第3話:妥協案?
『あとは…そうですね、感覚系も教えておきましょう。』
まだあったのか……
『感覚系に分類されるのは、危険察知、気配察知、気配遮断、魔力察知、魔力遮断、魔力操作、高速思考、並列思考などですね』
「地味だけど優秀なやつだ!」
『ええ、そうです。そしてこれらの取得条件も”感覚を覚えこませる”ことです』
それもか……
この世界きつすぎない?それに私ってこの世界で面白おかしく暮らすために呼ばれたんじゃなかったっけ?なのに無数の苦行が整列して待機してる気がするのは何故だろう…?
『え?どうして苦行なんて思うんですか?あなたを楽しませるためにあなたの好きな事を集めたんですよ?耐性とかすごく役立つけど取得しにくいものをがんばって取得して喜んでいたでしょう?』
「あ、ああ~……そこか!よりによってそこをピックアップしちゃったかー。それは一周回ってテンションおかしくなってる奴だから………まぁでも、ベリーハードモードとかしてたし、そう思っても仕方がないんだろうけど。底上げ出来ない低戦力で状況をひっくり返すSLGと、戦えばいくらでもリソース増やせるMMOは別物だし……それはともかくレベルを上げない方がいい状況で膨大な量のアイテムを戦わずに手に入れろとかどうしろと…?」
『どうしろと言われても、そもそもそういう何もない状態からコツコツと時間をかけて少しずつお金やアイテムを貯めて成長するのを楽しんでいたでしょう?それをより長くたくさん楽しんで貰おうと頑張って用意したのに、どうしてそんなことを言うんですか?』
「いや、だって、考えてみてよ。何もない状態から大量のアイテムを買う資金を集めようとしても、レベルが上がらないように魔物がいる外には行かないとすると、街中だけで稼がなくてはいけなくなる。そうなるとドロップアイテムを持ち帰って売ることが出来ないため、住人の手伝いをするくらいしか思いつかない。しかも初期状態だから出来ることも少ないだろうし、大した金額は稼げないと思う。だとすると、1日かけてもせいぜい毒薬と回復薬を1セット買えればいい方なんじゃないかって思うんだ。
だがそうなると、1年かけて365個、毒薬1つ当たりの効果時間が1時間でも1年、10分なら6年、3分だと20年も掛かることになる。しかもこれをしている期間、周囲の人達からは”毎日1日中手伝いをして毒と薬を買っていく人”と見られるわけで……
はっきり言って不気味、下手すれば”大量の毒で悪事を企てているテロリスト”として牢に入れられてもおかしくないし、しかもこれだけやって最低の1段階でしかないとか、こんな状況を楽しめという方が無理があるでしょ?」
『たった20年でしょう?むしろ耐性1つでそれだけ楽しめると思えばお得だと思いませんか?それにテロリストとして投獄なんてされるはずないでしょう?売っているものを買ってるだけで、お手伝いもたくさんしてるんですから、むしろ善人として有名になっていてもおかしくありません』
「いや、その考えはおかしい…1~2週間ならともかく、1月もすれば変な目で見始めるだろうし、3ヶ月もすれば狂人扱いされてもおかしくないと思う。しかも生物というのは理解出来ないものを拒絶するから、ほぼ確実に排除しようと動き出すと思うよ?」
『どうし『そこまでじゃ!』』
『見るに堪えんから割り込ませてもらうぞ。まず、間違っているのはルミリア、お主の方じゃ。人間の感覚や考え方はこやつの言う通りじゃろう』
『なぜ、ですか…?』
『それはお主が神の視点で調整しておるからじゃ。故に人間の感覚との齟齬が出ておるのじゃ。人間は100年に満たぬ時間が全てだということを忘れておらぬか?自分が存在し続けられる限界の1/5以上の時間を他者に奇異の目で見られながら毒と薬を集めるだけの人生など嫌に決まっておろう』
『ですが彼はこれから』
『そんな事、今は話しておらん。例え住む世界が変わろうと、己の器が変わろうと、中身は人のままなのじゃ。感覚も思考も何も変わらぬ。お主はそれを理解しておらん』
『理解しています。だからこそ彼の好きな事を寄せ集めたのです』
『わかっとらんよ。わかっておるなら”たった20年”などという人間にとってありえない言葉が出てくるはずがなかろう……まぁ良い、この続きはこやつを送り出してからゆっくりと話すとしよう』
『わかりました。ですがまだ彼とのスキル取得に関しての議論が終わってません』
『うむ。それには儂から妥協案を出させてもらおう』
『妥協案?』
『それはな、チュートリアルを使って、全プレイヤーにスキルを与えるというものじゃ』
『え?元々キャラクター作成時にスキルは与えられるようになっていますが?』
『そうじゃな。その後そこで取得したスキルを試すためにチュートリアルがあるわけじゃが、そこでもスキル取得のための修業が出来るようにするんじゃよ、そしてチュートリアルであるが故に、その時だけはお試しで無料の毒薬や回復薬を使うことも出来る事にすれば…』
『お金を稼ぐ事なくチュートリアルの間に耐性を取れると』
『ついでにチュートリアル時のみ条件を緩和すれば、然程時間を掛けずとも全ての耐性を取れるじゃろうし、1段階に留めておけば優遇はしておるがチートと呼ぶほどではなかろう。』
いや、初期状態で全耐性持ちとか十分チートでは…?
『う~む、これでも余計な時間を使わず修行をした上でのスキル取得に纏めたんじゃがのぉ……これでも心苦しいと言うのであればであれば仕方あるまい。であれば、そもそもの設定をお互いが納得出来るように二人で話し合って変更した方がいいかもしれんのぉ』
『「え…?」』
『ついでじゃ、耐性以外の仕様も全て確認して納得いかない部分があれば、それも今のうちに変更しておくとよいじゃろう。』
「既に構築済みの世界の全システムの総チェックと全仕様の把握と変更って……」
『ルミリアはお主に長く楽しんで貰うためにいろいろ授けたいが、お主からすればシステムに納得出来ない部分があったり、自分だけが優遇され他の者に引け目を感じたくないと言うのであれば、二人で妥協点を探す他あるまい』
確かに言われる事は一々ごもっともなんだけど…作業量と作業時間が途轍もないことに……
それこそ20年以上掛かるのでは?いやまて…全仕様ってどこまでだ?全生物の生態系とか進化や退化、地形や植物相、気候や大気・海流の変化、ファンタジーなら魔力とかもあるだろうし…
あ、人やそれ系の国の興亡も含まれる?あれ?そうなると各人種毎に建築様式やアイテムも?
ん?ダンジョン…?あ~~…なんでこういう時にそういうの思い出すかな…いや待て考えるな!ダメだ、これ以上は…”古代文明”とか余計な事思いつくんじゃないよ私ぃぃぃぃ!あぁぁぁぁぁ!
無理!無理無理!!頭パンクするから!私の頭はそんな良くないNooooooooooo!!
『う、う~ん…大混乱してますね……』
『じきに治まるじゃろうが、あまりおかしくなられても困るからのぉ。』
『そうですね。では落ち着いて貰いましょう』
『どうです?落ち着きましたか?』
「う、うぅ…なんとか…」
ひどい目にあった…まさか、自分自身の思考に追い詰められる事になろうとは……
『どうやら大丈夫なようですね。それで…世界の再編をしますか?それとも先程出ていた案で行きますか?』
「………すぅぅぅぅ、はぁぁぁぁぁ……よし!こうなれば仕方ない、納得いくまで徹底的に再編してやるよ!ちくしょうめぇぇぇぇっ!!!(グスン)」
『なんで涙目になってるんですか…?』
「ほっといて……」