第59話:やはり賢い
あー、夜が明けていくな~………
今日の予定としては、まずモームさんにフィアを紹介することだな。それからマールさんのところでリュックの仕様の相談とメリルさんへの弟子入りの件を話し、今後の調薬と錬金術についての相談。その後でメリルさんのところへ行き……そこからが問題だなー……
まず最初の問題となるのが、私の身体能力が異様に向上していること。
ステータスの基礎値がおよそ4倍近くまで上がっているのだ。今までと同じ感覚で動けば、何かしらの問題がでるのは必然だろう。
器用や精神などはともかく、筋力と敏捷は日常生活でも影響ありそうな気がする。
裁縫を習っている際も、力加減を間違えて布を破ったり、道具を壊す可能性も否定できないため、身体能力の把握と感覚に慣れることが急務となる。
メリルさんには現状をぼかして伝え、体に慣れるまでの間、裁縫を待ってもらう方がいいだろうか?
立場と経験から、言葉をぼかしても見透かされそうではあるが、まさか超越種になったというわけにもいかないからなー……
渡来人の中には、極稀にこういった急成長が起きる者もいるとだけ伝えた方が通りがいいか?その方が、そういうものかと納得しやすいかもしれない。
その後は……平原、だろうか?
周囲に人がいないことは大前提。可能なら視界も遮られている方がいいのだが、そんな都合のいい場所はない。森に行くには戦闘用の装備もスキルも何もないし、そもそも森で動き回ったら、樹に激突しまくる気がするから却下である。
冒険者ギルドに行くという手もあるが、自分の体をうまく動かせないところを見られるのは、さすがに恥ずかしすぎる。まず間違いなく「何やってんだ、こいつ?」的な視線が刺さりまくるだろう。それはやだ。
身体制御とかがあるから、そこまで酷い事にはならないかもしれないが……可能性が否定できない以上は、やはり避けたいと思ってしまう。
まずはメリルさんと相談して、どうなるかだな。体がうまく動かせないなら、手先だけで済む裁縫からと言われる可能性もあるしな。とりあえず様子見だな……
そろそろ下に降りるか。
フィアも一度起こそう。寝ている雛を起こすのは気が引けるが、食べることも大切だからな。ここは我慢してもらおう。
「おーい、フィアー、起きてー」
両手で掬い上げるように持ち上げながら声を掛ける。
ピィ?
「おはよう、フィア」
ピィピィ♪
挨拶をするとフィアも返事をしているのか、一度鳴いてから羽を広げて飛びついてくる。人で言うなら、抱き着いて頬擦りしているような状態である。
どうにもこの子は、スキンシップ大好きな甘えん坊なようだ。
まぁ、卵の時からそんな感じではあったが、動けるようになった分、自分から甘えてくるようになったな。まぁ、かわいいからいいけど。
さすがに歩きにくいので、右肩に乗ってもらった。抱き着きや頬擦りは好きにさせておくことにして、肩にフィアを乗せたまま下に降りる。
「おはようございます」
「ああ、おはよう。うん?それは……」
「ええ、ようやく生まれてくれました。名前はフィアと名付けました」
そう言いながら肩の前に手のひらを上にして近づけると、何を望まれているかがわかったのだろう、すぐに手のひらに移動してくれる。
うん、やっぱりかなり賢いな、この子。
餌としていろいろ用意してた時から思っていたが、状況認識と適切な判断ができていて、しかもかなり早い。
人の言語を理解しているのは、そうしておかないとゲームとして成り立たない部分も出てくるからだろう。おそらく従魔となる時にその繋がりを利用して、ある程度思考や感情が伝わるようにしてあるのかもしれない。
それを加味したとしても、生まれたばかりで”待つ”ということを知っていたり、皿を何度かコツコツと嘴で叩いて食べ物ではなく、食べ物を入れる食べられないものとすぐに理解したようでもあった。
おかわりを求めた時も鳴くのではなく、こちらを窺うようにしていたことからも、観察・理解・思考といった知性が既に発達しているように思える。
まだ生まれたばかりで、これからいくらでも変わっていくのだろうが……これまでの様子を見るに、卵の時に望んだことをほとんど備えているのではなかろうか?
戦闘面は不明だが、大人しくて賢くて普段静かで各種耐性を持っている。現時点でも既にこれだけ当て嵌まっている。あとはタフネスと自己回復と敵へのデバフを備えて大きくなったら、タフで知性的なコカトリスの出来上がりである。敵対したらご愁傷様、速やかにお眠りください。
「以前、生まれたら見せて欲しいと言われていたので……フィア、この人はモームさん。優しくて面倒見のいい人で味方だから、攻撃したり迷惑を掛けたりしないようにお願いね」
ピィピィ
うんうんと肩の上で頷くフィア、実に素直で大変よろしい。そしてかわいい。
うーむ……これが所謂親バカ状態というやつだろうか?
「そうかい、無事に生まれてよかったじゃないか。それに大人しそうだし、うるさくもない。宿としてもこれなら何も問題はないさ」
「ありがとうございます。私としても騒がしいのは好きじゃないので、大人しい子が生まれてくれてよかったです」
「それにしても、やっぱり卵が結構でかかった分、生まれた子も鳥の雛にしてはずいぶんでかいねぇ。この子も飯は食うんだろう?」
「ええ、少しずつですがいろいろ出してみたところ、基本的に雑食のようです。生肉も生野菜も焼いた肉も具入りのスープも全部食べましたね」
「そいつはよかった。それならその子の分も用意するから、一緒に食べな。食ったらメリル婆のところに行くんだろう?」
一緒に食べられるのはありがたい。喜んで提案に乗せてもらおう。
「その前にマールさんのところへ行って、装備品について相談しようと思っています。メリルさんの方はその後ですね」
「そうかい。まぁ、頑張りな」
それからご飯を食べ終え、モームさんに一声掛けてから宿を出た。




