第75話:凄惨な蹂躙
ようやく初戦闘(?)です。
翌日、屋敷に行くとメイドさんに呼び止められ、メリルさんが待っている部屋に案内されることに。
この流れは、おそらく新しい師匠が来たんだろう、な……って、魔力すげぇ……
特に意識していないのにも関わらず、しかもこれだけ離れていてもわかるって、どんだけ魔力持ってんだよ……こんなのたれ流してたら、周りに影響あるのでは?
魔力遮断とかしないのかな?それともできない?いや、これだけの魔力の持ち主がその程度のことができないとは思えないし……だとしたら試されてる?自分の魔力にどう反応するかを見ようとしている?
悪意は感じないし、危険もなさそうなので、このまま素知らぬ顔をしていようか?幸い、私は常に魔力は隠してるので、向こうにはバレてないとは思うが……逆に隠してることで怪しまれるかもしれんが、その時はその時だな。
何で隠してるのかって?そりゃ変なのに絡まれないためだよ。奴らは自分より勝ってるものを見かけると、すーぐ嫉妬して因縁吹っ掛けてくるからね。見えなくしておけば問題ない。カードは伏せるもの。わざわざ手の内を明かすことはない。
なんだろう?こうしていると、ここに来て2日目のことを思い出すなぁ。あの時は図書館で、入った途端に嫌な気配がしたんだっけ。あの時は危険察知その他で、今回は魔力制御だけど……
あの時は王女とギルマス御一行だったけど、今回は果たしてどんな化物が出てくるのやら……
そんなことを考えながらメイドさんに付いて行っていると、メイドさんが止まり扉の中へと声を掛ける。
中から返事があり、メイドさんが両開きの扉の片側を開け、私を促したのでそのまま進もうとしたのだが、直感だろう何かを感じて、扉からぎりぎり見えない位置で止まり、後ろに飛び退く!その際に隠密や知覚系をフル稼働させる。
特に何も起きない……だが、気を緩めることなく、空間認識で中の様子を探る。
「サイス!何をしているの!!」
メリルさんの怒鳴り声と共に鈍い衝撃音が聞こえる。同時にサイスと呼ばれた人物だろう、その人がメリルさんの蹴りを腹に食らい、体をくの字に曲げる。
その付近にもう一人いた。その人は椅子に座ったままこちらを見ている。扉で視界は遮られているが、こちらの様子を私同様に窺っている。
ここにいるということは師匠となるために来た人物なのだろう。おそらくレベルもスキルも桁違いなはずだ。それに引き換え、私のレベルも隠密スキルもまだ1なのだ。全力で隠れたとしても、向こうからしたら丸見えなのかもしれないが、それでも状況が読めない以上、気を緩めることはできない。
私と椅子の人物が静かな戦いを演じてる傍らでは、サイスと呼ばれた人がメリルさんにフルボッコにされている。
普段、落ち着いて声を荒げることもないメリルさんが、手どころか足まで出して攻撃している。それも流れるような体捌きで、両手両足を駆使して見事な連撃をしているのがわかる。
あれ?メリルさんって冒険者時代は弓師じゃなかったか?それなのに何で格闘家も真っ青になりそうな連撃してるんですかね……?
部屋の外から中の様子を窺うことしばし、椅子の人は相変わらず意識をこっちに向けて探っている。
そのすぐ横では、相変わらずメリルさんが苛烈な猛攻を叩き込んでいた。どうやらメリルさんの体術は、蹴りが主体のキックボクシングに近いスタイルのようだ。
両手も使うが追撃や補助といった感じで、蹴りをより活かすために使っている。肺の上から強烈な蹴りで息を吐き出させたところで、喉に追撃を放つ。肺を空っぽにされたところにあれでは、打撃ダメージに加え呼吸困難と窒息で悶絶するのも当然。だが藻掻くことも許さぬとばかりに追撃がさらに入る。いっそ意識を手放してしまえば楽になれるのに、と思わなくもないが……おそらくメリルさんがそれを許していない。そのための連撃。意識を失わぬように、失いかけても即座に引き戻すように、計算された動きで蹂躙している。
その凄惨な蹂躙にも遂に終わりが訪れる。
上体が倒され水平になったところに、上下から挟み込むように肘と膝が迫る。それはさながら、鮫や鰐の顎の如く得物に喰らい付く。狙い過たず鳩尾と真裏の背骨を同時に強打された挙句、仰け反らされ突き出た顎先に向かって、止めとばかりに拳が放たれる。顎先を掠めることで発生した衝撃は、首を支点に頭蓋を激しく揺らし、意識を完全に刈り取られた体は床に叩きつけられるも、目覚める気配はまるでない。
そして、くぐもった嗚咽と打撃音が響いていた室内に静寂が戻る……
「ふぅぅぅぅ………悪いのだけれど、この汚物を中庭に射撃の的を作って、そこに括りつけておいて貰えるかしら?」
「承知致しました」
そう言ってメイドさんが、転がっている人を小脇に抱えて退室する。意外と力持ちなのね……
ちなみに私は、ずっと部屋の外から空間認識と超感覚で部屋内の様子を知覚していました。並列思考もあるので、椅子の人の様子も同時に窺っていました。
「カヅキ、そこにいるのでしょう?」
いますけど……そこにもう一人、ずっとこっちから意識を逸らさない正体不明さんがいるのですが……
「……………」
「本当にごめんなさい。驚いたでしょう?でも、もう大丈夫だから警戒を解いてもいいのよ?」
大丈夫だとは思うんだけど、すぐ横でドッタンバッタン大騒ぎしてたにも関わらず、その時からジッとこっちを見続けてる人がそこにいるんですよ……
「……………」
「ソニア、あなたがそうやってカヅキを捉え続けるから、いつまでたっても警戒されたままなんです。即刻やめてください」
「え?あたしのせいなの?別に何もしてないわよ?」
「あなたの興味の視線が、警戒対象になっているのです。好奇心ではなく慈愛で接してください」
「ちょっと待って。なにそれ、さすがにいきなりそれは無理があるでしょ?」
「無理でも無茶でもやってください。ふぅぅぅ……カヅキ、ここにいる人はソニアと言って、従魔術師兼装飾師です。あなたの師匠として呼んだ人の一人で、決して怪しい人物ではありません。来歴ははっきりしていますし、知識や技術も確かです。性格は……多少不躾なところはありますが、従魔と心を通わせることができる優しさも持っています。生物に対する好奇心が旺盛すぎるのが玉に瑕ですが、カヅキに対するそれは私が何としてでも食い止めますので、どうか姿を見せてくれませんか?」
「ちょっと?!性格に難ありみたいに言わないでくれる?!」
特におかしな反応はないし、大丈夫、か……?
人の良し悪しに関しては、女神もチェックしてるだろうし、ここまで来れたことを信用するしかないか……
若干気後れはするものの、開いている扉から中に入り、まずは挨拶をする。
「おはようございます。そして、初めまして、渡来人のカヅキと申します」
賽は投げられた。後戻りはできない。
変な人じゃないといいなぁ………




