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13.グラビト


 像が喋った。

 

「おい! 貴様ら、なんでそんな『面倒臭い……』みたいな顔してるんだ!」


 まさか喋るとは思っていなかった……。

 像が喋るって普通じゃないよね。こいつ、魔物ってことか。


「もう帰るところだったから」

「散々私の部屋を荒らしてか!? せめて掃除していけよ!」


”正論で草”

”まさかのボスが正しいwwwwww”

”どっちが悪者か分かんねえwww”


「だって、反応なかったし……」

「反応がないからって私の髭を折るか普通! 自慢の髭だったのだぞ!」


 え~……ぶっちゃけ謎解きって得意じゃない。

 3歳児がやるようなパズルゲームならまだ出来るんだけど、これは難しすぎる。


 こちらの表情から考えを読み取ったようで、像が言う。


「これは最高難易度の試練であるぞ! 難しいのは当然!」

「でも、もっと分かりやすいヒントとか作らない方が悪くない? ねぇ、ヴァル」

「はい」

「ほら、俺達悪くないですよ」


”人のせいにし始めたぞwww”

”やべえwww”

”面白過ぎるwww”


 像がこめかみに怒りを貯める。


「不届き者が! ギミックを解かぬ者には罰を……失敗には死を!」

 

 ダンダンッ!! と、像が大きく足踏みする。


”!?”

”すげえ音っ!”

”雰囲気変わった……!”

”なんかヤバそうじゃね……?”

”最高難易度の失敗とか見たことない……!”


「我が名はグラビト! 星降りの試練を失敗した貴様たちに、罰を下す!」


 帰ろうとしたから、それは失敗ってことなのだろうな。


「星降り……?」

「天井に星の絵があるだろう! これは謎解きのヒントである! 星を理解し、壁画を分析する! そして床のパネルを順番に押すというギミック解除の試練であった!」


”自分で全部答え言ってるし……”

”むっず! 分からねえよ!”

”専門知識あれば行けるかも”


 グラビトが丁寧に説明して、答えを教えてくれる。

 ……あれ。


「壁画なくね?」

「床のパネルもないですな」

「お前らが壊したのだろうが!」


”草”

”草”

”草”

”こいつらコントやってんの?w”


「よって、星裁きの時間である!」


 ボス部屋が薄暗くなっていく。

 

「ソラ様」


 ヴァルが前に出る。

 失敗=ボスとの戦いだ。


 奇しくも、ボス同士の戦いが起ころうとしていた。


”ヴァルかっけ~!”

”流石忠犬ヴァル公”


 俺は静かに、グラビトを見つめていた。


 *


 ニヤッと、深くグラビトが笑う。

 

 コメントが湧く。


”怖っ!”

”なんかゾッとした……!”

”ヤバくね?”


 ヴァルが剣を構える。


「ご安心を、視聴者様たちよ! 私の剣で────」


 グラビトがダンダンッ! と足踏みする。

 

星の重力(グラビティ)


 シィィィ……────ドガァァンッ!!

 

「ッ!!」

 

 叩きつけられるように、ヴァルが倒れる。


「お、重い……!」


 ヴァルが思考する。


(起き上がれない……! 私の鎧は魔法に耐性があるはず……! それを貫通するほどの重力か……!)


”ふぁっ!?”

”えっ、ヤバい……?”

”ヴァル!?”

”大丈夫!?”


「ハハハッ! 愚か者共め! 星の重さを知れ!」

 

 快活にグラビトが笑う。

 

「試練とは、賢さなり! 賢くなきもの、生きる術なし! ハハハ、ハハハ!」


 グラビトは、こうして冒険者たちを葬ってきた。

 数多くの者たちが、星降りの試練をクリアすることができなかった。


 それはギミックを一度でもミスれば、こうしてグラビトが起き、冒険者と戦うのだ。


「貴様ら二人とも、我が重力によって圧し潰される! これに生きながらえて来た者おらず! 地球の数十倍もの重力を味わうが良い!」


”ん……?”

”なんか妙じゃね?”

”一人変なのいる”


「ほえ~、地球の何十倍もあるんだ」

「あぁそうだ! 我が魔法は重力を司る! ハハハ! やはり星は偉大である!」

「ほえ~」


”『ほえ~』で草”

”アホみたいな口調w”

”可愛いw”


 ようやく異変に気付いたグラビトが、「ハハハ!」と大きく笑うのをやめる。


「ハハ……え? なんで貴様は立ってる?」

「これ。第二術式、呪層壁」

 

 ソラは自身の周囲に、呪力の壁を作っていた。

 それによってグラビトから放たれた星の重力(グラビティ)を防いでいた。


「なっ────! 貴様……魔法使いか!」

「違うよ、陰陽師だよ」

「ふざけるな! 魔法使いでもない者が、私の攻撃を防げる訳ないだろう!」


 ソラが眉を顰める。

 

「そう言われましても……うーん」


 ソラはどう説明したら分かりやすいか考える。


「例えばね、一枚の絶対に割れない板があるとして、上から圧が掛かったとする。そのまま放置してたら、ヴァルみたいに圧し潰されるけど……下からも圧を掛けた場合どうなると思う?」

「……ッ!!」

「ぶつかった圧は均衡して、俺に魔法は届かない」

 

 単純明快な答え。

 騎士王・ヴァルサルクの時に呪層壁は破られた。それはヴァルが持つ防御壁を打ち消す剣の力で破られたのだ。


 だが、今回は違う。


 グラビトは魔法による攻撃を行った。故に、ソラが練り上げた呪層壁を貫通することができなかった。


「な、なんだと……? そんなの、莫大な魔力がなければ無理だろう……想像もできない」

「特に難しいことじゃないのに、そんな驚くことかなぁ。これ、簡単だよ」

「き、貴様……!」


”煽ってるwww”

”超煽ってて草”

”やめれw”

”いやでも、実際すげえな……”


「えっ、煽ってないよ」


”素かよwww”

”そういえば天然だったわこいつw”

”流石ソラマメ”


 ダンダンッ!! ダンダンッ!! と、何度もグラビトが足踏みをする。


「私の重力をなめるなぁっ!」


 グラビトが力を溜めて行く。


”うおっ!?”

”周りすげー揺れてる!!”

”このドローンもっと離れた方がいいんじゃね!?”


 ソラが声を発する。


「サクヤ、もっとドローンを離した方が良い」

『了解した……だが、ダンジョンの外が揺れるほどの力とは……』

「そっち揺れてるんだ」

『少し……だがな』


(なるほど、グラビトは全力で俺を圧し潰すつもりらしい)


 魔力と呪力。

 似て非なるもの同士の衝突。


 この状況を理解できているものは、誰もいない。

 

 この凄さを理解できていれば、誰もが心躍る夢の対決であった。


 どちらが最も優れた、特別な力か。


「面白い……!」


”また笑ってる!”

”ヴァルの時も笑ってたよな”

”やっぱり笑ってるじゃん!”

”やば……”

”すげえ”

  

 ソラが呪力を練り上げる。

 片手・・で手印を組み、集中する。


 身体全体に呪力を循環させる。


「行くぞ! 黒き重力(ダーク・グラビティ)ッ!!」

「────第二術式・呪層壁」


 緩急のついた衝撃が走る。

 

 シィィィ……────ドガァァンッ!!


”が、画面越しからも分かる揺れ……”

”酔う酔う酔う!”

”酔い止め! 誰か酔い止めくれ!”


 グラビトが思考する。


(奴の魔力量はおそらく私より多い……だが、奴には弱点がある……)


 ニヤリッと笑う。


「ソラ様! 私の方にまで、呪層壁を広げないでください……!」

「こうしないと守れないよ。巻き込まれちゃう」

「で、ですが……! それでは魔力が!」


 ヴァルが必死にやめて欲しいと懇願する。


(ハハハ! 憐れな男だ! そうだ、仲間を守るために広げた壁では、私との押し合いに勝てない……! 面積が増せば増すほど、それだけ圧は大きくなる!)


 グラビトは魔法による効率的に放たれる圧。

 それに対し、ソラは純粋に呪力で支えているだけの圧。


 その消費効率は、段違いであった。


「どうだ! このままならば、私の勝ちだ!」


”流石にヤバくね……?”

”ソラ負けるなよ!”

”やばいやばい!”

”負けないで!”


 ソラが息を吐く。


「俺はまだ、汗一つ掻いてないよ?」

「くっ────!!」


(なんだ、なんなのだこの男は……! 私が手も足もでないというのか……? 知恵も、力も、考えも私が勝っているはずだ……! 仲間などという、愚かな物を守ろうとする者に……負ける訳には行かぬ!)


 ソラの行動は、グラビトの理想とはかけ離れていた。


 知識は独り占めするモノ。

 力は他者を傷つけるモノ。

 仲間は成長の足を引っ張るモノ。


 故に、友は不要である。


「もっと、もっと重力を……魔力を込めなければ……!」


 いくら魔力を込めても、ソラの呪層壁はピクリとも動かない。


(おいおいおい! いくらなんでも硬すぎるだろう……!)

 

「こんなもの?」

「うおぁぁぁぁぁぁっ!」


”なんか揺れてね……?”

”気のせいだろ。それよりもこの戦いすげえな……!”

”ちょっと待って、揺れてる”

”こっち揺れてないけど”

”もしかしてこいつらのせいで揺れてんの!?”

”ガチ!? ヤバすぎだろ!”

”すげえ!”


 ソラのイヤホンからもサクヤの声が届く。


『うおっ! 揺れすぎだろう……!』


 衝撃の揺れは、地震に近い物を起こしていた。


 ただし、それもいつまでも続かない。

 グラビトの魔力には限界がある。


 そして、器の限界も。


 パリッ……と割れる音が響いた。


”ん!?”

”あっ……”

”すげえ……”

”マジ!?”

”おっ!?”


 自身の許容を超える重力を浴び続け、グラビトの像は、腕が折れていた。

 グラビトの肉体が耐えられなかったのだ。


 当然のことだった。限界をとうに越え、それでも理想のために戦った。


「ッ────!!」


 一気に重力の力が弱まる。

 グラビトの限界だ。


 ソラは手印を解く。

 

「……出し切った」

 

 小さく、それだけをグラビトが呟いた。


”勝った……!”

”すげえええええ!”

”また単騎でボス倒してるこの人……!”

”やっぱ化け物だな”

”流石だわ!”

”うおおおおおお!”


「知恵も魔法も魔力も……届かなかったというのか、こんな男に」

「ううん、十分凄いよ。重力魔法なんて初めて見たし、興奮した!」

「はっ、憐れみはよせ……」


(あぁ、あぁ……! なんと清々しい気分だ。全力を出して負けるというのは、案外心地が良いのだな……)


 ダンダンッと足を踏む。


「貴様の勝ちだ! 星降りの試練、クリア! さぁ、宝を持っていけ!」

 

(この人生、未練なし。直に消滅してしまうがな……)


 ソラが指を咥えて唸る。


「うーん……」


”うわでた”

”また唸り出したぞ”

”うわっ”

”誰か止めろ”

”誰が止められるんだよwww”

”ソラが唸り出したら碌なことしない……!”


「宝は要らないかな~。大体欲しい物は揃ってるし」

「え……え? じゃあ、貴様はなにが欲しいのだ……?」

「仲間かなぁ」

「……はっ?」


”あっ、グラビト逃げろ!”

”グラビト逃げて!!”

”アホ軍団の仲間入りする!!”

”仲間展開きちゃー!!”

”どっちがボスか分かんねえよこれwww”


 そうして、ソラは式神を増やした。


 *


 試練系ダンジョンをクリアしたソラは、ヴァルと一緒に出口に着く。


「あ~、疲れたね~」

「お疲れ様です。ソラ様」


”お疲れ~!”

”今回もすげえ面白かった……!”

”神回でしたね!”

”面白かった!”


 コメントが流れて行く。 

 うん、みんなもかなり面白いと思ってくれたみたい! 良かった~!


 同時接続数も150万人を超えていて、もはや記録的なレベルだ。

 ヴァルの時を超えた!すごいな!


「良かったです! みんなも楽しんでくれて」


”良い笑顔”

”好きだ!”

”ソラ最高!”

”また楽しみにしてる!”

”これは記録動画が作られるな”

”また伝説的な記録作ったw”

”すげ~!”


 さて……配信終わらせなきゃ。


 サクヤは前回、ドローンを切り忘れたことがあったため、俺も使い方をちゃんと学んだのだ。


 確か、ドローンのここを押せば……。


 弄っていたところで、サクヤから報告が入る。


『……ん? ソラ、まだ動けるか?』

「大丈夫だけど、どうしたの」

『そこから近い安西ミホのライブで……ダンジョンイレギュラーが起こったらしい……! 動ける冒険者を至急で集めている!』

「安西ミホ……?」


 誰だろう。顔見れば思い出せるとは思うんだけど……。


 コメントが流れる。終わりそうな雰囲気だったのが、がらっと変わった。


”テレビの緊急速報やっば!”

”ダンジョン発生したのか!? このタイミングで!?”

”ええ! そこから近い距離の奴じゃん!”

”数万人集まってるライブだろ!?”

”うわっ、政府からも緊急発令出てる……!”

”数万人は入れる、東京ビアドームじゃん。ヤバ”


 相当ヤバいことになっているらしい。

 数万人もいるところにダンジョンが発生したのだ。


 ただ事ではない。


”まぁ、俺達には関係ないな~”

”ソラが終わったら、他の配信者の見るか。面白くないけど”

”切り抜き作業しなきゃw”

”お前ら不謹慎すぎる”


「……」

 

 静かにコメントを眺める。


”連絡取れない人多いらしい!”

”ソラさん! お願いします! お姉ちゃんがライブに行っているので助けてください!”

”ソラに頼むなよ。もう配信は終わるんだから”

”ボスと戦った後に、今度はイレギュラーダンジョンに行くのは無理だろ”

”ちゃんとソラを考えてコメントしろ”

”ソラは無関係だろ”

”高校生に頼むことじゃない”


 そうだ。

 俺がここで行かなくても、誰も責めたりはしないだろう。


 ボスと戦った直後なのだ。消耗しているし、疲労もしている。


 許してもらえる……。


 専用のイヤホンに手を当てる。


「サクヤ」


 答えは決まっている。


「案内して」


【とても大事なお願い】

 仕事をしながら合間で執筆をしています!

『面白い!』『楽しみ!』

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