第197話:増幅率の差
師匠たちにも手伝ってもらって諸々の検証の結果、威圧スキルが特定スキルの影響によって、その効果を増幅することは証明された。それと同時に、何故今まで誰もそのことに気が付かなかったのか、その理由も判明した。
効果が確かに増幅されているにも関わらず、誰にも気付かれなかった理由は、その増幅率にあった。
なんと、私と比較すると住人の増幅率は僅か10%しかなかった。おまけに威圧スキル自体の効果範囲も非常に狭かった。まさか、師匠たちでも最大で20m弱程度の範囲しか効果を発揮しないとは思ってもみなかった。
ランク詐欺で実質英雄級な師匠たちでさえ、威圧スキルの効果はこの程度でしかないのだ。特効スキル1つあたりの効果が10%の増幅でしかない上に、そもそもそういった装備自体、かなり希少で手に入れられる人が少ない。それに加えて、効果が重なるほどピンポイントで同じ特効が付いてる装備を、複数持ってる人など極稀だろう。
つまり、特効装備を2つ装備していたとしても2割増しでしかないのだ。そして、それは最大でも3m強しか効果範囲が広がらないということでもある。英雄級でさえ、その程度の増幅率なのだ。それより下位の冒険者たちなど、推して知るべしである。
威圧スキルは通常、目の前にいる敵に対して使用するもので、ダメージも何もない。そもそも、そこまで離れている相手に使用するようなスキルではないのだから、距離など計測する必要などない。更に言うなら、効果は”効く”か”効かない”の2種類しかないから、今回の様に意図的に検証でもしない限り、範囲も威力も計測できないために、誰一人として気付くことがなかったようだ。
それにしても、まさか私と住人で増幅率に10倍も差があるとは思わんかった……
こうなると、他のプレイヤーの増幅率が気になるが、確かめる方法がないしなー。そっちは、いつか他のプレイヤーが育ったら自然とわかるだろうし、それまで放置でも問題ない。
なにはともあれ、これで威圧スキルに関する検証は終わった。今はマイアさんが、検証で得られたデータを基に資料をまとめている。それが終わり、一息つくまでは時間が空くので、今のうちに師匠たちにフィアたちの訓練を頼んでおこう。
今のところ、人型の敵とは遭遇していないが、それも時間の問題だろう。遅かれ早かれ、いずれは遭遇し敵として戦うことになるのだから、今の内からその対策をしておくに越したことはない。
人型の敵は武器や魔法を使える。であれば、その武器や魔法を使われた時のより良い対処法を学ばなくてはならない。そして、今ここにはそれらの扱いに長けた人たちがいるのだから、その人たちからの攻撃に対して的確な対処ができるようになれば、並大抵の敵からの攻撃を捌けるようになるはず。
別に急いで向こうに行かなくてはならない理由もないし、フィアたちが十分に育つまで待っていてもいいだろう。先々のことを考えれば、この機会にしっかりと人型との戦闘経験を積んでおくことは、決して無駄にならないだろうからね。
素材の取り扱いの協議については、種類も多いし結構時間掛かりそうだし、私もそうそう暇になることはないだろう。もし暇になったとしても、それらの素材を使って何かを作ったりしてもいいし、訓練に混ざってもいいだろう。
そんなことを考えながら、師匠たちにフィアたちの訓練を頼んでおく。やはり暇だったのか、滅茶苦茶乗り気で引き受けてくれたので、フィアたちを託してからメリルさんたちの待つ部屋へ向かった。
さて、お次は死の森の素材に関する諸々だなー。
「それでは素材を出していきますが、街から近い方からでいいですか?」
「そうですね。一番手前の素材なら、かなり危険ですが実力者なら採取できる可能性もありますし、その価値によって公開するか決めましょう」
「わかりました。ではまずは木材から……」
「え……?木材、ですか?」
「ん?あ、薬草類からの方がよかったですか?」
「いえ、そうではなく……あの死の森で木を伐採したのですか?」
「ええ、そうですが……もしかして、伐採してはいけないとか、そういう決まりみたいなものがありました?」
でも、ウルは何も言わなかったし……もし、伐採してはいけない樹木が生えていたら、ウルから制止が入ると思うんだが……?
「そういうわけではありませんが、あの森で不用意に大きな音を立てると生きては帰れないと言われており、それもまた死の森という名の由来のひとつなのです」
「あー……そうだったんですね……確かに、あそこは完全な無音の空間ですから、音を立てると凄く目立って周辺の敵性存在がみんな襲ってくるんですよ。しかも無音で四方八方から襲ってくるので、感知系スキルなどで周辺全体のあらゆる動きを常に知覚していないと、気付いた時には手遅れになりかねません」
「それがわかっていながら、伐採なんてしていたのですか?」
「常に感知はしていましたし、事前に周囲の敵は全て倒しておきましたから大丈夫ですよ。一度真っ新にしてしまえば、新しく知覚範囲内に入ればすぐわかりますので、対処もしやすいですしね」
「そんな芸当ができる人はあなたくらいなものですよ、カヅキ。威圧スキルのことと言い、僅か数か月で一体どれだけ成長してるのですか……」
そんなことを言われましても……この強さの一端は、あなた方の作った装備にもあるんですよ?私も人のことは言えたもんじゃないけど、メリルさんも自分の力量を自覚していないのでは……?
「私のことは置いといて……そんなわけで、伐採してきた木材がこちらになります」
もう面倒なので、さっさと話しを進めてしまおう。最初からこれでは前途多難すぎて、いつ終わるかわからくなってしまうからね……