表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/220

第47話:見つけ出された才能


「準備ができたみたいね。どれでも好きな物を使って構わないから、カヅキが覚えている縫い方を見せてもらえる?」


「それは構いませんが、きちんとしたものを作れるとは思わないでくださいね。やれるだけのことはしますが、多分ひどい出来だと思いますので…」


「ええ、もちろん。これは試験でも何でもないの。気楽に落ち着いて、ゆっくりと作業すればいいのよ」


「わかりました、では始めます」


そして否応なく始まる実技試験。抜き打ちにもほどがある……

試験じゃないと言ってはいるが、点数や合否がないだけでこちらを試していることには変わりないんだよなぁ……


などと内心で愚痴りながらも、使用する針と糸と布、そしてボタンを選ぶ。

幸いボタンの形状は、私の知るものと同じ4つ穴のものがあったので、それを選ばせてもらった。

まずは時間の掛からないボタン止めからやろう。雑巾だと今の私ではどれだけ時間掛かるか、さっぱり読めないからね。


最初に糸を50㎝くらいで切り、針穴に糸を通し、両方の先端をまとめた状態で玉結びにする。

ボタンを当てている布の裏側からボタンの穴へ針を通し、ボタンの穴を繋ぐように掘ってある薄い溝のある方の穴へ針を通し裏側へ、2周したら残っている穴のうち対角の穴へ裏側から針を通し、同様に2周したら対角へ。この時1周ごとにしっかりと糸を引っ張り、弛みが出ないように気を付けながら合計8周したら、次は穴に通さず布とボタンの間へ針を出し、布とボタンの間の糸を束ねるようにギュッと巻き付け、引き絞りながら3回巻き付けたら服の裏側へ。最後に糸が弛みが出ないように布ギリギリのところで玉結びにして余った糸を切る。これで合ってるはず。

念のため、布を押さえた状態で軽くボタンを引っ張ってみるが、弛みもなくしっかりと固定されていたので大丈夫だと思う。


「確かボタン止めはこうだったと思います」


そう言いながら、メリルさんにボタンの付いた布を渡す。


「ふむふむ……なるほどねぇ……しっかり縫えてるけど、これはきちんと覚えていたのかしら?」


「正確には覚えてません。確かこんな感じだったかな?といった朧げな記憶を頼りにしたので、針を通す回数とかもあっているかどうかは不明です」


「そうなのね。それでこの出来なら十分でしょう。見事です」


「えっと…ありがとうございます。それでは次は雑巾にしたいのですが、結構時間掛かりそうなので、小さめのものにしますね」


「ええ、構いません。カヅキのしたいようにしていいのですよ」


「はい、それでは」


今度は雑巾なので、ある程度吸水性のありそうな厚手の布を折り重ねて、広げた手のひらより一回り大きいサイズの真四角にしたあと、まち針でズレないように固定しておく。

糸もやや太めの丈夫な物を選び、針も糸の太さに合わせる。

糸の長さは継ぎ足しが要らぬように、5mくらいに切ってから先程と同様にする。

外周は端から1㎝くらい内側にするとして、縫い方は丈夫でしっかり固定できる本返し縫いがいいだろう。

まぁ、他の縫い方なんて、波縫いと半返し縫いしか覚えてないんだけどね……

えっと…確か、返し縫いの時は一気にすると、布が縮んだ状態のままになることがあるから、数回ごとに布を引っ張ったり、糸の張りを調整する必要があったはず…?

常に布地がきちんと広がるように気を付けながら、数針ごとに調整しつつ、ヨレないように縫い続ける。

そうして、漢字の回と米を重ね合わせたような縫い目になるようにして、縫い終わる頃にはかなりの時間が経過していた気がしなくもない?

私自身は集中していたためそれほどでもないが、待っていた人は大変だったのではなかろうか…?


「結構時間掛かってしまった気がしますが、とりあえず完成しました。どうぞ」


「ええ、拝見するわね」


待ちくたびれただろうに、おくびにも出さずに手渡された雑巾の出来を確認するメリルさんには、素直に感心してしまう。

きっと、こういう人のことを器が大きいとか言うのだろうな……


そうしてメリルさんは、縫い目を見たり指でなぞったり、雑巾を握ったり引っ張ったりしていたが、やがて満足したのか動きを止めて、こちらを見つめてくる。


「カヅキ、実に見事です」


「え?あ、はい。ありがとうございます…?」


えっと…?小さめの雑巾を作っただけなのだが……しかもうろ覚えの拙い縫い方で……


「ふふ…よくわかっていないようですね。カヅキ、あなたはその身に眠るとても素晴らしい才能を示したのですよ?」


「才能、ですか?小さめの雑巾を、かなりの時間を掛けて作っただけですが…?」


「確かに結果だけをみればそうなるでしょう。ですが、あなたの才能はその制作過程において、確かに発揮されたのですよ」


「制作過程…?」


はて…?作業中に何かやったっけ?

失敗しないようにと、なるべく丁寧に集中してやっていたが、それくらいは誰でもやることだろう。それこそ、より良い物をとなれば今回以上の難易度になるだろうし、丁寧さも集中度も今回より更に高いレベルを必要とするはず。となれば、その2つではなく、別の要素ということになるわけだが……思いつかんなぁ…


「まず一つ目は、妥協することなき丁寧さです。最初は誰でも丁寧に作業をするものです。ですが時間が経てば経つほどその維持は難しくなり、そしてそこに妥協が生まれてしまうのです。最初から最後まで決して妥協せずに丁寧な作業を続けられることは、本当に難しいのです。

次に二つ目は、途切れぬ集中力です。一つ目と似ていますが別物です。どれほど集中力があろうと妥協が生まれる人は生まれますし、妥協せずに作業できる人でも集中力がなければ、それを活かすことができずに時間を浪費し続け、結局作品の質を落とすことが多くなります。

そして三つ目は、視野の広さです。常に全体を意識し、局所的な細かい作業に集中している時もそこだけに囚われず、全体と局所を交互に見ることで、最終的なバランスを調整することを忘れない広い視野がなければ、部分部分は良くても全体的に見るとバランスのおかしい歪なものができてしまうでしょう。

この三つの要素全てを持ち、また活かすことができるものだけが一流の生産者になれるのです」


「私にその3要素があるということでしょうか?」


「ええ、その通りです。カヅキ、あなたは生産者として欠かす事の出来ないとても大切なものを全て備えているのです。それは生産の才能とでも呼ぶべき貴重な素質なのですよ」


ただ失敗しないように、できるだけ丁寧な作業をしただけなのに、何か大事になりそうになってきた。

どうしよう……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ