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第34話:雑貨屋マールの困惑


「こんにちは、マールさん」


「おや、カヅ坊。いらっしゃい。何か入り用?」


「ええ、実はこの卵を持ち歩きたいんですが、持ってても目立たず両手も塞がらないようにフード付きのコートでも買って、フードの中に入れておこうかと思いまして…」


「おおー、これはまたおっきい卵だねー。どうしたの、これ?」


「昨日、街の外で夜間採取してる時にちょっと…どうやら生きてるみたいなので、孵化するまで世話をしようかと」


「へぇ~、相変わらず変わった子だねー」


「変わった子って…」


そこまで変か?まぁ、変と言えば変か…

というより相変わらずってどういうことなの?そんな言われるほど変な事してたっけ?


「でも、いいと思うよ~。何かを見つけた時、壊したり殺したりするよりも、生かそうとする方がずっといいと思うもの」


「そうですね。私もそう思います。それでコートのようなものは売ってますか?」


「うーん…その大きさなら、むしろ冒険者とかが使ってる小型のリュックでいいんじゃないの?」


「リュックだと動きにくくなりません?」


「そりゃ大きいのだとね。だから動きやすい小型のやつ。容量が少ないけど邪魔にならないから、主に軽戦士や狩人とかが好んで使うタイプね」


「なるほど…見せて貰えますか?」


「はいはい、ちょっと待ってね~………はい、これだよ。ちょっと着けて見て」


ふむ……これなら卵が余裕で入るし問題ないな。それに普通のリュックと違って、しっかり体に固定されるからズレないのもいいな。


「うん、いいですね。これ下さい。あと卵を巻く柔らかい布もお願いします」


「相変わらず決断と気前が良くて大変よろしい。毎度あり~」


「いえいえ、こちらこそ考えていたのよりも良い物が買えました。ありがとうございます」


「他にも何かある?今はまだ使わないけど、あとで買おうと思ってるものとかでもいいよ?」


この先必要になる物は確かにあるけど…まぁ、言うだけ言ってみるか。


「そうですね、自作した回復薬を入れる入れ物と、それを種類毎に分かりやすく判別するため物ってありますか?」


「調薬の道具も買ってたから、そのうち必要になると思ってちゃんと用意してあるよ~」


「さすがですね。読み通りですか」


「まぁね~。それで、種類毎に分けたいってことだけど、そんなにいろんな薬に手を出す気なの?」


「昨夜一晩で、平原で入手出来る薬草類は一通り採取出来たので…」


一晩で全種揃うとは思わなかったけど、揃っちゃったからなぁ。


「え?一通りって…薬草だけじゃなくて、他のも?平原だとほとんど生えてないのもあるはずなんだけど?」


「多分、運が良かったんでしょうね。私が図書館で調べた資料によると、薬草、微毒草、解毒草、痺れ草、月下草、月光花が薬草類として採取出来るとなっていまして、その6種全部採取してきました」


「は?いやいや、ちょっと待って。昨日初めて採取に行ったんだよね?それなのに、それ全部集めて来たの?普通は薬草以外まず採れないのに…」


「採取どころか街から出たのも初めてでしたね。痺れ草と月光花はたまたまだったんでしょうが、他のはちゃんと資料通りだったので、事前に調べておけば誰でも採取できると思いますが…?」


「いや、出来ないからね?というか、まさか資料持ち歩いて見ながら採取してたの?」


「いえいえ、さすがにそんなことはしませんよ。ちゃんと見た目と特徴、注意点なども含めて全部覚えてから採取に乗り出しましたから」


まぁ、メモ機能があるから資料を持ち歩ているようなものではあるが、一々読み直すのも面倒なので全部丸暗記してあるのだ。


「それはそれで、とんでもないことなんだけどね~……ところで、その採取したやつ、今持ってる?持ってたら全種類見せて欲しいんだけど、どうかな?」


「持ってますし、構いませんよ。えっと…どこに出します?」


「じゃぁ、ここに………うわぁ、ほんとに6種類あるね~。それじゃ、少し見させてもらうね」


そう言うと、マールさんは一つずつ丁寧に手に取ってじっくりと見ていく。

マールさんは雑貨屋だし、こういった薬草類を取り扱っていてもおかしくない。だとすると今は品質や状態を確認してるのかも?

採取なんて初めてしたから、品質にはあんまり自信ないんだよなぁ…一応、最適と思われる採取方法で採っていたけど、なにしろ採取スキルもない完全な素人仕事だからね。

採取用の鋏の扱いが未熟で、切り口が良くないとか言われませんように…


「う~ん、なにこれ?どういうこと?」


真剣な眼で品定めをしているマールさんから、不穏なつぶやきが漏れる。

え?やめてください、心配になるでしょ?

しかも、そこまで真剣に調べてるところを見ると、ただ単によく似た雑草と間違えて持ってきたってわけでもなさそうだし…


「カヅ坊、これ、誰か他の人にも見せたりした?」


「いいえ?見せる相手もいませんし、そもそも自分の練習用の素材として採って来たものですし」


「そっか。なら今のうちに言っておくけど、これは他の人に見せちゃダメ!十中八九騒ぎになるから!」


え?なにそれ。一番近くて最弱のうさぎしかいないノンアクエリアで採ってきたやつよ?

月光花だって、条件さえ満たせば誰にでも採取出来るはず。品質だってスキル持ちには届かないだろう。


「ん?ん~?それは何故です?理由が思い浮かばないのですが…」


「あ~…やっぱり気付いてなかったんだね~。うん、反応からしてそんな感じはしてた。結論から言うと、品質・状態共に良すぎるからだよ。カヅ坊は普通だと思ってるみたいだけどね~」


うん、普通だと思ってました。だって、初めて採取したのに高品質になるとか誰も思わないでしょ?


「そうは言われましても、特に何をしたというわけでもありませんし、調べた中で最適と思われる採取方法を選んで実行しただけですよ?採取道具もここで買ったものですし…」


「でも実際に、この辺ではありえないほど高品質の薬草がここにあるのよね。森の奥ならともかく、その辺の平原ではこのランクはまず入手出来ない。少なくともあたしは聞いたこともないよ」


「そう、ですか…。私自身の感覚はさておき、マールさんがそう言うのであればそうなのでしょう。騒ぎになる前に教えて貰って助かりました。ありがとうございます」


元々誰に見せるつもりもなかったが、それでも自分の採取したものが、高品質になる可能性があるのが知れたのは大きい。今後何か入手した時は一度マールさんに聞きに来た方がいいかもしれない…


「いやいや、いいよ。カヅ坊はお得意様だしね~。あ、薬草ありがとう、返すね~」


「どういたしまして。あぁそれで、完成した回復薬の入れ物の件ですが…」


「そうそう、そうだったね。ん~…今日はもうそろそろ門に向かった方がいいだろうし、また明日来てくれる?それまでにいろいろ準備しておくから~」


「ああ、確かにそろそろ向かわないと門が閉まったら困りますからね。それでは今日のところはこれで失礼しますね。いってきます」


「うん、いってらっしゃい。気を付けてね~」


そう言ってマールさんと別れて門へと向かう。


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