第55話:仕様説明
『ですから、もう泣かないでください。この世界に居る限り、如何なるものもあなたを侵すことはできません。だからもう悩まないでください。何者であろうともあなたを苦しめることはできません。あなたは憂いなく自由に過ごしていいのですよ?』
優しく語りかけながら涙を拭う女神。
「でも、私はいろいろと特殊すぎる。どうしたって目立ってしまう。それは確実に嫉妬や軋轢を生んでしまう。特に人間は欲望が強いから、必ず利用しようとする者が現れる」
そうなれば私はそいつらから逃げるだろう。
そういった連中は周囲のことなど考えず、自分の欲を満たそうとする。対抗しようとすれば、大なり小なり周囲に迷惑が掛かるのは必定。それを避けるには、人との関りを減らすのが一番手っ取り早いのだ。
『その心配も必要ありません。まもなくプレイヤーの掃除が終わります。そうすれば、あなたを利用しようとする者も、不快にさせる者もいなくなります。あなたがかつて望んだ淘汰が行われるのです。』
「私が望んだ淘汰?………ああ、そうか。あの時の……」
住人にもGMコールが使えるようにした時に願ったこと。それは”この世界に生きる人々くらいは、他者を慮る者達であって欲しい”だったか……
『ええ、そうです。今、この街にプレイヤーがいないのは、別の街でイベントが行われているからです。それは欲に囚われやすく自分だけを優先する者を刺激し、他者を蔑んだり陥れることに良心が痛まない者を炙り出します。それはプレイ内容だけでなく、掲示板も含めてです。そして炙り出された者はこの世界から追放され、二度と関わる事はありません』
「そこまですると、プレイヤーがほとんどいなくなるのでは?それに、本当に狡猾な人はそう簡単に尻尾は出さないと思う」
実益が絡まなければ、そこまで本気出すことはないかもしれないけど、PKとかならあり得るしな……
あと、そこまで厳選すると、確かに民度は確実に上がるだろうけど、オンラインゲームとして運営は採算取れるのだろうか?どれだけ残るのかにもよるけど、サービス終了しない?
『問題ありません。追放される方が悪いのです。むしろ向こうで厳選してからこちらに寄越してほしいものです。それとどれだけ狡猾でも無意味ですよ。思考を読み取っていますから、考えるだけならまだしも、実行しようとするのであれば叩き出します。』
そこまでしてるのなら、もうどうにもならんな。考えた時点でロックオン、実行の意思決定時点でアウトなのだから、隠していても無駄である。
『それと住人も同様に淘汰されますよ。主にあなたに関わる者たちですが、あなたに危害を加えようとする者は住人によって阻まれます。その指揮を担うのが、エミーリアやメリルです。あなたはあの二人と接触し過ぎるのは危険と判断しているようですが、そんなことはありません。まず前提が間違っています。渡来人は住人と婚姻関係を結ぶことができませんし、貴族になることもできません。仲が良くなれば同居くらいは可能ですが、それ以上の関係にはなれませんので、あなたの警戒は意味がありません』
あー……そういうことになってたのかー。確かに無意味に疲弊しただけだったわ……
この分だと他にも勘違いしてることもありそうな気がする……
おそらく何とも言えない顔をしているであろう私を見て、女神の表情が少し柔らかくなる。
『それと各ギルドマスターたちに関しても同様に、あなたに不快な思いをさせることはありません。ギルドに属していないからと技術の出し惜しみをするところなどありませんし、むしろ先達に教えを請いに来るものが少なすぎるために、逆に歓迎されることでしょう。ただでさえ教える相手がおらず暇を持て余している者たちが、あなたのように物覚えのいい若手が教えを請うて来たとしたら、我先にと師匠の座を得ようと名乗り出るかもしれません。メリルもそうだったでしょう?』
「はぁ~……いろいろと取り越し苦労ばかりしていたのか、馬鹿みたいだ……」
『最悪の事態を想定し、常に対応できるようにと慎重になることは確かに大切でしょう。ですがここでそれは起こりません。特にあなたの周囲では。そのためのメリルであり、エミーリアなのですから』
どんだけ影響力でかいんだよ、あの2人……
『あとはもっとネットを活用した方がいいですよ。あなたの感覚でもう2週間くらいすると、一度ゲームを止めてメンテナンスをすることになっています。その際にいろいろと変更もありますし、掲示板も一新されます。この時、不快な書き込みやネタバレ等は全て削除されます。そのため、余計なものまで見たくないからと、掲示板を控えるようなことはしなくて良くなりますので、これからは見るようにしてください。』
「人が厳選されるうえ、ネタバレとか書き込めなくなるから?」
『そうです。思考を読み取るため、ネタバレを書こうとしても自動的に拒否されるようになります。悪意や侮蔑も同様に書き込み前に検出されて弾かれます』
「なるほど、確かにそれなら見ても不快にはならないか……」
未来の技術凄いな!いやまぁ、それくらいの技術力がなければ、そもそもVRMMOなんて作れないか。
『それとあなた限定ですが、ゲーム内から外部データの読み込みが可能になります。料理のレシピや装備品のデザインの検索や、アニメや動画も見れるようになりますよ。他のプレイヤーはゲーム内専用の掲示板や動画サイトなどが構築されますが、外部に繋げることはできませんので、もしもプレイヤーと会話することがあるなら注意してください』
「凄いしありがたいけど、それはいいのか?」
レシピの検索や動画視聴はともかく、アニメって昔あった月額課金の見放題みたいな感じなのだろうか?
いくら未来だとしても、全てフリーになってるとは思えないけど……ここからじゃ登録も支払いも無理ではなかろうか?
『問題ありません。向こうにあなた専用のデータバンクが作られていて、そこにあらゆるアニメや漫画、小説、ゲームのムービーなども全て納められています。そこから見られるようになっているので何も気にする必要はありません。全てあなたの個人資産のようなものですから』
「何がどうなってんの…?」
向こうって多分、私から見て未来の地球ってことだよね?なんで私のいない世界に私の個人資産があるの?しかもとんでもない量と価値の……
『賠償金代わりに用意させたものですので、気にすることはありません。あなたを散々苦しめた挙句に命まで奪っておきながら、まだ苦しめ足らぬとばかりに、この世界でもあなたを苛み涙を流させた向こうの世界に遠慮することなどありません。』
おお、またお怒りモードに……
『そういえば、今回流した涙の分の賠償も請求しなければなりませんね。何か欲しい物はありますか?向こうに存在する物なら何でも構いません。必ず用意させますから』
うぉぉぉ、こえぇぇぇ……これ、向こうに乗り込んででも奪い取ってくる奴だ………
でも急に言われてもなー、もし頼むとしたら向こうにあってこちらにないもの、向こうでなければ作れないものだろうな……




