第176話:ふおぉぉぉぉぉぉっ!
そこそこ時間は掛かったが、予想通りに噴き出す勢いは徐々に失われ、今は緩やかに湧き出しているが、元々結構な高温なので湯気がすごい。ということで、予め用意しておいた湧き出し口付近の蓋を閉めた。それにより、全ての水路に蓋がされ、外側から砂や枯れ葉などのゴミが入ることはなくなった。
『これで、後は待つだけになりました。それでは風呂の方へ移動して、水温がちょうどいいか確かめるとしましょう』
『ええ、そうですね』
それから、まず規模の小さい屋内風呂へ行って温度を確認し、大丈夫なようだったので次は露天風呂の方へ向かう。さすがにこちらは元々広い上に、今までは水路から水だけが流れていたので、お湯が流れ込んで来てはいるものの、水温が安定するにはまだまだ掛かりそうだ。
こっちはまだしばらく掛かりそうなので、今のうちに桶とかを用意しておこう。脱衣所の方にもいろいろ置きたいところだが……バスタオルも浴衣も籐籠も持ってないんだよなー……それにシャンプーやボディソープはもちろん、石鹸すらないのは悲しいので、その内に素材を集めて作ろうと思う。
汚れ自体は〔洗浄〕できれいになるんだけど……なんとなく、そういうものだという固定観念があるから、そうしたいってだけなんだけどね。
まぁ、それらはいずれ作るであろう、温泉旅館みたいなやつができるまでに用意すればいいかー。今はまだ私専用だし、なくても問題があるわけじゃないからね。
そういえば……今まではお風呂代わりに〔洗浄〕を使っていたから服を脱ぐ必要がなかったし、装備も着たり脱いだりしなくても、装備画面で変更することができたために気付かなかったが、この世界でプレイヤーって裸になれるのだろうか?
おそらくだが、成人指定のゲームであれば可能だろう。でも、このゲームがMMORPGだということを考慮すれば、おそらく全年齢、少なくと学生もプレイ可能な範囲にしているのではなかろうか?
つまり、未成年もプレイする以上、そういった性的表現に関わる部分には、それなりに規制が入るような気がする。ということは、お風呂に入るからといって、裸になろうとしたけど服が脱げない仕様になっている可能性もある。
まぁ、気になるなら脱いでみればいいだけなんだけど……何故だろう?女神がガン見してるような気がしてならない……ブンブンブンブンとめっちゃ首を横に振って、必死に見てませんよアピールしているイメージが送られてきたわけだが、このタイミングでその反応ができてる時点で、しっかりこっち見てんじゃねーかっ!
全く……いくら中身がおっさんでも羞恥心くらい残ってるんだぞ?それに、この肉体はそもそも女神が作ったものだろうに……元の私とはまるで違う、華奢で小柄な少年の姿にしおってからに……まぁ、動きやすいし、目も良く見えるし、余計な肉も付いてないし、疲れないのは非常にありがたいけど。
そんな、自分でデザインしたであろう肉体をガン見する必要も……あー、もしかしてアレか?自作の完成度の高いフィギュアを舐めるように見回して満足するとか、そういうやつか?うおっ!めっちゃ強い否定と抗議のイメージが……あーもー、わかりましたよ。さっきの憶測はなかったことにすればいいんでしょ?前にも言ったけど、いくら何でも心配しすぎだ。そこまで常時見張ってなくても、今は知り合いもできたし、この辺ならどうとでもできそうだから、もっと余所見していてもいいんだけどね。
さて、どうするか……さすがに服を着たまま入るのはなー……って、そういえば確か湯浴み着なんてものがあった気がする……着たことないから構造とか良く知らないけど、確か浴衣と似ていたはず?多分、それを作れば装備として変更できるのでは?それなら脱がずに済むし、とりあえず、それっぽいのでいいから作ってみるかー。
一応、作ってはみたものの……手元に布系の素材があまりなくて、コレジャナイ感がすごい……今度街に戻ったら、いろいろと素材を仕入れておこう。温泉に入るってところから、湯浴み着を思い浮かべられなかったのが敗因だなー……
まぁいいや、湯浴み着を作っているうちに露天風呂の方も準備が整ったようだし、まずは久々の温泉を堪能するとしよう!
脱衣所まで来て思ったのが、私だけなら脱衣所いらないよね?ってことだ。後から呼んでくる2人には必要になるだろうから無駄ではないが、なんというか、ちょっともにょる……
それはともかくとして、脱衣所から露天風呂の方へ行くと、気温が低いわけではないので湯気はほとんどないが、それでも十分風情ある光景だと思う。既に脱衣所で、各種装備を外して湯浴み着のみになった上で〔洗浄〕もしているので、準備万端である。
まずは桶を使ってお湯を体に掛けていく。
ふおぉぉぉぉぉぉっ!久々の掛け湯の感触だぁぁぁぁぁぁっ!
この肩から体を伝って下へ流れていくお湯の温かさ。思わず何度も掛け湯をしてしまうが、ハッと我に返り、素直に温泉に浸かることにする。
お、おおぉぉぉぉぉぉぉぉ…………
お湯の中に足を入れただけで感動してしまった。まだ足湯状態でしかないのに、すごく懐かしくてホッとする心地よさ。それを感じながら、少し前に進み体を曲げてお湯に浸かる。ちょうどよく背中が嵌るように作ってある石組みの窪みに背中を預けると、全身から力が一気に抜けていく。
ああぁぁぁぁぁぁぁぁ………
なんかもう、いろいろと溶け出していくぅー……
肉体疲労とか、もうほとんど感じなくなったこの体ではあるのだが、なんというか、全身から疲れがお湯に溶け出していっているかのように感じる……
はぁぁぁぁ、やはり作って良かった。人里離れた森の奥にある秘湯温泉。心地良い露天風呂だけではなく、そこから望む景色もまた格別である。目の前に広がる木漏れ日の差す森に緩やかに流れる清流、その清流から聞こえてくるせせらぎもまた素晴らしい。まさに憩いの場と呼ぶに相応しい場所になった。
これは、我ながら会心の出来だと思う。まだまだ足りないものは多いが、今しばらくはこの安らぎを堪能していよう。あー、ぬっくい……