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第81話:女神の配慮


「えっと……待って下さい。もう使いを出したのですか?それも宣戦布告に等しい内容で?」


「ええ、あなたがソニアと話している間に。時間的には届くまでもう少し掛かるでしょうか?とはいえ今夜中に話を纏め、夜明け前に郷を出て走れば十分間に合うようになっていますので、もう少しだけ待っていてくださいね。あなたの師匠は必ず揃えて見せますから、安心して修業に励んでいてください」


そうしてにこやかな笑顔を向けるメリルさん。とても良い笑顔なのに、すげー怖いです。

とはいえ、何か言えるような雰囲気でもなく、私はそのままスルーすることにした……


「そうですか……わかりました。まだ早いかと思いますが、ソニアさんも明日からの準備があるでしょうし、何より疲れていると思いますので、今日はここまでにしませんか?私も明日からに備えて十分休んでおこうと思いますので、宿に戻って休もうと思います」


「そうですね。休養を取ることも重要ですから、その方がいいでしょう。根を詰めてもいいものができるわけではありませんから。それではカヅキ、また明日待っていますね」


「はい、それでは失礼します。ソニアさんも明日からよろしくお願いします」


そう言って礼をして退室し、そのまま宿に戻る。




時間があったので、厨房の手伝いをしながらヘルプを呼び出し、従魔の育て方の項目を表示させる。


うわぁー………何だこの情報量。これ追加したの、運営じゃなくて女神だな……解放されたタイミングもこっちの思考を読んでる感じだったしなー。

まだざっと見ただけだが、運営がここまで詳細な育成条件と、その条件達成のための方法を網羅したものを公開するはずがないからな……


従魔の系統ごとに設定されている獲得不可な能力に、得意不得意の詳細まで載ってるし、何よりも酷いネタバレが、各能力の獲得方法とその強化方法である。

どうすればどの能力を獲得できるのか、その獲得した能力を伸ばすにはどうすればいいのかが、一通り書いてあるようだ……こんなものを検証班が見たら、ここまでネタバレするなんて酷過ぎると、泣き崩れるのが目に見えるようだ。


それでもまだ配慮はしていると思える部分も、一応あったりはするのだ。

それが進化に関する部分だ。

ここに載っている従魔の系統は、全てその雛型ともいえる幼体だけに絞られている。その先に表示されるであろう進化先の種族名も、どのように分岐、派生するかを示す系統樹も書かれてはいない。

各系統の幼体の基礎情報と獲得能力の系統が詳細に書かれてはいるが、裏を返せばそれだけなのである。


おそらくだが、本来従魔としてテイムされるモンスターは基本的に成体になっているはずなのだ。なぜならば、テイムは実際にフィールドにいるモンスターに対して行われるものだからだ。


フィールドに配置されているモンスターは、多少の個体差はあれど、同じ種族であれば見分けがつかないくらい同じ見た目をしている。それはつまり、同じくらいまで成長しているということでもある。

成長途中のちぐはぐな大きさの個体はおらず、全て成長を終えた成体しかいないというのに、なぜここには幼体のみしか載っていないのか?それはおそらくだが、私がまだ知らないからだろう。これから先、私が出会うであろうモンスターの情報を与えたくなかったのだ。


私がフィアの育成を望んだから、そのための情報は与えたいが、私が嫌がるであろうネタバレはしたくないという矛盾を、本来フィールドに存在せず、またテイムされることもない幼体を系統樹の先頭にすることによって、無理矢理解消しようとしたのではなかろうか?


こうしてみると、女神は女神でいろいろと考えているのだなと思ってしまい、怒るに怒れなくなってしまう。困ったものだ。

そんなことを考えながら、育て方を見つつも手伝いをしていると、私の食事ができたと呼ばれたので、後片付けをしてから食べに行く。


フィアと一緒に食べ終わると自分の部屋へ行き、寛ぎながらフィアの育て方についてをヘルプを見つつ考え始めるのだった。




──── 一方その頃、とある郷の閣議場 ────




「これはどういうことだ?何故こんなことになっておる?」


「そんなもの、使いの持ってきた手紙に書いてあったであろう?」


「そんなことはわかっておる!儂が問うておるのは、何故このような事態になるようなことが起こったのか、それと何故あの人間の娘がここまでのことをするのかということだ!」


「やれやれ……手紙に書いてあるから、もう一度読むがいい」


「もう何度も読み返したわい!儂が言っているのは、何故サイスが客人に弓を引いたのか、その理由だ!それと、何故たったそれだけのことで、この郷が滅ぼされなければならないのかということだ!」


「やかましいのう……そんなことはサイスに直接聞くしかなかろう?後者に関しては例えばだが、今回の件で自国かこの郷か、どちらかが滅びねば収拾が付かぬというのであれば、当然サイスに所縁のあるこの郷になるであろうよ」


「一体サイスの奴は何を……それにだ!向こうにサイスがいるのであれば、本人に責任を取らせればいいだけではないか!」


「サイスの首1つでは足りんのだろうよ……それこそ、最低でもあと2つは必要ということなのではないか?」


「ああ、それで郷で一番の弓師と木工師を使いとして呼んだのか。納得がいったわい」


「戦力と生産力の要を奪われ衰退するか、纏めて滅ぶか選べということか……」


「そもそもだ、これは本当にあの人間の娘からなのか?他の何者かが偽っている可能性はないのか?」


「それはない。確実にあの娘からの手紙じゃよ。尤も、あの聡い娘がこれほど怒りを顕わにすることがあるとは思わなかったが……それだけに厄介よの」


「今は議論している時間も惜しいのでな。郷が滅ぼされることだけは何としてでも避けねばならん。ならば、この婆が行くしかなかろうて……それとシャルリシアも連れて行くぞ」


「なっ!本当に長老自ら行くつもりですか?いくら何でもそれは認められません。それにシャルリシア様は妹姫様ではないですか。こちらもダメです。他に代役を立てましょう。どうせここに住んでるわけではないのです。わかりはしません」


「お主、本気でそう思うておるのか?相手はあの”蹂躙のメリル”ぞ?しかも、まだ理性を残しているとはいえ怒り狂っておるアレに、そのような見え透いた嘘をついてみよ。間違いなく皆殺しにされるに決まっておろう」


「……そ、それは……しかし一族の今後を考えれば、お二方を失うわけには参りません。どうかご再考を!」


「時間がないと言ったであろう?誰ぞ、シャルリシアをここへ。よいか、あの手紙が届いた時点で、もうワシらの首筋に刃が触れておるのじゃ。小細工を弄した時点で首が落ちる。生き延びるためには要求を呑むしかないのじゃ……」


「で、ですが……木工師は確かに長老が一番でしょう。ですがシャルリシア様は弓師で一番とは言えないでしょう?であれば……」


「確かに、今はまだそうじゃろう。じゃが、遠からずそうなるのはお主もわかっていよう?だからこそ引き留めようとしておるのじゃろうが……今回は郷の代表としての首が必要なのじゃ。それ故に血筋も問われる。むしろシャルリシアに弓の才能がなければ、もう一人犠牲を出さねばならなかったであろうな……」


「…………」


「お婆様、シャルリシアです。お呼びとのことですが、いかがなさいましたか?」


「うむ、お主にはすまぬが、一族のためにこの婆と一緒に首を差し出してはもらえぬか?」


「え?…………わかり、ました。お婆様がそのようなことを言うということは、他に道はないのですね?」


「本当にすまぬ。もう時間もないのじゃ、すぐに準備しておくれ。それと姉にも別れを告げてくるといい。おそらく最後の言葉となるじゃろうが、手短に頼むぞ」


「はい、わかりました。では後ほど」


「では、この婆も別れを告げてくるかの。あれには恨まれそうじゃが、致し方あるまい。お主たちもあれを支え、郷を守っておくれ」


「はっ!承知致しました。姉姫様と郷はお任せください。どうか……良き、旅路を……」


「うむ。皆、今まで長らく世話になったの。達者でな」



そう言って立ち去る老婆の姿は、誰よりも毅然としていた。


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