第46話:新たなる偉い人
「待たせたね、カヅキ。それじゃあ行こうか」
「はい、わかりました。お願いします」
そう言って先行するモームさんの後をついて行っているわけだが……こっち側って確か、所謂高官が住むエリアじゃなかったか…?
だとすると、これから会う裁縫師は相応の地位のある人物ということになる。
でも、地位のある裁縫師ってなると……まさかとは思うが、ギルドマスターとかじゃあるまいな?それ以外となると、元々地位のある人物がそれほどの裁縫技術を身に付けたとかだろうか?
どちらにしても、できれば関わり合いになりたくない系統の人物ではある……
とはいえ、せっかくこちらの要望に見合った人物を紹介してくれるというのに、今更「地位の高そうな人は嫌なので別の人にしてください」などと言えるわけもなく……
前に紹介してもらったマールさんが街中の商店の人だったので、今回も同様に街中で店を開いているか、店に卸している職人だろうと思ったのが間違いだった。
などと考えながらついて行っていると、どうやら到着したようだ。
………でけぇ。
なんだここ?マジでお貴族様じゃねーか……
え?本決まりになったら、私、ここに通うことになるの?いや待って、こんなところに毎日通ってたら絶対目立つじゃん!勘弁してくれぇぇぇぇ………
そしてそのお屋敷に入り、両開きの大きな扉の部屋へ通される。
「ご無沙汰しております、メリル様」
そう言って頭を下げるモームさんと、それに倣う私。
モームさんの丁寧な所作は初めて見たなー…。
まぁ、それだけの相手ってことなんだろうけど……なんでそんな相手を紹介しようと思ったの?しかもアポなしで。おかしくない?
「おやおや、ほんとに久しぶりだねぇ、モーム。でも、そんなにかしこまる必要はないんだよ。ここにいるのは何の肩書もない、ただの婆だからねぇ」
「そう言ってもらえると助かるよ、メリル婆。今日はちょっとこの子のことで頼みがあって来たんだ」
そう言いつつ、こちらに視線を向けるモームさん。
「初めまして。渡来人のカヅキと申します。モームさんの宿でお世話になっております」
とりあえず、無難な挨拶をしておく。対貴族用の作法とか知らんわ!こちとらただの一般人やぞ?予備知識なしで連れてこられても困るんですが?!
「そう、あなたはカヅキと言うのね。渡来人は傍若無人と聞いているけれど、随分と大人しくて礼儀正しいのね」
「カヅキはかなり変わった子だからねぇ……渡来人だけど、真面目でしっかりしてるし、頭もいいし手先も器用で物覚えもいい。でも小食で大人しすぎるのが、ちょっと困りものだねぇ」
「モームがそんなに褒めるなんて珍しいねぇ……昔からダメ出しはするけど、ほとんど揉めたりしない子だったのにねぇ」
「メリル婆、そういうことは言わなくていいから!コホン、それで今日カヅキを連れて来たのは、この子に裁縫を教えて欲しいからなんだよ」
「おやおや、カヅキが裁縫をするの?」
少し意外そうな顔して、メリルさんがこちらを見る。
「はい。自分の装備品は自分で作り、補修もできるようになりたいと思っています」
こういう時は、自分の望みや目標をはっきりと言うべきだ。
特に今回のような相手に対して曖昧なことを口にした場合、どのように受け取られるかわからないし、その受け取り方次第では今後の展開が大きく変わることがあるからだ。
実際、つい先ほどモームさんに偉い人と関わり合いになるのは控えたいと伝えなかったばかりに、こんな状況になっているのだから……
「ふむふむ………」
メリルさんがこちらをジッと見つめてくる。おそらく何かを見定めようとしているのだろうが……
「カヅキは今までに、何でもいいから裁縫に関することをしたことはあるかしら?」
うん?意外といえば意外だが、妥当ともいえる質問をされる。まぁ確かに、例え些細なことであれ、経験の有無は知っておきたいだろう。
「………はい、あります。ほんの数回だけですが縫い物をしたことがあります」
そう。生前、子供の頃に雑巾や簡単な袋やボタン付けを教わった記憶がある。
一応、それなりの出来だったようで、初めてでこれなら大したものだと褒められた覚えがある。
「そうなのね。その時何を縫ったか覚えているかしら?」
「確か、雑巾と簡単な袋とボタン付けをしたのは覚えています」
「どうやって縫ったか、縫い方は覚えているかしら?」
「どうでしょう…?なんとなく覚えてるとは思いますが、大分あやふやになってるかと…」
さすがに記憶が古いし、何よりずっとしていなかったのだ。忘れている方が当然で、むしろ一部でも覚えてるだけマシな方ではなかろうか?
「そう……では、一度縫う所を見せてもらえるかしら?」
「え?そうは言われても、裁縫用の道具類は何も持っていないのですが…」
「あら?そうなの?」
「今日モームさんと話している時に、私が今後どうするのかという話題になりまして、その際に「生産なら裁縫、戦闘なら短剣か弓にしようかと考えている」と言ったら、人を紹介するから待っててと言われまして、その後すぐにここに連れられて来ました。そもそも、どんな方を紹介するのかも教えてもらっていませんでしたので、何の用意もしていません」
「あらあら、そうだったのね。モーム?カヅキはこう言ってるのだけど?」
「おや、言ってなかったかい?カヅキが子供なのにあんまりにも遠慮ばかりするもんだから、少し頭に血が上っていたのかもねぇ…」
「遠慮?」
「カヅキは自分が司書見習いだから、余所者がギルドに技術を習いに行ったら他の連中が嫌な顔するんじゃないかって思って、悩んでたみたいなんだよ。だからギルドの連中の顔を見なくて済むここに連れて来たって寸法さね」
「モーム、あなたという子は全く……なるほど、そういうことだったのね。それなら道具を持っていなくても当然。であれば、準備はこちらでしましょう」
そう言って扉付近に待機している人に目配せをしてから、こちらに視線を向けてくる。
「カヅキ、少しだけ待っていてちょうだいね。すぐに準備するから」
「はい、わかりました」
うん、何が何でも私が裁縫するところを見るつもりだ、この人……
とても丁寧で落ち着いているけど、押しの強さはモームさんに負けてないのは、さすが貴族(?)といったところだろうか?
なんというか、この後もいろいろありそうだなぁ……




