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第42話:成長速度


「おはようございます」


「おはよ~って、何か疲れてない?」


「ええ、まぁ……先程、ちょっとありまして……」


「そっか~…まぁ、とりあえず、中に入って入って~」


「はい、お邪魔します」


そして、いつもの順路を通って作業部屋に行き、頭に卵を乗せる。

作業の準備をしていると、やはり気になって仕方がないのか、マールさんが疲れていた理由を聞きたそうにしている……


「………そんなに理由を聞きたいんですか?」


「そりゃもう、それでそれで?一体何があったの~?」


「それに答える前に1つお聞きしたいことがあるのですが…」


「うん?それは別に構わないけど…何かな?」


「食べ過ぎや胃もたれに効く回復薬かポーションってありませんか?」


「え?食べ過ぎのポーション?カヅ坊、食べ過ぎたの?」


「今はまだ食べ過ぎていません。それであるのですか?それともありませんか?」


「え~っと……腹痛や腹下しの回復薬やポーションは存在するし、ポーションなら置いてあるけど、食べ過ぎは聞いたことない…かな?」


「そうですか……ないんですね………」


あ~、明日ここに来られるか、わからなくなったな……

あの宿に泊まるようになって1か月以上経つが、未だに大盛りを解除してくれないモームさんが作る、お祝いと称して張り切ったご馳走の量とか、考えただけでも胃がもたれそう……


「それで、疲労の原因はなんなの?あと、できればポーションの理由も教えてほしいな~」


「実は今日帰って来てから宿で食事前に、いつもの練習でうさぎを捌いていたらですね……」


「うんうん。そっかー、未だに料理の練習してたんだね~。それで?」


「そうしたら、突然解体スキルが身に付いてしまったんですよ」


「へー…って!え?スキル?解体のスキルを手に入れたの?!」


あ、やっぱり驚くんだ……

もしかして、住人は私が思っているよりもスキル獲得率が低い?


「ええ、それで驚いていたらモームさんに心配されまして、どうしたのか聞かれたので、解体スキルを獲得したことを話したんです。そうしたら、滅多にあることじゃないすごいことだからお祝いをすると言い出しまして、気持ちだけで十分ですと断ったのですが、やめるどころかご馳走を作るから、明日は腹を空かせて帰って来るようにと言われたんですよ。」


「もしかして、さっき聞かれた食べ過ぎのポーションって……」


「はい、明日はほぼ確実に食べ過ぎになると思います。その度合いによっては、こちらに来られないかも知れません。普段の食事も未だに大盛りのままなのに、ご馳走でお祝いとか言っていたので、一体どれだけの量になるのか全く見当もつきません……」


「なるほどね~。まぁ、あれだけ可愛がっていたら、そうもなるよね~」


「つかぬことをお聞きしますが、もしかして解体スキルの獲得って、そんなに珍しいものなんですか?」


「うーん…珍しいってわけじゃないけどね~。ただ、解体に限らずスキルを獲得するっていうのは、才能や努力の証みたいなものだから、友人・知人が獲得したら、そりゃめでたいよね~。ましてや、それが息子のように可愛がっている子なら尚更だから、そりゃお祝いもしようってなるのもわかるよ~」


なるほどね…となると、住人にとっては一人前の証であったり、まだまだ今以上に成長できる素質ありと見なされる指標となるのか。

私たちプレイヤーからすれば、スキルはドンドン増やしてレベルを上げていくものだから、獲得できれば嬉しいし喜ぶけど、そこまで騒ぐようなことじゃない。(スキルによっては祭りになりそうではあるが…)

でも住人の場合はそうそう獲得できるものではなく、おそらく一人前になるまで修業してようやく手に入れられるものなのだろう。その辺の感覚にズレがあるからこうなるのか…

以前、マイアさんとお互いの違いについて話した時には、こういったことは出てこなかったが……多分だけど、私がスキルの獲得に関して言及しなかったせいでもあるだろうな。(システムの方に目が行ってたからなぁ)


「あー、そんな感じなんですね。おそらくですが、渡来人はスキルの獲得がしやすくなっていると思います。」


「え?そうなの?」


「これはあくまで私個人の推測に過ぎませんが、個人差やスキル自体の難易度も関係すると思いますが、毎日集中して1日中修練し続ければ、1週間前後でスキルを獲得できる可能性があるのではないかと思っています」


「そんなに早いの?!」


「本人の素質とスキルとの相性や修練の仕方など、様々な要素が噛み合えばそれくらいで獲得することもあり得るんじゃないかと」


「渡来人ってすごいんだね~……ということはカヅ坊も?」


「まぁ、そうなりますね。それに渡来人だからこそできないこともあると思いますよ?何事もいい事ばかりではありません。天秤の片側が上がるなら、もう片側は下がるものです。バランスを取るために、渡来人だからこその何か劣る点がきっとあると思っています。それが何かまではわかりませんが」


その最たるものが性行為だろうな。

そういう規制があるのもそうだが、そもそもプレイヤーの肉体は生身ではなくアバターである。

偽りの生命を与えられた、目に映る器の表面こそ整えられてはいるが、中身は空っぽでいくらでも作り直しのできる人形でしかないのだ。そこには遺伝子もなければ、それを伝える機能も存在しないのだ。

作り手がそう望み、そうなるように作ったのだから当然である。


言うなれば、プレイヤーとはそれぞれが1種1個の完全に独立した単独の個体である。他の生命体と決して交わる事のない、生まれながらにして滅びている単体種族。

あるいは道が途絶えるだけで、糸が切れて動かなくなる哀れな操り人形。それがプレイヤーだ。


その存在の脆さ、儚さこそがデメリット。

この世界で存在を維持するには、それ相応の努力が必要なのだ。現実リアルでのやる気と時間とお金というリソースを消費しながら(更にゲーム内でもリソースを消費しながら)、その存在を維持し続ける努力の対価として、成長の早さを与えられていると言ってもいいのではなかろうか?

だが、それを明かす必要はない。そんな知識は、この世界の住人には無用の長物だろうから。


「そっかー。ほんと、渡来人って変な人たちだね~」


「まぁ、そうですね。否定はしません」


「あ、否定しないんだ?」


「自覚はありますからね。さて、それでは今日は何をしますか?」


そうして今日もまた調薬が始まった。


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