第69話:諦めるかー
「そんな、幼子じゃあるまいし、そこまで心配することはありませんよ。多少加減がし辛いくらいで、別に弱っているわけではないのですから。むしろ以前より強化されているわけですし、いくらなんでも過保護すぎるかと」
「そうは言うけれど、あなたはまだ戦闘技能を何一つとして持っていないのでしょう?いくら平原が安全だといっても、万が一ということもあるのだから、心配するなという方が無理があるでしょう?」
「お忘れかも知れませんが、私は渡来人なのです。我々渡来人に万が一は存在しません。例え道半ばで倒れようと、戻されるだけです」
そうなのだ。渡来人は死なない。死んでも復活地点に戻されるだけで、何度でも蘇る。だから万が一が起こった時は、むしろ即帰還するのと変わりがないという反則的な存在であり、心配するだけ無駄ともいえる。
「それは……確かにそうかもしれないけれど、それとこれとは話が別でしょう?死なないからといって、傷付かないわけではないのですから、心配くらいします」
「心配していただけるのは嬉しいですし、ありがたいとも思います。ですが大丈夫です。私は既に合計で50時間前後、平原で採取や野営をしていますので、十分慣れています」
それに何よりも安全な理由は、私のステータスにある。
多分、この近辺で私に傷を付けられる敵はいないんじゃないかなー?だって耐久と精神の数値がおかしなことになってるからねー……
ダメージの計算式はしらないけど、最低1ダメ保証でもされてない限りは、西側の森でも多分ノーダメな気がする……
「それにまだまだ先の話になりますが、いずれ戦闘技能を教わる時がきます。その時にまともに体を動かせなかったら困るでしょう?なので、今のうちに慣らしておく必要があるんです」
「……それは平原でなければいけない理由はないのでしょう?動き回れるだけの十分な広さがあり、安全で人目のない場所があるなら、別に平原でなくとも良いのですよね?」
あ、何か嫌な予感がする。多分、無駄な抵抗になると思うけど、一応しておこう。人の家の庭を荒らすようなことは気が引けるからね。
「確かにそうかもしれませんが、街周辺で安全なのは平原だけですし、街中で条件に当て嵌まる場所があるとは思えません。これから探すのも面倒ですし、平原に行こうかと」
「いえ、条件に当て嵌まる場所がすぐ近くにあります。そちらであれば人目も少なく、何かあったとしても即座に助けが来ますので、安心して動き回れますよ」
「その場所とはもしかして、この屋敷の中庭や裏庭とかじゃないですよね?」
「さすがに察しがいいですね、その通りです。そこであれば、それなりの広さがあり人目もありませんし、有事の際は使用人が即座に回復しますので、私としても安心していられますので、是非そちらで思う存分、気の済むまで体を慣らしてください」
あー……やっぱりこうなったかぁ……
いろいろと目を掛けてもらえるのはありがたいんだけど、このままこれを享受していると、ダメ人間になりそうな気がするんだよなー……余りにも楽過ぎて。
向こうにそんな気はまるでないことはわかっているんだが、それでも甘やかし過ぎだと思うんだよ。楽に慣れすぎると必ずその反動で苦しむことになるし、それは避けたいんだよね。
何かいい落としどころはないもんかなー……?
「本当に過保護ですね。そんなに甘やかし過ぎては相手のためになりませんよ?甘えることが当然のダメ人間にするつもりですか?」
「そんなつもりはありません。それに、そんなことになるとも思えません。多少甘やかされただけで、それに溺れるような人は「生きて幸せにならなければいけない」などと言われたりしません。そんな叱られ方をする人が、幸せや甘えを当然だと思えるとでも?」
「……痛い所を突いてきますね。ですが、人は慣れる生き物でしょう?」
「では、あなたが幸せに、甘やかしに慣れたら、それをやめることにしましょう。それでいかがです?」
ぐぬぅっ!くっそ、ものの見事に切り返された……ここから切り返すのは無理があるか……
あぁぁぁ、もぉぉぉぉっ!完全に読み間違えたっ!はぁぁぁぁぁ……仕方ない、今回は諦めるかー。
「はぁぁ……見事にしてやられたようです。致し方ありません。今回は甘やかされることにします」
「ふふっ……ようやく折れてくれましたね。ここまで大変な相手は、本当に久しぶりです」
「海千山千の王侯貴族や大商人に比べれば、私など子供同然でしょうに……」
「そんなことはありません。本当に交渉に長けた一部のものを除けば、その辺の大店や子爵以下の貴族であれば、十分に渡り合えるでしょう。特に相手を侮り、あなたの子供のような見た目に騙され隙を見せてしまえば、その時点で勝負が決まるでしょう」
「交渉以前に、そんな面倒そうな相手と会うこと自体、全力で避けさせてもらいます」
そんな面倒そうな手合いは逃げるに限る。誰が相手なんぞするか。勝っても負けても粘着されそうな相手とは、関わり合いにならないのが一番である。
「それでは中庭に行きましょう」
「わかりました」
はぁぁぁぁぁぁぁ………終わったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
本来、裁縫を習いに来ただけのはずが、何でこんな長話に………
女神以外にも、こんなに過保護になる人がいるとか聞いてないぃぃぃぃ……




