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第199話:異世界食材事情


結局、木材は全て秘匿するということになったため、先に木材だけを資料化してしまおうということになり、1種類ずつ取り出しては必要と思われる事項を説明しながら作業を進めた。


メリルさんは早々に慣れたのか、それとも開き直ったのかはわからないが、3種類目で普通に対応し始めた。さすがの順応力である。

それに対してマイアさんはどうだったかと言えば、頭を抱えたり、目から光が消えていったり、声から抑揚がなくなっていき、最後の木材を出した時には、もはや驚くこともできないほど心が摩耗していたのか「はい」と抑揚のない声で返事をするだけで、手だけが動いていた……


もう2~3種類あったら壊れて笑い始めていたかもしれない……一直線に移動せず、素材を求めて徘徊していたらと思うと、ちょっと寒気がした。


さすがにこのままではこの先の作業に支障が出るし、何より気の毒で見ていられないので、これも秘匿事項ということで、プリンを2人に提供することにした。


「おふたりともお疲れのようなので、甘いものでもどうぞ。ただし、これも当面は秘匿情報としてくださいね」


そう言って、インベントリからプリン(スプーン付き)を取り出し、それぞれの前に置く。


「これは……なんでしょう?見たことがありませんし、秘匿ということは”カヅキの持ち物”なのですね」


「…………」


「今は私だけかもしれませんが、これは向こうの一般的なお菓子なので、いずれ渡来人たちがこちらでも作り出すと思いますよ?特に子供や女性陣に人気のお菓子ですから。もしかしたら、もう既に作っている人がいてもおかしくはありません」


「お菓子……」


マイアさんが思考停止していらっしゃる……なんとか復帰してもらわないと困る。素材はまだまだ大量に残っているのだから……


それにしても、マイアさんの消耗の度合いが激しすぎないだろうか?以前から何度か突飛な出来事に直面してるはずだが、その時も驚きはしていたが、こんなに消耗したことはなかったはずだ。なんで今回に限り、ここまで酷くなってるんだろう?


前回の詳細鑑定の時も、驚きながらも資料作成していたし、量もかなり多かったけど今よりずっとしっかりしていた。あの時と一体何が違うというのだろうか?わからん……


「ええ、お菓子です。そのスプーンで掬って食べてください」


「わかりました。マイア、折角カヅキが出してくれたのだから、いつまでも呆けていないで食べましょう」


「はい、わかりました」


そしてプリンを一口食べると、


「……なるほど。とても甘いのに甘すぎず、舌触りもいい。柔らかくて噛む必要もない。子供にも食べやすく甘味を好むものから人気が出るのも頷けます」


などと、メリルさんが感想を述べる。好評でなによりです。そして、問題のマイアさんはというと……止まっていた。


プリンを一口、ゆっくりとだが確かに口に入れるのを確認した。そこで一度目を見開いた後、目を閉じて……そこから全く動きがない。


「はぁぁぁ~……あま~~い……」


大きく息を吐きながら、たっぷりと情感の籠った一言が漏れ出す。そしてまた一口だけ口に含む。じっくりと味わって食べているのがよくわかる。


あー……これはアレだ。私がこの世界に来て、初めて肉を食べた時の爆発的な味覚による感動と似た奴を感じてるのだろう。

ただでさえ、脳と精神が疲弊した状態だったのだ。そこに貴族であるメリルさんが一口で認めるほどの甘味を与えられれば、こうもなるだろう。この様子からして、しばらくすれば十分回復するだろうし、今はそっとしておこう。


「向こうの世界では、このようなお菓子が一般的なのですか?」


「そうですね。このお菓子はプリンというのですが、このプリン自体にもいろいろな種類があります。甘さや舌触り、味の濃さや添え物など、作り手によって様々です。作り方自体もそう難しいものではなく、各家庭でも作れるお菓子です」


「このようなものが、各家庭で簡単に作れる……それはこちらの世界でも作れるのでしょうか?」


「製法自体は難しいものではないので、凝ったものでなければ技術的には大丈夫でしょう。ですが、おそらく材料の方で問題があると思います」


「材料ですか?それは、向こうの世界にしか存在しないものでしょうか?」


「いえ、この世界にもあるはずです。ただ流通しない、する価値のないものと思われているのではないかと……それと、その前に聞いておきたいのですが……向こうの世界のお菓子の作り方を、この世界に広めても大丈夫なのでしょうか?」


「流通する価値のない材料……黄色で食べられるもの……思い当たりませんね。なんでしょう?それと、お菓子の作り方くらい広めても、誰も文句は言いませんよ。それに遅かれ早かれ、他の渡来人が作る可能性があるのであれば、今ここで作ったところで何も変わりませんし、そこからカヅキの存在を知る術はありませんから、安心してください」


「そうですか……一番簡単なものであれば、砂糖と牛乳、牛の乳と鶏の卵の3種類だけで作れます。これは私の憶測でしかありませんが、牛や鶏を食材として育てている人は少ないのではないでしょうか?」


「馬を育てているものはいますが、牛を育てているものは少ないですね。それに育てていても主に作業用としてですし、食材として見ている者は冒険者くらいでしょう。ニワトリというのは聞いたことがありませんが、鳥の一種でしょうか?その鳥の卵が食べられるのですか?」


「あ……この世界には鶏という種類はいないんですね。確か”トッケイ”と”トウケイ”がそれに近い種だと思います。このうち”トウケイ”がメスなので、卵を産むとすればこちらではないかと思います」


「トッケイにトウケイ……確か、街の南東部に生息する鳥のような見た目なのに、飛ばずに走る動物でしたね」


「はい。そのトウケイが卵を多く産む種族であれば、その卵が使えると思いますが……もしかしたら、他の卵でも代用は可能かもしれません」


「……そもそも、基本的な疑問なのですが、獣の卵というのは人間の食材として大丈夫なものなのですか?」


「中身だけなら、きちんと加熱すれば大丈夫なはずですが、こちらの世界の卵で試したことはないので、何とも言えません……それと鮮度が大事なので、産んでから時間が経ったものはダメだと思います」


「つまり冒険者に依頼しても、届いた時には手遅れになっている可能性が高いということですね」


「そうなります。ですので、食材の方に問題があるということになるわけです」


想像以上に畜産関係が壊滅的だった……輸送の問題だけかと思っていたら、そもそも牛も鶏も飼われていなかったという……あれ?ということは、バターやチーズもないのでは?そういえば、この世界に来てからというもの、どっちも食べたことないわ……


うん。プレイヤーが未だにプリンとかを作ってない理由がわかった気がする……


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