12.試練系
「こんにちは~、ソラです~」
ドローン向かって手を振る。
”来た来た来た~!”
”もうダンジョン内から配信しとる!”
”今回は占術使わないんだ”
”ソラマメ小僧だ!”
”小僧で草”
”本物だ”
「はい、ソラマメ小僧です~」
”草”
”草”
”wwwwww”
”受け入れてて草”
”諦めてるw”
はい、もう諦めました。好きに呼んでください。
嬉しいっちゃ嬉しいから良いんだけどね。
俺の配信はウェイウェイ騒ぐ感じではなく、比較的落ち着いている。
戦闘になると一気に激しくなるため、その緩急がある意味良いのだとか。
みんなが楽しんでくれるのなら、何でもいいや。
もにゃっとした顔をしていると、さらにコメントが増える。
”可愛いw”
”愛おしい奴め”
”今日はなにするの?”
”あの銀髪の子知りたい”
質問に答えるべく、順番に処理していく。
「今日はこの前捕まえた式神をお披露目です」
”おぉぉぉぉ!”
”待ってた待ってた!”
”すげえ気になってた。どういう原理なんだろう”
”式神!”
”ボスが味方とか心強過ぎて草”
「銀髪の子は、俺のカメラマンを担当してくれてます。友達です」
”彼女じゃないんですか?”
「アハハ……違います」
告白とかしても『友達だとは思っているが、それ以上は……』と断られそうな気もするし。
サクヤは良い奴だから、下手に気負うことは冗談でもさせたくない。大切だからこそ、そう思う。
”違うのか”
”凄い関係”
”ドローンとか作ったの銀髪の子でしょ。凄すぎ”
”アホと天才か”
”アホで草”
コメントを読みながら、スタスタとドローンから距離を取る。
「じゃあ、式神出しますね。第三術式展開……式神」
ボンッ! と煙が巻き起こる。
懐かしいなぁ、式神。
前に使ってた奴ら、どっか行っちゃったんだよなぁ。
流石に平安時代の物は残ってなさそうだし。
また一から集めなきゃ。
ガチャンッ! と剣が地面に突き刺さる。
俺よりも背丈が高く、重圧な鎧に身を纏った式神。
騎士王・ヴァルサルクだ。
「こ……こん……こんにちは!」
”喋ったぁぁぁぁぁぁっ!”
”たどたどしくて草”
”うおおお! マジでイレギュラーボスを仲間にしてる!”
”すげぇぇぇっ!”
「そ、ソラ殿……いえ、ソラ様、これがコメント……という奴ですか」
「うん。みんな、ヴァルのことを見てるんだよ」
「き、緊張しますな!」
つい微笑ましくなる。
俺も最初はこんな感じだったなぁ。
今でこそ、同時接続が4万とか平然としているが……最初の頃は多くても5人とかだった。
本当、人生とは何があるか分からない。
「大丈夫、そのうちアホとかソラマメ小僧って言われるようになるから」
「え?」
”草”
”草”
”草”
ヴァルサルクとは、実は陰で一回話をしている。
式神といっても、捕まえただけでは従順になったり、仲間扱いはできない。
お互いに信頼関係を築かなければ、式神は成立しないのだ。
”これどうなってんの?”
”なんで仲間になったんだ?”
「わ、私はソラ様に負けたのです。ですから、騎士として、忠誠を誓ったのです!」
”真面目だ”
”チョロいな”
”チョロ騎士”
チョロ騎士……さっそくあだ名が出来たみたいだ。
視聴者も受け入れてくれているし、安心だ。
追加で俺が説明する。
「魔物だった頃の記憶があんまり残ってないみたいで、ちゃんと喋れるようになったのも、式神になってからなんだって」
意思疎通がしっかりと取れる辺り、かなり驚いた。
もっと機械的な対応しかできないものだと思っていたから。
「そういうことで、今日はこのヴァルくんとダンジョン配信します」
”楽しみ”
”うおおお!”
”どうなるんだ!? どうなるんだ!?”
”はよ、戦闘はよ!”
今はダンジョンの上層だから、もう少し歩かないと魔物とは遭遇しない。
よし、二人になった今なら、間を持たせる雑談配信とかいけるんじゃね!?
いけるいける! うおおお! これでさらに登録者数を伸ばすぞ!
スタ、スタ……。
「……」
「……」
”あれ、音入ってる?”
”二人居てどっちも喋らないとかマジ?”
”どっちもコミュ障で草”
”終わりだよ、これ”
”地獄みたいな空気で草”
”まだ始まったばっかりだけど、既に10万人がこの無言配信見てると思ったら笑うしかないw”
はは、やっぱり間を持たせるの無理でちた。
あい、諦めます……慣れないことはするべきじゃないな。
しばらくすると、ようやく魔物と遭遇する。
レッドゴブリンだ。名前の通り赤いゴブリンだ。
「ギギィッ……ギギッ!?」
こちらに気付いて、二度見した。ヴァルに驚いているらしい。
「ギッ、ギギッ!?」
驚愕している。魔物と人間が一緒にいるのなんで!? みたいな反応だ。
これはチャンス……! さっそくヴァルの力を見せてもらおう!
「行け、ヴァル! 『断絶』だ!」
「御意!」
”トレーナーと魔物で草”
”ペットみたいwww”
”草”
”こいつら面白過ぎるwww”
”御意じゃねえよwww”
”こいつら一応殺し合った仲だよな……?w”
『ブフッ』と、サクヤの声が耳に届く。
ヴァルが自身の大剣を大きく振る。
「『断絶』………ッ!」
「ギガァァァッ!!」
大きな砂埃を立てて、レッドゴブリンが消し飛ぶ。
”ふぁっ!?”
”つっっっよ!”
”オーバーキル過ぎるだろwww”
”跡形もなく消滅したwwwwww”
”ゴブリン可哀想すぎるw”
”ダンジョンの壁にも爪痕残してるのエグイな”
「よくやった! ヴァル!」
「はい! ありがとうございます!」
”褒められて伸びるタイプと見た”
”忠犬ヴァル公”
”良いぞヴァル!”
”偉いぞヴァル!”
”凄いなヴァル!”
「見てよヴァル! みんなヴァルのこと凄いって!」
「ほ、本当ですか! 照れますな……」
もじもじと照れる様子を見せる。
あまり人から褒められることに慣れていないようだ。
コメントもそのことで盛り上がっているし、接続数も増えてきている。
よし、このまま下層のボス部屋まで行くか!
その後も「行け! ヴァル!」と『断絶』を繰り返し……ボス部屋まで到着する。
”ほぼ今日の配信、敵が消滅してるんだが?”
”可哀想w”
”敵がどんまいとしかw”
”イレギュラーボスは流石に格が違うな”
”『行け! ヴァル!』→敵が消滅。この流れほんま草”
ふむ、盛り上がっている。
「今日は、ボスVSボスの戦いを見せようと思ってたんです」
ヴァルの実力を測ることも兼ねて、そういうことをしようと思っていた。
誰もボスVSボスの戦いなんて見たことがないはずだ。
”見たい!”
”それは気になる”
”ダンジョンって色んなボスいるけど、最強決定戦みたいで面白いね”
”良いアイデア”
”でもそこのダンジョン、ボスは試練系じゃなかったっけ?”
「え? 試練系って?」
ダンジョンにも種類があることは知っているが、ダンジョンボスまでは詳しくない。
すると、サクヤが補足してくれる。
『ソラ。そこは試練系ダンジョンと言ってな、下層のボスは試練をクリアすれば戦わずにクリアできるんだ』
「へぇ~!」
知らなかった~。
次から気を付けよう。
「じゃあ、ボス同士はまた今度ですね」
”残念だが仕方ない”
”まぁいいや、とりあえず試練のボス行こう”
”試練ワクワク”
”試練系はみんな成功するからな~”
”失敗するとヤバいけどね”
「じゃあ、さっそく試練を受けますね!」
俺はボス部屋の扉を開ける。
部屋の中央に真っ赤な宝箱があり、その背後には一体の像があった。
像は髭がとにかく長く、自信満々に仁王立ちしている。
「これが試練系」
”ファーwwwww”
”最高難易度の試練きちゃー!”
”真っ赤な宝箱は初めて見た!”
”超難しい奴じゃん!”
どうやら、試練系は宝箱の色で難易度が決まっているらしく、安全な物で青、ちょっと危険で黄色、ヤバいのは真っ赤らしい。
「参ったなぁ……頭使う奴は苦手なんだけどなぁ。ヴァル、出来そう?」
「私も無理です! ソラ様!」
はい、試練終わり。
”俺達も考える!”
”任せとけ”
”普通、他の配信者も俺たちから意見聞いてクリアするぞ”
温かい応援があるが……それは断る。
「有難いけど、なんか卑怯だからやめときます。ちゃんと自分で考える」
”えらい”
”お前らゲームのネタバレしようとしてるもんだからな”
”良い子だね”
さて……ここからが本題だ。
試練系は基本的に、トラップが仕掛けられているらしい。
「よし、とりあえず宝箱開けるか」
”絶対アカン”
”止めた方が良い!”
”怖すぎる……”
”トラップでしょ”
”一手目から地雷踏み抜こうとしてて草”
”見てるこっちがハラハラする……!”
”ヴァルの時とは違う、スリルやべえ……!”
ふむ……他の人の意見はとても重要だ。
よし、ヴァルにも聞こう。
「ヴァルだったらどうする?」
「宝箱を開けます!」
”こいつら、ダメだ”
”ツッコミ! 誰かツッコミを呼んで来い!”
”アホしかいねえwww”
”アホの子が増えた……”
ふむ……これだけ言われている以上、いきなり宝箱を開けてしまうのはダメか。
「じゃあ周りから探索するか」
”賢い”
”良い子だね”
”偉いぞ、ソラ!”
あぁ、コメントがあったけえんだ……褒められると素直に嬉しい。
その間、ヴァルも一緒に探索するが……ドローンに興味を抱いたようで、ずっと覗き込んでいた。
「しかし、不思議ですな……これで、皆さまとも会話ができるなんて」
”顔近い”
”顔ちけえwww”
”鎧すげえな”
”外見はカッケエんだよなぁ~”
「失礼……少し離れます」
バキッ……と音が響く。
のち、ソラの声がマイクに届いた。
「あっ、やべ……」
”ん?”
”何の音?”
”てか、ソラ画面に居なくね?”
”今、やべって言わなかった?”
「いやぁ、ソラ様も言っておりましたが……現代とは凄いですなぁ……車なるものを見た時は、驚きましたぞ」
画面外で音が響く。
────バァァァンッ!!
”なんかタイムスリップしてきた人みたいなこと言い出した”
”てか、なにこの音!?”
”すげえさっきっから聞こえるんだが!?”
”破裂音じゃね?”
”ソラどこにいるんだ?”
「これで直るかな……」
バシャァァァンッ!!
”何やってんの!?”
”水の音っぽい”
”マジで何やってんだwww”
「ダメだ直らない……誤魔化しとこ」
キュッキュッ……。
“なんだこの音……”
“なんか不穏だな”
”嫌な感じがする……”
“ちょ、マジでソラ何してんの!?”
“!?”
ようやくカメラが向く。
「えっ、何って……この像の髭折れちゃったから、ペンで描いてる」
ブワッと書き込みが増える。
“なんで落書きしてんだこいつwww”
“ヤバすぎるwwwwww”
“wwwwww”
“ちょっとしか目離してなかったのにwwwwww”
”自由人すぎるwwwww”
”アホだろマジでwww”
「仕方ないじゃないですか。この像が怪しいから殴ってみても反応ないし、それで壊れちゃって……髭取れちゃった」
”wwwwww”
”草”
”仕方ないじゃないですか、じゃねえよwww”
”おいw試練系受けさせたの間違いだろwww”
”人選ミスが過ぎるwww”
”アホだw”
”とりあえず殴る理論やめろw”
折れた髭を手に持って、仕方なく呆然と立ち尽くす。
ギミックって言われてもなぁ……と、部屋を攻撃しまくってみたり、像をさらに落書きしてみたり……とにかく色々とやってみた。
「あっ、壁画取れちゃった」
「ソラ様! 床のパネルが壊れましたぞ!」
数分もすれば、俺とヴァルは一緒に「うーん……」と唸っていた。
クリアの仕方が一切分からない。
「これは俺達悪くないんじゃないか? だって、なんもギミック発動しないよ?」
”うわ、トレンドになってるw”
”試練系人選ミスwww”
「うーん……ヴァル、帰る?」
「帰りましょうか、ソラ様」
”こいつらほんま……! ほんま……!”
”自由人すぎるだろwww”
”散々ボス部屋荒らして帰るつもりだぞwww”
”せめてクリアしてけやwwwwww”
”ボス部屋きったねえwww”
”もうだめwww腹よじれるwww”
”無茶苦茶すぎるwww”
ボス部屋から退出しようとした時、声が響いた。
「質もぉぉぉんっ!」
”!?”
”おぉぉっ!?”
”なんか知らない声が響いた!!”
”誰?”
「私の……私の……! 私の髭を折ったのは誰だぁぁぁっ!」
喋っていたのは、落書きされてアホ面になっていた髭の像であった。
”お前かよwww”
”まさかのお前が喋るの!?”
”画面に映すなwww落書きがw面白過ぎるwww”
”可哀想www”
「これ、ギミックが動いたってことだよな……?」
【とても大事なお願い】
仕事をしながら合間で執筆をしています!
『面白い!』『楽しみ!』
そう思っていただけたら応援
作品のフォロー
評価の【★★★】
それらで大変モチベーションの向上に繋がります……!
よろしくお願いします!