第92話:デスマーチ開始
「つまり、修業以外の思考を全て放棄すると?」
「そうです。修業以外の時間を可能な限り減らし、修業に集中しようと思います。そのために、装飾が終わったらそのまま木工に入れるようにしてもらえますか?その後の弓についても同様にしていただけるとありがたいです」
「それくらいは問題ありません。いつでも始められるようにしておきましょう」
「ありがとうございます。それと、今後くるであろう師匠たちも同様にしていただけますか?時間短縮と今回のようにならないために、顔合わせはなしでお願いします。各師匠の名前を含む自己紹介も全ての修業が終わってからにしましょう。修業で吸収する必要のない余計なものは全て排除して、集中しようと思います」
「自己紹介もなしで、連続で修行すると?」
「ええ、挨拶は全部終わってからゆっくりします。あとは……メリルさんの予定では、他にどれだけのスキルを覚えることになっていますか?」
「あとは鍛冶と錬金術、盗賊、格闘、短剣、剣、槍、斧、槌、それと魔術を9属性揃えました」
おお、魔術もほぼ全部揃えてくれたようだ。本当にありがたい。あと他に必要になりそうなのは……
「薬師と石工、あとガラス工っていますか?」
「石工とガラス工は呼べますが……薬師はギルドが面倒なので、やめた方がいいでしょう」
「ああ、やっぱりそうなんですね……基礎は図書館で覚えたので、やりたくなったら自分で試してみることにします」
「止めはしませんが、見られただけでも面倒事に発展するので、密室以外では決してしないように」
「わかりました。それでは装飾の続きをしてきます」
よし!これで1種2日で覚えられれば、最短1か月強でこの街から出る最低限の準備は揃う。
できれば、戦闘技術はある程度まで熟練させておきたいところだが、私の精神衛生上よろしくないので、一度街から離れて、独りを満喫せねば!リフレッシュ大事!
準備は整ったし、後は全力で修業に励むだけだ。
ふっふっふ、デスマーチも随分久しぶりだ。昔、ゲームばかりしていた頃は、よく欲しいもののためにひたすら周回とかしてたなぁ……
今回はさながらボスラッシュといったところか。序盤のイベボスからしか入手できない強スキルや強武器のために、セーブ&ロードでやり直し続けていたのを思い出すなぁ。まるで、将来の最強を見据えて、ひたすらやり込み要素にのめり込んでいた頃のやる気が戻ってきたようだ。
これならいける。概算で約1か月、長くても2か月程度、やり込み勢にとってはどうってことない期間だ。
それこそMMORPGなどの(サ終はあるが)終わりのないゲームなら、どうしても欲しいものができたら、そのためだけに半年でも1年でも掛けられるのがゲーマーというものだ。
「ソニアさん、お待たせしました。再開しましょう」
「おかえりなさい。あら?何か顔つき変わった?」
「ん?ああ、それはですね、これからは休憩なしの全力でスキル取得にいくつもりなので、そのせいかもしれません」
「え?休憩なし?全力って、今までも凄い早さで成長してるんだけど……?」
「もっと早くします。可能なら今日中に装飾スキルの取得と全ての技術を覚えておいて、明日から木工に入りたいと思います。」
「ええー?!一体、呼ばれた先で何があったの?!」
「詳しくは、私が木工の修業に移ってからメリルさんに聞いてください。さぁ、準備してください。始めますよ?」
「待って待って!だから、なんで教わる方が主導するのよーっ!!」
そんなことは知りません。興味もないのでスルーです。いいから早く教えるのです。私の心の安定のために。
そう、我が家の平穏さんが家出して帰ってこないというのであれば、こちらから迎えにいけばいいのです。さぁ、待っていなさい。何処へ行こうが隠れようが、必ず見つけ出して捕まえて見せます!
そのためにも、今はあらゆる技術の習得を急がねば!でも手抜きは一切しませんよ?今持っている全ての能力をフル活用して、より正確に、より完全に近い形で、一度の教えでものにして見せます!
高速思考、並列思考、集中、空間認識、直観、直感、超感覚、詳細鑑定、天賦の才の全てを意識して全開で使用する。滅茶苦茶脳に過負荷が掛かっていそうな気がするが、この際放置で!
こめかみやら眉間やら首筋やらが、痛かったり熱かったりするが、まだ大丈夫。この程度ならどうということはない。いけるいける。
かつて熟練度システムがあったゲームで、その熟練度を上げるためだけに、ひたすら同じ作業を繰り返してた時に比べれば、ぬるいぬるい。正確な時間は覚えていないが、確か500時間は軽く超えていたはず。
その後で仲間たちに教えたら、褒められたり、イジられたり、呆れられたりしたんだよなぁ……
なんだ……楽しい思い出も残っているんじゃないか……誰と、なんてタイトルのゲームをしてたかとかは全く思い出せないが、それでも楽しかったことは思い出せる。今はそれで十分だ。
それにあの頃は、今と違って人間不信ではなかった。普通に友人もいたし、一緒に遊んでもいたのだ。何故、いつから、こうなってしまったのかは思い出せないが、まぁ、思い出す必要もないのだろう。
何より……あの女神が、何が何でも思い出させまいと全力で妨害してくるだろうしな……
ああでも、本当に、懐かしいなぁ……
あの頃はまだ、普通に笑えていた。喜怒哀楽が人並みにあり、仲間たちと助け合ったり、みんなで集まってバカ騒ぎをしたこともあったなぁ……
昔から、独りでコツコツと何かをするのは好きだった。だからといって、人と一緒に遊ぶのが嫌だったわけじゃない。自分から人の輪に入っていくのも珍しくはなかった。人と関わっていれば嫌なこともあるが、それよりも良いことの方がずっと多かった。他人を煩わしいとは思わなかったし、避けたりもしなかった。
あの頃の私と今の私は、何が違うのだろう?
賢しい知恵を身に付けたこと?他者への不信感を募らせたこと?それとも……(ズキッ!)痛ったーっ!あー、はいはい、その先は考えるなってことね?……ねぇ、監視度高くない?
何はともあれ、あの頃のように笑えるようになるためには、まず他者への不信感を緩和させるところからかー………めっちゃ難しくない?難易度がベリーハードどころか、ナイトメアとかルナティックくらいあるんじゃないですかね……?クリアできる気が全くしないので、とりあえず保留で。やる気が出た時やってみるってことで……
きっと、自分に自信が持てるようになった後の私が何とかしてくれる、かもしれない?
≪システムメッセージ≫
<一般スキル:装飾 を獲得しました>
お!などと考えていたら、いつの間にかスキルゲットしましたね。
こういう時、並列思考はとても便利。考え事をしてても上の空にならず、真剣に集中して修業を続けていられるって、いいわー。




