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11.【side大神リカ】/学校


 大神リカは、テレビ取材の準備室でマネージャーから受けた報告を聞く。

 リカは化粧の手を一旦止めてもらう。


「……はい? Pooverの所属を断られた……?」


 信じられず、何度も聞く。

 Pooverといえば、日本一の配信大企業であり大物配信者たちを抱え、入りたいと望む人々で溢れている。

 

 毎年数万人ものオーディションを経て、その中から生き残った数名がデビューできるのだ。


 それをスルーし、デビューの確約をしたメールを上野ソラへ送った。


「何か、そちらで失礼なことをしたのではありませんか? それとも、また過激なアプローチを?」


 かなり前に、Pooverはどうしても欲しいと超実力派の冒険者をデビューさせようとしていた。だが、本人が嫌がっているのに、ダンジョン入口での出待ちや、自宅にまで足を運んで説得しようとしてしまったのだ。


 そのせいで超実力派冒険者の逆鱗に触れ、大事故を起こした過去がある。


「いえ、私たちも同じ轍は二度も踏みません。今度は慎重にメールからお伺いしたのですが……すぐに断られたのです」

「じょ、冗談ですよね……普通、狂喜乱舞して即答すると思うんですけど……」


 これでも私は、オーディションからデビューした人間だ。

 多くの人が落ちて行く中で生き残り、ようやくこの地位を手に入れた。


 最近、人気が低迷していたから、無茶をして下層に潜ったら……イレギュラーに襲われた。


 恩もあるし、彼の強さにも驚いた。

 

 これは間違いなく伸びる……! と確信し、お礼という名目で上層部に取り合ってお願いしたのだ。


「そんな……」


 ソラさんって、欲がない人なのかな……。

 でも、配信者なら誰もが人気になりたいと願うはず。


 自己満足でやっている人もいるけど、ソラさんは人気になりたいと願ってるタイプだ。


 なら、断るはずがない……。


「マネージャーさん、この前のソラさんの配信は見ましたよね」

「え、えぇ! もちろんです! イレギュラーボスが出現すると分かっているのに、怯まずに挑んで勝利を掴み取った姿……! あれはカッコよかった!」

「私もです。その後も配信を切り忘れて、素が見れて面白かった」


 つい笑顔が漏れる。

 ソラさんの話題になると、人々がつい笑顔になる。


 共通の話題として、とても良い。


「いいですか、ソラさんは凄い人です! 絶対にPooverに所属してもらいたい……私のためにも」


 そう、このままでは、私はソラさんとコラボすることができないのだ。

 企業系配信者は、個人とは違って好き勝手ができない。

 

 きちんと面と向かってお礼が言いたい。ただそれだけだ。


 個人でそんなことはできないし、会うなんてもってのほかだ。


 偶然なら……とソラさんが通っていると噂されている渋谷ダンジョンに行ってみたけど、会えなかった。


 マネージャーが顔を曇らせる。


「いやぁ……Pooverの所属は無理じゃないかなぁ、と……もう違う人と手を組んでるみたいですし」

「え? どうしてですか?」

「切り忘れた配信で、映ってた銀髪の美少女いたじゃないですか。あの人、大企業ダンジョンネットワーク会社の御令嬢なんですよ」

「へっ……」

「上層部の人たちは、社交場とかで会ったことがあるみたいで、超驚いてましたね」


 数秒、思考が止まる。

 ダンジョン内で使えるネットワークを構築したといえば、年数十億いや、数兆にも上る売り上げを叩き出している大企業だ。


 そ、その令嬢が友達……。


「え……えぇぇぇぇぇっ!?」


 金髪が逆立つ。

 

 そ、ソラさんって本当にとんでもない人!!

 どんな人脈してるの!?


「噂によれば、二人で会社立てて配信やってくみたいですよ」

「はぁぁぁぁぁぁっ!?」


 学生二人で!? 片方超大企業の娘で、ソラさんは超が付く程の今大人気の人……。

 

 す、凄すぎる……あの人たち、凄すぎる……!


 い、いや……驚きすぎだ私……。


 ふぅ、落ち着け。


「ソラさんの登録者数、もう少しでリカさんに届きそうなので、もっと頑張ってくださいね」

「え? え……本当ですか……」


 ど、どういうこと……?

 え……この前まで無名だった配信者が、ちょっとしたことをきっかけにここまで伸びるものなの……?


 いや、ソラさんの配信は面白いのだけど。

 

 それにしても、これは……。


「の、伸びてくるだろうとは思っていましたけど……そこまでですか」


 配信を見た限り、あれはドローンによる撮影だ。それに高画質、高音質……あのクラスの機材は、トップの配信者でも早々持ち合わせていない。


 あの令嬢は本気だ。


 本気でソラさんを日本のトップまで押し上げるつもりなんだ。


 それに見合うだけの土台が、いや……実力がソラさんにはある。


 SNSを開けば、ソラさんの話題ばかりだ。

 私は踏み台にされたと揶揄されているが、彼になら良いと思える。


 命を救ってくれた恩人だ。


 ……この口で感謝を言いたい。


 それに────。


「……負けたくない」


 私は努力で成り上がってきた。貧乏な家庭で、両親を裕福にするために頑張ってきた。

 産んでくれた両親が幸せになって欲しい……その一心で、人気を取ってきた。


「はい?」

「なんだか、あの銀髪令嬢にだけは……負けたくないです!」


 正直、身勝手な気持ちだとは分かっている。誰を責める訳でも、恨む訳でもない。

 でも……私が最初にソラさんを見つけたんだ。


 まるで、横取りされたような気分になっている。


 ソラさんを最初に見つけたのは私だ。

 

 ソラさんとPooverをやれていれば、もっと人気が出せたはず。もっとソラさんを知れたはず。


「あの、ソラさんとのコラボは、やっぱりダメですか?」

「うーん……リカさんの気持ちを優先したいのは山々なんですけど、上層部がオッケーするか怪しい」

「ですよね~……」


 個人でやっていれば、自由に幅は利かせられる。

 まぁ、今は企業のお陰でテレビ取材とかも来てるんだけど……。


 ブブッ……。

 

 スマホが振動する。


「ん、なんだろ」


 スマホから、ダンジョン配信者グループへ連絡が来る。

 他の個人でやっている配信者たちだ。


「……ッ!?」

 

『リカちゃん、ソラくんとコラボしたいんだけど……連絡先知らない?』

『リカさーん! 私、ソラさんとコラボしてみたいんです!』

『あの陰陽師と占い勝負がしたい。占い系配信者の俺の出番だから、連絡先を教えてくれ』

『インゲン豆配信者として、ぜひソラマメ系配信者とコラボがしたいんだ! 連絡先を教えてインゲン!』


 ブブッとさらに通知が来る。

 自分よりも登録者数の多い先輩配信者たちだ。


 彼らだけでも合わせたら、登録者数は一千万人は軽く超えてしまう。


 ……これは、まずいことになっている気がする。


「マネージャー! これ見てください!」

「えっ、メール見せても良いの……?」


 今はそれどころではない。

 これだけの大物たちが注目していることが問題なんだ。


「分からないんですか!? 今、誰が一番最初にソラさんとコラボするか……日本全体で競争なんですよ!」


 この日本のソラ一色であるSNSで……もしも一番最初にコラボすることができれば、それは有名人になるチャンスだ。


「変な人に取られるくらいなら、私がコラボしたいんです!」


 人気が欲しいとか、邪な気持ちはない。

 単純に、ソラさんの最初は私が良い……ただそれだけの気持ちだった。


 

 そして、大神リカと同じ休憩室にいた女性が口を開く。


「へぇ、リカちゃんがそこまで必死になるなんて、ソラって子はそんなに凄いのね」

 

 その言葉が耳に届いた時、リカが視線を向ける。

 大物歌手にして、オリコンCDアルバム歴代売上ランキング1位の超トップ。


 年間数十億も稼ぎ、その美貌、その歌声たるや比肩する者はおらず、まさに歴代最高の天才と呼ばれていた。


 ソラは不明だが、その名を知らない者は日本にはいない。海外でも絶大な人気を誇り、来訪するたびに警察や政府関係者が大勢動くほど。


 それが安西ミホであった。


「ミホさん……その言い方だと誤解されちゃいますよ」

「アハハ、ごめんてば。でも気になるな~……あっ、リカちゃん」

「はい?」


 ミホが一枚の紙を渡してくる。


「今度やる最後のライブの特等席、あげる」

「い、良いんですか!? あ、ありがとうございます!」


 リカはミホの大ファンであった。

 ミホ自身も、自分より一回り若く、活気あふれるリカが大好きであった。


 事実、ミホもリカを妹のように想っている。

 日本でやる最後のライブを、ぜひリカに見て欲しい……そう思っていた。


「ソラって子も誘ってみたら? コラボよりは、簡単かもよ?」

「無理ですよ。連絡先も知らないんですから」

「そっか、残念。最後のライブなんだけどなぁ~」


 ミホはこれから、活動を海外に移すことになっていた。

 日本のトップだけでは、限界を感じていた彼女は……世界へ羽ばたこうとしていた。


「東京の一番デカいところで最後のライブって、やっぱり凄いですね……」

「ふふっ。だって私、日本トップの歌手だもん」


 *


 俺は、朝にコンビニで買ったハムカツを頬張る。

 

「うまほ~。こっちの時代は味が濃いけど、質が良いんだよなぁ」


 この値段で、この量。現代最高! やっぱり日本好き!

 サクヤは後ろの席で、自身が作ったであろう資料に目を通していた。


 それぞれをグラフにし、視聴者の多い時間や、年齢層……男女の比率などを確認している。データを集め、集計して分析するのは得意分野なのだとか。

 机の山になっている書類を簡単に処理していく辺り、サクヤは天才なのだろうと思う。


「あっソラ。お前、誰かとコラボしたいか?」

「コラボ? うーん、うーん……」


 コラボって何するんだ?

 よく分からない……ずっと一緒にやる訳じゃないだろうし。


 コミュニケーションが苦手なのに、わざわざ関わろうとはしないしなぁ。


 人数が多いと何を話せば良いのか分からないし、黙っていると次第に会話の輪に入れなくなる。あのぼっちになる感覚は嫌。心に来る。

 

「困ってる人いる?」

「助けて! とはコラボしに来ないだろう……」

「それもそうか」


 なら、申し訳ないが断るのが基本だろう。

 トラブルに巻き込まれでもしたら最悪だし。


「まぁ、お前がしたくないのなら構わない」

「ありがとう。てかさ、この前、配信切り忘れてたでしょ」

「あ……あぁ、興奮してドローンを忘れていてな」


 サクヤは特に焦った様子もなく、淡々と告げる。

 もっと取り乱す物だと思っていたけど、流石だ。


「私が姿を見せるのなら、もう少し先だと思っていたのだが……それが早くなっただけの話だ」

 

 もしかすると、サクヤは自分を使ってさらに再生数を伸ばす作戦を立てていたのかもしれない。

 サクヤが腕を組んで、少し唸る。


「私はキャラを考えなければな……素を見せてしまうと、性格が悪いとバレてしまう」

「素で良いと思う。サクヤは性格良いよ、優しいし。あむ」


 そういうと、渋い顔をされてしまう。


「私は、アホとは言われたくないぞ」

「アホ」


「ソラマメ系主人公も嫌だ」

「ソラマメ系主人公」


 ……なぜだ。

 俺は素を見せたら、アホとかソラマメ系とか……好き放題言われている。

 別に悪い気はしないし、嬉しいんだけど……複雑だ。


 こう、人気になるって『カッコいい陰陽師』とか『闇夜の陰陽師』とか……そういうのを想像していた。


 まさか俺のあだ名がアホの子とかソラマメが定着するとは思っていなかった。


「ソラは基本、ぼけーっとしているからな。間違いではないだろう」

「そんなにしてるかなぁ」


 これでも、常に頭の中だと色々と考えてはいる。

 サクヤが顎に手を置く。そうして不敵に笑った。

 

「なら、ソラ。次の配信では何をするんだ? 考えているんだろう?」

「アハハ! そんなのもちろん、決まってない……」

 

 何も考えてませんでした、とまでは言えない。

 

「とりあえずダンジョン配信かな、式神とかも見せつつの」


 コツコツとやっていくことが重要だと思ってるし。

 サクヤも納得してくれたようで、小さく頷く。


「それで良いんだ。考えるのはすべて私がやる。お前を支えるのが私の役目だ」

「ありがとう、サクヤ」


 


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 仕事をしながら合間で執筆をしています!

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