第169話:建築前の下準備
さて……まずは露天風呂から作るか。とはいえ、敷き詰める石がまだないので、湯舟の形に掘るだけだが……今度、良さそうな石を探してこないと……
湯舟の微調整は後でやるとして、実際に湯舟や洗い場から流れ出る水を逃がすために、排水溝の形状や配置を決めておかなくてはならない。それは屋内の風呂にしても同様であり、また他の構造物の邪魔にならないように設置する必要があるため、先に決めておく必要がある。
この世界には、生活魔法の〔洗浄〕があるため、食器類も衣類も洗う必要がないので、そちらに気を遣う必要がないのは非常に助かる。
いや、そういえばルリとフェルシアさんを呼ぶ予定だから、住人用の施設としては必要なのか?どういうわけか、私は排泄物が出ない体なので(飲み食いした物がどうなっているかは私にもわからん!)忘れていたが、この世界に元から住んでいる者たちは当然それがある。
ということは……トイレは確定として、キッチンも普通に排水できるようにしておいた方が無難だろう。
キッチンは設計時からあるからいいが、トイレは設置予定になかったので、これから組み込まねばならない。どうせ私は使わないのだから、ふたりの部屋の近くにしておいた方がいいだろう。
形状は洋式の便座付きにするが、真下に水路を通すことで、常時水洗トイレとして機能するように作るか。そうすれば、ものも匂いも全て流されて残らないだろうからね。キッチンの排水も同じように水洗式にすれば問題なかろう。
これらの排水は、池の排水と合流してから川の下流に合流予定である。浄化槽とか作らなくても大丈夫なのかとも思うが……一応、聞いておいた方がいいか?
『ウル。聞きたいことがあるのですが』
『はい、なんでしょう?』
『温泉を湧き出させた後、お風呂を通過して川の下流に合流させる予定なのですが、そのまま流して大丈夫なのでしょうか?髪や身体の汚れなども、一緒に流れていってしまうのですが……』
『それのどこに問題が?あの子たちの毒ならともかく、人の体から出る汚れなど気にする必要はありませんよ。温泉も自然の一部ですし、森の中では動物の糞尿をはじめ、血や肉も大切な養分のひとつです。何も気にすることはありませんよ』
『なるほど、確かに……わかりました。ありがとうございます』
『それにしても、カヅキは本当に自然を大切にしてくれますね。精霊として、非常に好ましい存在です』
『えーっと……見た通り、結構好き勝手に、割と広めに自然破壊をしてるのですが……?』
『この程度の範囲であれば、それなりの大きさの魔獣の縄張りなら、狩りの度に当たり前に壊されていますよ?大型の、それも巨体を誇るものであれば、その範囲はさらに広がりますし、ヴェルのようなサーペント種の場合、より上位の大型種ともなれば、そもそもこの範囲には納まりません。カヅキにとっては、それなりの広さなのかもしれませんが、森に住まうものたちにとっては、どうということのない広さなのです』
『あー……もしかして、人間の砦くらいの広さでも、意外と狭いと思われるくらいですかね?』
『カヅキのいう砦がどれかはわかりませんが、おそらくは小型魔獣1体分の縄張り程度の広さではないでしょうか?』
そっかー、その程度の範囲でしかないのかー……なんというか、想像以上に私のスケールが小さかったってことだね……まさか砦と小型魔獣が、縄張りの範囲的に同格だったとは……
そりゃあ、周辺を切り拓くと言った割に、この程度の範囲で済ませているのであれば、自然を壊さないようにしていると思われても仕方ないのかもしれない。この分だと、砦の四方の外壁が一辺1km超えたくらいでは、こじんまりとした建物だと思われる可能性すらあるな……人間からすれば広いんだけどねー。
『そうなんですね。まぁ、最終的にはこの10倍以上になりかねませんが、それでも私が思っているほどの影響がなさそうで安心しました』
『そもそも、既に威圧による影響が出過ぎていますので、いまさら砦ひとつ建ったところで比較にもなりませんね』
『はい、そうですね……そういえば、もう影響出しまくっていましたね……』
確かに、ここに来た時点でとんでもない影響を及ぼしていたなぁ……それに比べれば、その中心に何か大きな建物が出現したことくらい、何でもないかー……無自覚にヤベーことしていたことに、いまさらながら気が付いたわ……
『ありがとうございました。作業に戻りますね』
『ええ、がんばってね』
なんか、余計な精神的ダメージを喰らった気もするが、まぁいいか……知りたかった排水に関する情報は手に入れられたのだ。代償と思えばなんてことはない。
これで、浄化槽とか気にする必要はなくなったな。温泉の排水は温度が高いが、池からの排水との合流と川までの距離によって十分冷ますことが可能だろうし、川との合流地点や下流でも、ほとんど影響は出ないとみていいだろう。温泉の成分が下流に流れてしまうので、水質に若干の影響が出るのは避けられないが、もし問題があるようなら、ウルが何かしら言ってくるだろうし、その時に対処することにしよう。
ということで、まずは屋内用の排水路を構築し、それから温泉からの排水路を構築し合流させる。その先で、さらに池の排水路と合流させるわけだが、こちらはまだ池すら作ってないため、保留となる。
家側の排水路の構築が終わったら、次は池とその排水溝だなー。