表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/220

第91話:もっと単純に


「ところで……そちらの2人は、もうソファに戻ってもいいのではありませんか?」


「そうですね。両名とも、席に着いていただけますか?」


「はい、かしこまりました」


そういって、私の向かいに座るフェルシアさんだが、もう一人のシャルリシアさんが視線を彷徨わせ迷っている。

これは、もしかして……勧め通り席に座るか、従者として侍るべきか悩んでいる?


「私も従者など持ったこともなければ、持つことになるとも思っていなかったので、従者の扱い方を知りません。ですから、今はとりあえずそちらに座っていいと思いますよ?」


そう言いつつメリルさんに目配せをする。


「確かに、いきなり従者として行動しろというのは無理がありますね。それでは、今日からしばらくの間、従者見習いとして、ここで従者として必要なことを学んでもらうとしましょう。カヅキもそれでいいですか?」


「はい、よろしくお願いします。私自身、まだいろいろと学んでいる最中なので、それが全て終わるまでお預けします」


「え……?」


あ、驚いてる。

まぁ、無理もないか。いきなり従者になることになったと思ったら、その教育のために預けられる。うん、自分の意志が全く介在しないまま、自分のこれからが決まっていけば、困惑するのは当然だろう。

でも、いきなり2人にされても間が持たないのはわかりきっているので、受け入れて欲しい。一応こちらも会話する努力はするつもりなので……


「わかりました。それだけ期間があれば、十分な教育が施せるでしょう。それと、カヅキには彼女の名前を決めていただきましょうか?」


「名前?シャルリシアさ……あー、っと……シャルリシアという名前があるでしょう?」


ついいつもの癖で、さん付けしようとしたけど……従者相手だと、多分呼び捨てが普通なんだよな?慣れないけど……


「ええ。ですがそれは、深淵の森の郷の末の姫の名前です。この件を収めるために、その身を捧げた王族の名です。決して”あなたの従者”の名前ではありません。ですから、あなたに従者の名前を決めていただきたいのです」


あー……はいはい、そういうことねー……歴史的には、ここで姫に犠牲になってもらうってことね。表向きは責任を取って死んだことにするために、今までの名前を捨てさせて、別人として仕立て上げようって魂胆か。


「それで誤魔化されるほど、おバカではないと思いますが?」


「問題ありません。口裏は合わさせますし、末の姫シャルリシアが表舞台にでてくることはないのですから。大丈夫です、もう2度とあなたに煩わしい思いはさせません。約束しましたし、何より逃げられてはかないませんので」


詭弁だ!って言われるだけだと思うが、多分何とかするんだろうなー、この人。

とはいえ、改名かぁ……今までの名を捨てるってことは、過去を捨てるってことだ。実際に過去が無くなるわけでも思い出せなくなるわけでもない。だが、もう語ることはできなくなる。

何故なら、別人の記憶など持っているはずがないのだから……


「既に少し煩わしいのですが?名を変えるということは、過去を失うのと同義だと思いますよ?それに過去を失い空っぽになった彼女には、私に従う理由などないのではありませんか?名と過去を奪う理不尽を……私に許容しろというのですか?」


「また、あなたは………どうしてすぐに、悪い方悪い方へと考えるのですか?確かに名前を決めて欲しいと言いました。ですが、名前を奪うなどと言った覚えはありませんよ?それに、なぜ過去を奪うなどという考えに至るのですか?カヅキ、あなたは賢すぎる。それ故に余計なことまで考えすぎてしまう。それをやめてください」


そこまで言ってから、メリルさんはゆっくりと私の傍までくると、私の頭を抱きしめ、


「あなたの過去に何があったのか、私にはわかりません。きっと、すぐにそんな考えが浮かんでしまうような、そうやっていつも酷い惨状を考え続けて対処しなければ、生きていけない状況だったのかもしれません。それが当たり前になってしまうほど、そうし続けたのかもしれません。ですが、今は違います!ここにあなたの敵はいないのです。ここにあなたを脅かすものはいないのです。いいですか、何度でも言います!ここにあなたの敵はいないのです!ここにあなたを狙うものはいません。騙すものも、奪うものも、傷付けるものもいないのです。あなたが警戒する必要は何もないのですよ?不安も、疑念も、恐怖さえも、あなたには不要なのです。言葉の裏など読もうとしなくて良いのです。複雑な思考など捨てて、もっと単純に考えればいいのです。あなたはただ、心安らかに好きなことをしているだけでいいのですよ?」


などと、その言葉通りにしたら、おバカなダメ人間になりそうなことを真面目に言い放った。


いや、余計なことは考えないようにしてるのよ?ネガティブにならないように気をつけてもいるのよ?でも、どうしても最初はそっち方面に思考が走ってしまう。それから慌てて方向転換するんだけど、たまに、いや割と頻繁に気付くのが遅れて漏れ出しちゃうんだよね……


私だって、好きでこんなこと考えてるわけじゃないんだよ!

周りに原因があることが多いの。今回だって、もう名前あるのに改名しろとか言わなければ、こんなことにはならなかったのに!

うう……独りになりたい、切実に……独りで、誰にも干渉されることなくのんびりしたい……


あー、そういえば……今、こんな苦行状態になってるのも、独りになるために有用なスキルを手に入れるためだった……

早く終わらそう!さっさと全部覚えて街を出よう!できれば国も出よう!そしていずれは大陸を出て、絶海の孤島で独り楽しくのんびり暮らすんだ!

うん、もうスキル取るまではのんびりはお預けだ。全力全開全速で修行に励もう。でも寝ないとペナあるっぽいから、寝食だけはしっかり取らねば。


「わかっています。わかってはいるんですが、どうしても話していると、そっちに思考が持っていかれてしまうので……考えないようにするのではなく、余計な思考が入る余地をなくしましょう」


「余地をなくす?」


「ええ、今日2人増えたので、あと私がすべきは装飾の残りの工程と木工と弓です。ですので、寝食以外は休憩なしで、それも過密スケジュールでやりましょう。食事を休憩に充てれば、まさに余計なことを考える暇もなく時間が過ぎるはずです!」


師匠1人につき3日、いや2日でクリアしたいところだ。あと何人くるかわからんが、1日でも早く街を出るんじゃぁぁぁ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ