちんとこの想いを伝えたい。
でもそれ以上に……。
「『陰陽』に負けたくない」
*
Poover所属、実力派配信者は足を組んで頬を引き攣らせていた。
「おいおいおい、Poover……ヤバいんじゃないの? トップの座、引きずり降ろされるぞ。カツは良いとしても、餓鬼ども二人にやられてんじゃねえよ」
今回の配信は、たくさんの配信者が見ている。
インゲン豆配信者も、指を咥えていた。
「やっぱりインゲン、コラボしたいなぁ……」
*
神崎サクヤは、初めて自分の手でソラの願いを一歩叶えられた、と喜んでいた。
ソラの目標である正しい陰陽師を広げる。
ソラの力になれた。
「これでPooverの勢いも、他の事務所の勢いも……! ソラが中心になった!」
私のソラが、注目を浴びている。
誰もこんなこと、予想が出来るはずがない。
対立をするのではなく、手を取り合う。
どちらが正しいか優劣付けるのではなく、取り入れてしまう。
世間とネット。両方を味方に付けてみせた。
これがダンジョン配信事務所────『陰陽』が建ちあがった日だった。
そうして、サクヤのスマホが鳴った。
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