第33話:薬師とは
食べてすぐ寝るのもアレなので、少しだけ調薬に関して復習することにする。
実はこの世界の回復薬には、薬師の回復薬と錬金術師のポーションの2種類があるのだ。
ほんと、どれだけ設定廚なんだよ、このゲームの開発者…
分かりやすくコーヒーに例えると、薬師の回復薬は喫茶店のマスターが自分で淹れるコーヒーで、錬金術師のポーションは工場で大量生産される缶コーヒーのようなものである。
ポーションは一定以上の品質の素材が揃っていれば、錬金術で全く同じ品質のポーションを素材の量に応じた数を一度に作ることが出来る。また術師の力量によって一回当たりの最大個数が決まるため、高位術者だと一度で大量生産も可能である。
更に言うと、ポーションは誰が作っても全く同じ品質・効果量であり、術者の力量による影響は皆無である。
もちろん、種類やランクによる差はあるが、それぞれの効能は固定されており、同じ名前のポーションであれば完全に同一の効能となり、付加効果が追加される事もない。
それに対し回復薬は、素材の品質はもちろん、大きさや鮮度、育った土壌や環境による些細な状態の違いに加え、術者の技量や精製法によっても完成した回復薬の品質・効果量は異なるうえ、付加効果が追加されることも珍しくない。
ただし、その分生産に時間が掛かるうえ、通常は一度に数個程度、強力なものであれば一つしか完成しないため、高位薬師であっても大量生産は不可能である。
これらの理由から、かつては薬師の奪い合いや、監禁して回復薬を作るだけの奴隷のように扱われた事もあり、現在は薬師ギルドによって保護・育成及び仕事量の調整が行われている。
登録・非登録を問わず薬師の監禁・酷使が発覚した場合は、例え王侯貴族であろうとも即刻拘束された挙句、家督の抹消と家財の没収が行われ、関係者は全て処断されることになっている。
と、このように結構やべー歴史のある薬師だが、ノウハウさえあれば各地で採取しつつ、調薬の研究や実験で極めて効果の高い、独自の薬の開発も可能らしいという点が素晴らしい。
女神から与えられたものではあるが、大量に耐性スキルがあるのだ。これを伸ばさない手はない。
しかも何故か、どうすれば耐性が上がるのかをもう既に知っているという…
そのためには強力な毒薬やら回復薬が必要になるのだが、多分買えるようなものではなさそうなので、自力で作った方が良さそうという結論に至ったため、薬師の調薬スキルが欲しかったのだが、薬師ギルド行くと保護されそうなので、完全自力で試行錯誤する羽目に……
※かつて耐性を身に着けるための努力(?)を不意打ちで強制的にさせられ、全ての耐性を獲得するまで中断もなく強要され続けた事実は、女神によってなかったことにされており、彼が知ることは決してない。
でも鑑定スキルもなしに、どんな効果があるかもわからん薬は飲みたくないので、せめて材料くらいはしっかりと効果がわかるようになってからにしたい。
生産職スタートの人だったら、こんな苦労はしないのだろうか?
生産スキル持ってたら、素材持った状態でウィンドウ内の項目をポチポチするだけで、お手軽簡単に完成させられるのだろうか?
まぁ、ないものねだりしても仕方ない。
まずは植物知識を獲得するまで、採取しながら平原を巡るとしよう。ついでに採取スキルも生えてくれないかな?
さて、もうそろそろ腹ごなしの時間は十分だろうし、寝るか。
うーん、卵は…抱いたままでも大丈夫かな?あれだけの激突でも罅一つ入らなかったし、ベッドの中で潰れることもないだろう。
むしろ私の方がダメージ受けそうな気がしなくもない…
それじゃ、抱き枕ならぬ抱き卵を手にして……おやすみなさーい。
んむ……朝……じゃない、昼間か………
そう、寝始めたのは夜ではなく朝だ。昨日から夜間採取をし始めたため、まだ夜型に慣れていない。
体を起こすと、捲れた布団から隣にある卵が姿を現す。
やはり一晩では孵化しないかー…ということは、あとでフード付きのコートを買わないとだな。
フードの中に卵を入れて置けばまず落ちないし、両手も自由に動かせるからね。
さて、下に行って料理の手伝いでもしながら時間を潰しますかね~。
「おはようございます」
「おはよう、ちゃんと寝たかい?」
「はい、大分動きましたからね。ぐっすりでした」
「うんうん、しっかり食べてしっかり寝ないと大きくなれないからね。それはそうと、その卵はこれからもずっと持ち歩く気かい?」
「まぁ、生まれるまではそうなりますね。ただ今日は街から出る前にフード付きのコートでも買って、フードの中にでも入れて置こうと思ってます。さすがに街中で卵を抱いたまま歩き回るのは、ちょっと…」
後生大事に卵を抱いて歩いていたら、注目を集めかねないからね。さすがにそれは回避したい。
「インベントリとやらには入れないのかい?」
「インベントリには生きた動物は入れられないんですよ。この子も生きてるから、卵のままでも動物扱いなんでしょうね、多分」
「なるほどねぇ。それで、このあとはどうするんだい?」
「料理の手伝いをして、夕方くらいにご飯を食べてからコートを買いに行って、そのまま外へ採取に行くつもりです」
「そうかい。それじゃあ後でマールのところにでも寄るといいさ。適当に良さそうなものを見繕ってくれるだろうからね」
「そうですね。そうしてみます」
それから手伝いをしてご飯を食べてからマールさんの店へ。
何か良さそうな物があればいいなぁ。




