第35話:使いにくい!
門へ向かって歩いているが、やはり昨日と変わらずプレイヤーがいない…
うーむ…ほんとに大丈夫か、このゲーム?
まぁ、面倒なプレイヤーに絡まれるくらいなら、少ない方がずっといいけども…
どうやら西の街への大移動があったらしいが、攻略組だけならともかく生産職含めてここまでごっそり減る?
そろそろ掲示板を見るべきだろうか?
いやいや、安易に回答を求めるような真似をしてはいけない。そんなものに頼るようになっては、探究する楽しみがなくなってしまうからね。(おまけに余計な事まで見えてしまうのがわかりきってるし…)
などと考えながら歩いていると門が見えてくる。
すると、門番の一人がこちらに向かって手を上げつつ、声を掛けてくる。
「こんにちは、カヅキ。その様子だと、どうやら無事だったみたいだな」
「こんにちは、アランさん。そもそも襲い掛かってくる相手がいる所には行ってませんからね」
「え?昨日、月光花とかを探しに行くって言ってなかったか?」
「ええ、でも森には入らず平原で、ですから。うさぎしかいないので、のんびり採取してました」
「平原で月光花なんて採取出来ないだろう?森に入らないなら、精々薬草ぐらいしか採取出来ないだろうに…」
あれ?この街の門番なのに、平原にもいろいろ生えてるの知らないのか?
いやいや、まさか…そんなはずない、よねぇ…?
「いえ、平原でもきちんと調べれば、薬草以外も見つかりますよ?」
「うん?何を言ってるんだ?そもそも平原では薬草以外は雑草ばかりで、採取は基本的に森でするものだぞ。その薬草にしたってあまり生えてないから、平原で採取するのは駆け出しくらいで、慣れた奴はみんな森で採取するはずだ」
「多分ですけど、その駆け出しの人たちはきちんと資料を集めて、色や形、特徴や生息環境などを事前に暗記してなかったんじゃないですかね?薬草だけにしか目が行ってなくて、そもそも他の薬草類があること自体知らなかったのかも知れませんし…」
「……え?いや、それにしたっておかしいだろう?もしそうなら知ってる奴が平原で採取してるはずだからな」
「知ってる人はみんな効率のいい森に行ってるだけだと思いますよ?いくら安全でも、わざわざ効率の悪い場所で時間を無駄にしたくないだけでは?そして知らない人は見向きもしない、それだけかと」
近場の森なら危険度はかなり低く、数日もあれば十分森で採取活動くらい出来るようになるはずだ。その程度の危険しかないのがわかっていて、わざわざ低効率の平原に行く方がおかしいのだ。
「それなら、カヅキが平原で採取するのもおかしいだろう?それだけ言えるなら、森でも十分採取できるはずだからな」
「私はとっては安全の方が重要なんですよ。お金稼ぎのために採取しに行くわけでもありませんからね。のんびり知識と技術を身に着けること、それが最優先なので金銭効率とかどうでもいいんです。」
「いや、それはそれでおかしくないか…?」
「いいんですよ、私はこれで。さて、門が閉まる前に外に出ないといけませんので、今日はこの辺で。それではいってきます」
「え?あ、ああ…。いってらっしゃい…?」
ふぅ、面倒くさくなって思わず会話をぶった切ってしまった。
でもこれ以上続けても、不毛な議論にしかならなそうだからなぁ…
アランも心配してくれてるんだろうけど、そもそもこの街の近辺にいるのは戦闘力の低い生物ばかりなのだ。門番なんぞしてるんだから、それくらい分かってるはずだろうに。
そもそも渡来人だと知ってるのに、何をそこまで気にするというのか。恩義を感じてるといっても程度というものがある。何事もほどほどが一番である。
それはさておき、外である。
門から離れ、ある程度西に進んだところで卵をリュックから出して抱っこする。
そして、昨日採取した茂みで薬草がどうなっているか確かめると、きちんと元に戻っていた。
これがリポップしたのか、それともまた生えてきたのかは不明だが、一応丸一日で再生するっぽいことはこれで確認できた。
ならば、昨日と同様の採り方をしても、明日のこの時間には再生してるだろうし、これなら現状資源が枯渇する事はないだろう。
あとは昨日と同じルートを辿って、全部再生しているようなら毎日調薬しても大丈夫そうだ。
そうして卵を抱きながら移動し、採取する時だけ頭に乗せるというやり方で採取しつつ、昨日の水場まで到達する。
既に一度通っただけあって、昨日よりも時間短縮が出来た。何しろ薬草類の生えてる場所が完全に一致しているため、昨日とは探す時間にかなりの差が出ているのだ。
しかも、これだけ時間短縮しているにも関わらず、ここまで全て再生していることから、再収穫までの間隔は1日未満と言うことになる。
それはつまり採取人口が増えない限り、十分な安定供給が可能ということになる。
これで調薬の素材で困ることはあまりないだろうし、存分に試行錯誤できるな。
とりあえず水場のめぼしい薬草類は採取し終わったが、月が登り切っていないからか、月光花はまだ現れていないため、時間に空きが出来てしまった。
うーむ…昨日のように横になって休んでいてもいいのだが、今日は料理を試してみよう。
何しろこの世界に来てから結構経つが、未だに一人だけで料理をしたことがないのだ。
初日から飯付きの宿があり、料理の練習も宿で実質見張り付きだったため、今みたいに完全に一人での料理や食事の時間というものがなかったという…
そんなわけで、買ったはいいが一度も使われぬままインベントリの肥やしとなっていた野営道具を取り出し、せっせと準備をする。
これからも採取を続ける以上、今日とほぼ同じパターンで活動することになるだろうし、今後もここでこうして野営することになると思う。であれば、簡易の小型野営場のような場所を作っておくのもいいだろう。
まぁ、もしかしたら地面も一定時間で元の状態に戻るかもしれんが、その時はその時である。
念のため草に燃え移らないように、比較的草の少ない、かつ水場の薬草類が良く見える位置をスコップで薄く掘り返して地面を均し、炊事場の土台っぽい場所を作る。
生活魔法があるので火起こしも非常に簡単、焚き火もすぐである。野営道具も一式揃ってるので足りないものはないのだが……使いにくい!
そりゃまぁ、普段は立ったまま下拵えや調理をしているのだ。焚き火でするのとは作業位置(主に高さ)が違うため、非常にやりにくいと感じても不思議はないだろう…
これは…今後も考えれば簡易の小型キッチンを作るためのパーツを用意した方がいいのでは?
何しろ私には一般の冒険者と違ってインベントリがあるのだ。
重量や持ち運びの手間を考慮せず、多少大きめのテーブルや作業台を用意しても手ぶらで移動できるのだから、それを利用しない手はない。
フライパンや鍋を置くための、五徳が付いたコンロのような台も予め作っておいて、生活魔法で着火するだけで、すぐに調理できるようにしたいな。
それとは別に高さを揃えたシンクのような物も欲しい。野菜などを水洗いする少し凹んだ部分と、肉や野菜を切ったりする作業台が付いたやつ。
あとは…作業台に乗せて立ったまま食べるのもアレなので、テーブルと椅子も用意した方がいいか…
それらがあれば、わざわざ地面を気にしなくても料理も食事も出来るだろう。
しかし、テーブルと椅子だけならおそらくマールさんに頼めばいいだろうけど、簡易のコンロとシンクはこの世界にはないのではなかろうか?
となると必然的に自作か特注になるよなぁ…
などと今後の料理事情に思いを馳せながら、肉を焼いて食べたのだが…考え事に夢中になっていたため、ほぼ手癖で料理してそのまま食べていたので、腹は膨れたが味はあまり記憶に残っていない。
多分、後味から察するに、ごく普通のそこそこの味だったようだ。
初めての野外料理なのに、なんとも間の抜けた食事になってしまった…悲しいなぁ。




