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第49話:孫じゃなくて弟子です


「ところで、私はいつまでこうしていればいいのでしょうか?」


「あらあら、ごめんなさいね。つい嬉しくて年甲斐もなくはしゃいでしまったわね」


そう言うと、ようやくメリルさんが離れてくれる。元々人に抱きしめられることはもちろん、触れることすらほとんどないため、緊張と落ち着かなさで精神的に消耗した気がする……


「いえ、そんなことは。モームさん、そろそろお暇しませんか?あまり遅くまでいると明日に響くのでは?」


「ああ、そうだね。メリル婆、急に押しかけて済まなかったね。それじゃあカヅキ、帰ろうか」


「ええ、そうですね。えっと……お婆ちゃん、また裁縫を習いに来ますね」


慣れねぇぇぇぇ!当分、呼ぶたびに葛藤しそうだなぁ……見た目がお婆ちゃんに届いてないから言いにくいんだよぉぉぉぉ!


「あら?カヅキも帰ってしまうの?」


「ええ、モームさんの宿に泊まってますので…」


「そうだねぇ。宿代は大体あと3週間ってところかね?」


「そう、残念ね…。では、こうしましょう。前払いの分がなくなったら、カヅキはここに住むこと。いいわね?」


「え?なぜそんな話に?」


「先程も話したように、カヅキはもう家族みたいなものだもの。家族が一緒に暮らすのは何もおかしくはないでしょう?」


どんどん外堀を埋めて行くのは、やめていただきたい……


「いえいえ、そんなご迷惑を掛ける訳には」


「孫と一緒に暮らすことを、迷惑に思うお婆ちゃんなんていませんよ?」


孫じゃなくて弟子です。勝手に孫にしないでください。私はただの一般渡来人なので、血筋どころか人種も多分違いますよ?


「う、うーん………」


「カヅキ、人間諦めが肝心な時もあるってもんさ。なに、宿代が浮くって気楽に考えりゃいいんだよ」


そう言って、背中をバンッと叩かれる。


「……わかりました。それでは、その時が来たらご厄介になります」


「ええ、任せてちょうだい。それまでにカヅキの部屋はきちんと用意しておきますからね」


と、凄くにこにこした顔で答えられてしまった。

何か嫌な予感がするので、念のため釘を刺しておこう……


「とても張り切っているところをすみませんが、ベッドがあればそれだけで十分です。私は渡来人なので、ほとんどの荷物はインベントリに入れられますから。あまり豪華な部屋だと逆に落ち着かないので、できればこじんまりした質素な部屋でお願いします」


「………そうなのね。ではカヅキの要望をできるだけ取り入れることにしましょう」


「そうしてもらえると助かります」


「話はついたかい?それじゃ行こうかね。メリル婆、今日はありがとうね」


「それでは失礼します。おやすみなさい、お、お婆ちゃん…」


「ええ、おやすみなさい、二人とも。カヅキ、また明日ね」




そうして宿に戻ってから、食堂の椅子に座ってひと息つくと、モームさんに質問する。


「モームさん、メリルさんは貴族なんでしょう?」


「うん?ああ、そうだよ。元辺境伯爵夫人メリル・ランバード、それがあの人の名前だよ」


ああ、やっぱりその辺の爵位持ってたかぁ~。

あの女神、一体どれだけ布石を敷いてやがる……


「やはり伯爵以上でしたか……厄介なことになりましたね」


「どういうことだい?」


「辺境伯爵家に渡来人が足繫く通ったら悪目立ちするでしょう?面倒事の呼び水になりそうな気がするんですよ…」


「考えすぎじゃないのかい?」


「杞憂であればそれに越したことはないのですが、メリルさんの様子からして親しい知人たちに、かわいい孫ができたとか言いそうな気がして、怖いんですよね」


「ああ、それは……ないとは言い切れないねぇ…」


モームさんから見てもそうなのか……まぁ、随分なはしゃぎようだったからなぁ。

人の口に戸は立てられないと言うし、遅かれ早かれ、私が弟子入りしたことは周囲に知れることだろう。

その影響が、小さな波紋で済むことを祈るしかないな……


「もしも……私が姿を消したら、対処しきれない面倒事が起きて、街から逃げ出したと思ってください」


「そこまでのことが起きるってのかい?」


「あくまで最悪の事態を想定した場合ですから……そこまでのことにはならないとは思いますが、用心に越したことはないので、一応そうなる可能性もあることだけは伝えておこうかと」


「それで?最悪の事態って何が起こるんだい?」


「くだらない妄想のようなものですから、知らなくてもいいと思いますよ?いえ、むしろ知ったがために、ということもあり得るので、知らない方がいいのかもしれませんね」


「………ふぅ、どうやら言うつもりはないみたいだねぇ」


「ただの妄想ですので……さてと、それじゃあ部屋で少し休むことにします。おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」




リュックから卵を出して、抱いたままベッドに横になる。

そのままの状態で、卵を撫でながら思索に耽る。


今のこの状況が、まるで用意されたもののように感じるのは、私の考えすぎなのだろうか?

そもそも、人に教えられるほど裁縫が得意な辺境伯爵夫人というのがおかしいのだ。この世界における裁縫とは、通常の服以外にも外套や皮鎧などの防具も含むのだから。

しかも生産の才能などという特殊な能力を見極めることまでできるとか、まるで私の師匠となるように設定、配置されたかのようではないか。

いや、それ以前にモームさんという存在の方が、案内人として用意されたのかもしれない……


まずはマールさん。

初めは雑貨屋として、私が必要とするものを過不足なくセットで揃えた人物であり、卵の運搬に適したリュックを用意し、そして調薬と錬金術の師匠でもある。


次にスゥ婆さん。

食材と調味料だけしか扱ってないが、その分細かいことまで教えてくれた。


そして最後にメリルさんだ。


モームさんから紹介されたのはたった3人だけだが、その3人ともおそらく替えの利かない重要キャラだろう。ゲーム的に言えば、特殊条件をクリアしない限り出会うことすらない隠し要素。


私が一般プレイヤーとは異なる、非常に特殊な行動をしている自覚はある。

だが、それにしても出会う住人が的確過ぎる。


マイアさんは情報、モームさんは料理と睡眠と案内、マールさんは道具調達と調薬と錬金術、スゥ婆さんは食材と調味料と専門知識、そしてメリルさんは裁縫とおそらく上層部へのパイプといったところだろう。

それぞれが専門家で役割が何一つとして被っていない。まるで最少人数で最高効率になるように厳選したかのようだ。


さながらゲームを何周もして、住民の能力や出会う条件や親しくなるフラグを全て把握し、RTA勢のような完全なチャートを作成したうえで、ノーミスで全てクリアしなければ到達できないような状態だ。

私はかなり行き当たりばったりな行動をしている。途中で幾度か女神の介入さえあった。にも関わらず、RTA勢真っ青な完璧な走りをしているとでも?そんなはずはない。

だがそれでも結果がついてきているというのであれば、私以外の何者かが結果が出るように、条件を弄っているのだろうな。



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