第175話:湧き出す温泉
1本、また1本とパイプを繋げては、それを地下にねじ込んでいく。それを繰り返すこと110回以上……あと少し、あと少しだぁぁぁぁぁっ!
源泉の深さはおよそ2400m、そしてパイプは1本あたり20m、つまり120本埋めれば辿り着くことになる。とはいえ、上辺に付いただけでやめると、水量が減った時にすぐ汲み上げられなくなってしまうため、できるだけ下の方まで延ばしておきたい。そんなわけで、120本では終わらないが、もう終わりは見えているのだ。このまま一気に終わらせてしまおう。
はぁぁぁぁぁぁ。終わったぁぁぁぁ…………
これで、あとは先端のドリルを破壊すれば温泉が湧くのだが、その前にもうひとつだけ仕事が残っているのだ。それは、ここから湧き出した温泉を、露天風呂と屋内風呂に流れ込むようにする必要があるということ。
そのためには、湧き出した湯を受け止める場所と、そこから風呂までの水路を予め作っておかなければいけないので、先にそちらを完成させることにする。
いくら源泉かけ流しにするとはいえ、単位時間あたりの湧出量が多すぎる場合、水路の水で十分に冷ますことができなくなってしまうため、パイプの直径をほどほどにしておくことで湧き過ぎないようにしておいた。
この調整は全土木スキルがやってくれた。どういうわけか、水路からの水によって2つの湯舟が適温になるように、最適な湯量になる直径になっているらしい。なぜ水路の水量まで計算できているのかはわからんが(だってある程度なら、水路の分岐のところで水量調整できるようにしてあるから、常に一定ってわけじゃないのよ?)、私が設定した41度のお湯が湯舟に流れ込むようになっている。
どうやって温度設定したか?設計図書く時に考えてたら、勝手にそうなったんだよ?ちなみに41度なのは、私が40~41度のお風呂が好きだから。ただそれだけである。
そんなわけで、源泉からの水路やら何やらも完成し、遂にその時が来た!
では、地下2400mにある先端部をどうやって破壊するのかというと、弓矢で押し出すだけである。あの先端部は、ちょっと強めに引っ張ってやれば簡単に取り外せるようになっているアタッチメントなのだ。なので、パイプの反対側の穴から棒を通して押すだけでも外れるようになっている。2400mも上の位置から矢を撃ち込まれれば、重力加速度も加わり押し出すには十分な威力となるのだ。おまけにパイプという誘導路付きなので、狙いが外れるということもない。
『ウル。もう少しで完成しますよ。フィアとヴェルもちょっとこっちに来てもらえる?』
『遂に完成ですか。どのようになるのか楽しみですね』
『ピィィィ』
『グルゥゥグルゥゥ』
フィアは近くで昼寝していただけだからすぐに寄ってきたが、ヴェルは今日も川へ遊びに行っていたので、少し時間が掛かるようだ。
『この後、あそこにある管の先端部を壊せば、そこから地下のお湯が湧き出してくるはずです』
『そのお湯を使ってお風呂を作ろうというのですね』
『そうです。とはいっても、最初だけは多分、かなりの勢いで噴き出してくると思うので、気を付けないといけませんが……そんなわけで、フィアとヴェルは少し離れたところで、念のためすぐに離れられるようにして見ててね。私も撃ったらすぐに逃げるから』
『ピィィィ』
『グルゥゥゥ』
よし、ヴェルも到着したな。これで全員揃った。
『それでは、全員集まったことですし……温泉を湧き出させてきますね』
『ええ、いってらっしゃい』
さてと……この世界における、初めての温泉を掘り出します!うりゃぁぁぁぁぁっ!!
矢を放った瞬間にその場を飛び退る。さすがに退避しておかないと、熱湯の洗礼を受けてしまうからねぇ……
ドッッッパァァァァァァァァァァァン!!!
という威勢のいい音と共に、温泉が地上に噴き出した。まぁ、こうなるよねー……いやー、温泉が湧き出す瞬間とか初めて見たけど、やっぱりすごいねー。元々の水温が高いせいか、湯気もすごいことになっている。
『ピィィッ?!』
『グルゥ?!』
『なるほど、こうなるのですね。規模は小さいですが、火山の噴火に似ていますね』
『そうですね。原理は同じだと思います。こっちはただのお湯ですけどね』
『ピィィィ……』
『グルゥゥゥ……』
フィアとヴェルも、こういうのは初めて見たのだろう。とても驚いている。わざわざ呼んだ甲斐があったというものだ。
『多分、もう少しすると、お湯の勢いも落ち着いてくると思うんですけどね……』
『落ち着かせましょうか?』
『いえ、自然のままで大丈夫です。どうせ2つの風呂にお湯が溜まり、水温や流れが安定するのを待たなければいけませんから』
『そうですか。カヅキは今までの作業でも、水の流れを乱さぬように配慮していましたし、伐採や採取はしますが開いた穴は全部埋めていますし、建物も全くと言っていいほど金属を使いませんし、とても自然を愛していますね』
『そういうわけではないと思いますが……ただ単に、あまり原形を崩したくないといいますか、できればあるがままの姿であって欲しいというか……うまく言えませんが、周囲への変化を極力抑えたいといった感じでしょうか?』
『それが、自然に寄り添って生きるということですよ。あるがままを受け入れ、無駄に変化をもたらさない。それができている時点で、十分自然を愛していると言えますから』
なんというか、めっちゃ照れる。そんな風に言われるとは思っていなかったし、自分が何かを愛することができるとも思っていなかったから……
『えっと……その、ありがとうございます』
『こちらこそ、この世界の自然を愛してくれてありがとう。カヅキ』
いやはや、なんだこれ?すげー恥ずかしい。早く話題転換したいので、湧き出してる温泉、早く落ち着いてくれませんかねー……?