15.テレビVSネット
サクヤが所持している配信機材の入るトラック。
荷台は改造されており、ドローンの映像や、配信状況が確認できる。
寝泊まりも可能で、まさに金のかかったトラックだ。
東京ビアドームから人々を救い出してから、次の日。
その日、俺は見たものを確かめるため、トラックに走っていく。
「サクヤサクヤサクヤ!」
後ろを開けると、優雅に紅茶を飲んでいるサクヤがいた。
ゲーミングチェアに座り、なにやらたくさんのグラフが描かれた図とにらめっこしていた。
「なんだ、騒がしいぞ」
「にゅ、ニュース! 俺なんかニュースに出てる!」
やっているニュースの配信を、スマホから見せる。
「だからなんだ。お前のやったことを考えれば当然だろ。驚くことでもない」
「そ、そうなの……?」
ただ人を助けただけだ。特に凄いことをしたつもりはない。
困っているのなら助ける。当然のことだ。
「だが……このニュースは傑作だな」
そうして、サクヤは視線をスマホに移した。
「ソラ、お前はもっと有名になるな」
サクヤは楽し気に、紅茶を啜った。
*
「ニュースのお時間です。数日前に起こった安西ミホさんのライブで……」
そのニュースとは、災害の詳細な話であった。
絶望的に思えた災害。
しかし、蓋を開けてみれば負傷者が多くはいるものの、死者がいないという奇跡の災害。
10万という魔物の数は、のちに駆け付けた多くの軍隊、深層最深部を経験した冒険者たちによって討伐され、ダンジョンは沈静化。
ニュース、世間の間では『日本の歌姫、安西ミホの奇跡』と呼ばれ始めていた。
「ライブ会場で活躍した冒険者の方々と……駆けつけてくれた配信者などがいるみたいですが……」
ニュースは続き、活躍してくれた冒険者が紹介されていく。
こうして評価し、感謝を述べているのだ。
もちろん、来なかったからと言って責めたりはしない。
冒険者とは常に命懸けだ。それをなぜ来なかった、と責めるのは酷である。
「……さんのような冒険者は素晴らしいですね」
「ところで、最初に駆け付けたとされている冒険者……えっと、ダンジョン配信者の方でしたよね?」
「はい。話によれば、今ネットで話題の上野ソラさんという方らしいです!」
今まで黙っていた年老いた辛口な評論家が、ソラの名前が出た瞬間に眉を顰める。
雄弁な口調で、知ったように語り出す。
「私はねぇ、いまだに信じられないんですよ。彼、高校生でしょ? しかも、陰陽師って名乗るなんて……詐欺師なんじゃないの? 嘘つきとか。ほら、駆け付けただけで、本当は何もしてないとか。ハハハ!」
「あは、はは……ま、まぁ! 一番最初に動いたのは、彼なので……」
「動くだけなら誰でも出来るでしょぉ? 配信とかネットがなんだか知らないけど、私の目は誤魔化せないんですよ」
陰鬱とした雰囲気の中、自慢気な顔をした評論家は鼻を鳴らす。
「で、では……最も活躍してくださった。数千の人を救い出したMVPとも呼べる冒険者……榊原カツさんの紹介です!」
「今回一番の活躍をしましたからね~!」
「数千人を万もいる魔物から守って、移動させてきたのですから。そりゃあもう当然ですよ! 神業です!」
「ライブ会場から、榊原カツさんを先頭にみんなが無事に出て来た時は興奮しましたね~!」
「世間の声も、カツさんを称える声が多くありますしね」
「それにPoover所属の大神リカさんもかなり……」
そうしてニュースは続いて行く。
*
普通の人であれば、ソラを好きであれば好きであるほど、このニュースには不快感を示すであろう。
なぜなら、一番活躍したのは榊原カツではない。
上野ソラなのだ。
事実、昼食中にそのニュースを見ていた大神リカは驚いていた。
「うぇぇぇ!? こ、このニュース……どこ見て報道してるんですか……!?」
(誰のおかげで、死者も出さずにあの絶望的な状況を切り抜けられたと……!)
スマホを取り出し電話する。
「マネージャー!」
大神リカ同様に、ネットでも騒ぎになっていた。
事実と異なるのではないか、これはおかしいのではないか。
上野ソラは本物である。
それをネットの200万もの人間がライブで見て知っている。
さらには詐欺師などと罵られ、黙っていられる訳がない。
*
だが、サクヤは笑っていた。
「面白いことになってきたな」
「俺は緊張したよ……」
まさか、ニュースに出るとは……。
テレビって日常的なものだから、知り合いとか『一瞬だけどテレビ出たよ!』って聞くと、すげえ! って素直に思うんだ。
自分の立場になったら、なおさら興奮する。
よし、後で誰かに自慢しよ。
まずはサクヤに……と口を開こうとすると、淡々と返される。
「私にテレビ出たと自慢するなよ。私はたまに出てるからな」
「おぉ〜!」
「クソ親父の演説がテレビで流れるからな。その時、たまにチラッと映るんだ」
「さ、サクヤ凄い……」
「特別なことじゃないだけだ。お前はやっぱり可愛いな」
サクヤは微笑みながら、頬杖をする。
「さて、これではっきりしたな。ニュースや世間と、ネットの意見が真っ二つになった」
ニュースは、個人ではなく大きな会社である。ニュースの内容も、上層部から圧が掛かれば捻じ曲げられてしまう。
それに対し、ネットは個人で書き込み、情報が集められる。そのせいもあって、事実が曲げられることはない。
もはやこの世の中は、テレビが黒といえば黒になる時代ではないのだ。
「基本、大企業の上層部ってのは年老いた頭の堅いジジイばかりだ。昔の慣習が根強くあるせいで、柔軟じゃない。最近出てきたよく分からないソラよりも、下地もあり、実力もある、ある程度有名な榊原カツを前面に出すのは理解できる」
まぁそれでも普通はありえないのだがな、とサクヤが続ける。
「年老いた奴らのお陰で、日本が、お前の話題で埋まるぞ……楽しみだ」
サクヤの予測通り、ニュースで最も活躍したのは榊原カツと報道され、ネットでは最も活躍したのは上野ソラであると対立が起こっていた。
「私も、そろそろ動くか」
策略家のような笑みを浮かべ、サクヤがフッフッフと笑う。
それをソラが「悪代官みたい……」と呟いていた。
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