第96話:終わらぬ修業
講義が終わり、いよいよ実践となるわけだが……まずはどんな弓が私に合っているのかを調べることになった。
とりあえず、今まで作った弓を全てインベントリから出して、ルリに見てもらうことにした。
「これだけの弓を、全て主様がお作りになったのですか?」
「フェルシアさんに教えてもらいながらだけどね」
講義の間にも話していたため、お互いに若干ではあるが話すことに慣れてきた。
ルリの私に対する呼称も、最初は「ご主人様」だったのだが、さすがにそれは恥ずかしかったので、代案として名前に様付けでと言ったら、従者が主の名前を直接口にするのは控えた方がいいらしく、却下されてしまった。
それ以外の呼び方をいくつか考えたが、結局「主様」呼びに落ち着いた。様付けも必須とのことで、思い付く候補が少なかったのも辛かった……この世界の呼び名事情、面倒くさいな!
「たった数日教わっただけでこの出来ですか……凄いですね。遠からず郷の者にも引けを取らなくなりそうです。練習用にはもったいない気もしますが、先のことを考えると今から慣れておいた方がいいですし、この中から手に馴染むものを探しましょう」
「わかった。小さいものから使っていけばいいのだろうか?」
口調も丁寧にならないように意識して話すことになっている。普通、逆じゃないの?
どうしても他者と距離を取ろうとしてしまうのが口調にも出るようで、基本的に丁寧な口調になってしまうのだが、従者に対してそれは良くないと矯正しなければならなくなった……
別に貴族ってわけじゃないんだからいいと思うんだがなぁ……
それからは、実際に全ての弓を試すことになったのだが、各弓ごとに最適な矢の選択や微妙に違う構え方など、細かい指導を受けながら一通り試した結果、一番使いやすかったのが短弓の中でも最大サイズのもので、次点は長弓のこれまた最大サイズだった……私の体格は小さいのに、なんでこうなった?謎だ……
「珍しいですね。主様の体格ですと、もっと小さい弓が適していることが多いのですが……それに長弓まで適性がお有りとは……」
「まぁ、最大サイズの長弓なんて早々使う機会があるとも思えないし、実質大型の短弓だけで済むと思えば……」
「そうですね。それでは、その弓での修行を終えてから、最後に長弓もする感じでよろしいでしょうか?」
「それでお願いしま……それでよろしく……」
「かしこまりました。」
うおぉぉぉ!慣れねぇぇぇぇぇぇぇっ!
気を抜くとすぐに戻ってしまう……どうしたもんかな?やめていい?めっちゃストレスなんだが……
そして、なんと2日で弓の修業は終わってしまった。
うん。身体制御とか空間認識とかいろいろ持ってるからね、その分でブースト掛かってたんじゃないかな?多分……
一方その頃、弓の修業場所から少し離れたところでは、フィアも修行に励んでいた。
それというのも、木工の実践の時にフィア専用の格闘練習用の木人のような物を作っておいたのだ。
フィアには、少し離れたところでそれを使って嘴で突いたり、足で蹴ったりして近接攻撃の練習と、その他には裏庭を走り回るランニングもしてもらっている。
水と食料とクッションも用意してあって、しっかり休憩もできるようにしてある。疲れて動けなくなる前にちゃんと休むように言ってあるので、倒れるまでやることはないと思うが、一応たまに見るようにしている。
今はまだ何のスキルも持っていないが、だからこそ今の内から嘴や足を使った近接攻撃を重点的に覚えさせておいた方が、コカトリスへ進化しやすいのではないかと考えたからだ。
多分だが、もしコカトリスへ進化するとしたら、ヒヨコからいきなりコカトリスではなく、鶏のような中間種族を経過して到達すると思う。
であるならば、地上を走り回ったり近接攻撃した方が、鶏っぽい進化をするのではないかと予想し、こんな修業をフィアに頼んでみたのである。
敵を倒すわけじゃないから経験値も入らず、レベルも上がらないから進化もしないだろうが、それでも地上戦に関するスキルを予め習得させておけば、いずれ戦闘になった時に有利に戦えるだろう。
どうせ私の修業が終わるまでは、敵を倒しにいくことはないのだから、その期間を使って底上げはしておくべきだろう。
まぁ、レベル1同士、一緒に強くなっていけばいいさ。
……あれ?そういえば、私は称号でベース経験値が半減するって効果があったはずだが……これって、もしかしなくても、フィアの方が2倍速でレベルアップするのでは?
ルリに至っては、既にそれなりのレベルになっていそうな気がするし、私だけずっと低レベルなままになるのではなかろうか?
一度獲得した称号が消えることはない。文句を言うと増えたりすることはあるが、減ることはない。少なくとも私は減ったことがない。
もし、この状態が解除されるとしたら、ベース経験値が2倍になる称号でも獲得した時くらいだろう。でも何故だろうか?そっち系統の称号とは縁がない気がする……
他がレベルキャップに引っ掛かったら、上限解放されるまでに追いつけるように頑張るしかないな……ルリに追いつくのに、果たして何年掛かるのだろうか……?
その後は、槍に始まり、剣、槌、斧と来て、何故か後から呼んだはずの石工とガラス工を先に学ぶことになったり、格闘の修業をしているはずなのに、何故か空中戦になったりもした。
鍛冶は普通に終わったが、錬金術では魔法陣に使う文字に興味を持ったため、師匠と研究し始めたら、盗賊の師匠に「後にしろ!」と怒られて強制終了。残りの修業が終わったら、盗賊と短剣の技能を同じ師匠から教わることになった。
そして、遂に魔術系を残すのみとなったのである。
既に魔力制御を持っていたため、基礎的なことはすぐに終わった。
終わったのだが、あまりにも早く全てのスキルを習得したものだから、師匠たち(魔術系の師匠は2人、それぞれ苦手な属性があるため)が私の才能に非常に興味を持ってしまい、果たして一度の修業でどこまで伸びるのかを知りたいがために、猛特訓を開始したのである。
本来であれば、序盤はもちろんのこと、中盤でも名前すら出てこないであろう秘蔵の魔術書や資料まで持ち出して、私に魔術に関する膨大な知識を詰め込むだけでは飽き足らず、魔力制御に関しても、自分たちの経験則も含めた効率的な運用法まで叩き込まれることになった……
さらには、現状で既に一人前の魔術師並みの魔力を持っていることに目を付けられてしまい、転移魔術で大規模魔術にも耐えうる実験場に連行され、2人と魔術戦をさせられる羽目になった。
おかげで、戦闘時の敵の魔術への対処法を学ぶことができた。
相手がどんな魔術を使おうとしているのかを、詠唱ではなく構成する魔力と魔力の編み方を見て判断する方法や、その魔術を発動前に潰す方法に、潰せない場合の対処の仕方から、相手の魔術を利用した効果的なカウンターの仕方まで、ありとあらゆる実技を文字通り叩き込まれた……
私を勝手に連れ出した挙句、ボロボロになるまで魔術を叩き込んだ2人に対して、怒ったメリルさんの雷が落ちた事は言うまでもない。
ボロボロになった甲斐はあったと、回復した私が宥めるまで説教をし続けられた2人は、私に感謝の言葉を述べると、その場で横になり寝息を立て始めた。余程説教が堪えたのだろう、なむなむ……
そうして、ようやく全ての修業が終わったと思った私だったが……翌朝、己の浅はかさを知ることになるとは、この時は微塵も思っていなかった……




