第166話:到着
そして、死の森を完全に超え、普通に日光が地面に届いている通常空間に戻ってきた。いやー、長かったー……なにしろ2週間以上も暗黒空間にいたからねぇ、工房でご飯食べてる時以外は……
あんな湿地帯の向こう側だから、なんていうか、鬱蒼と生い茂った熱帯雨林ジャングルみたいなエリアかと思ったら、そんなことはなかった……樹々の間隔は割と広めで、森全体に適度に木漏れ日の差す、明るくて風の通りもいい爽やかな森でした。
この先もずっとこんな感じなら、ウッドデッキ付きのログハウスとかいいかもしれん。それで、家を挟んでウッドデッキの反対側に、源泉かけ流しの広い露天風呂を作って、いつでも入り放題のこじんまりとした一軒家とか……うん、いいかもしれん。
いろんな温泉のある温泉旅館みたいなのも欲しいけど、まずは一軒家の方を作って……うーん、旅館作った時に離れっぽくできるようにするか、それとも……まぁいいや、細かいことはその場所に行ってから決めよう。こことは違う雰囲気の場所かもしれないしね。
そんなことを考えながら、ウルの後をひたすら走る。
そうして、死の森を抜けてから5日目の昼前に、ようやく目的地に到着した。
『カヅキ、到着しましたよ。ここの真下に高温の大きな水溜りがあります』
『ありがとうございます。ここまでの先導、お疲れ様でした』
『どういたしまして。それと、我々に疲労の概念はありませんよ?でも、そう言われるのも嬉しいものね』
『あとは地上の水源ですが、それはどちらでしょう?』
『ここから北に進むと湖があって、そこから南に向かって川が流れていますね。ここからだと東になります』
『わかりました。自分でも少し調べてみますね』
方角的に北北東か。北側に見える山の裾野辺りだろうか?行ってみなければわからんが、そこからここの東側を通って南側へと川が流れているらしい。
ふむ……その川の景観がどんなものかわからないが、渓流や清流みたいな風情ある景観があるなら、それを見ながらの露天風呂とかもいいよねー。問題はそこまでどれだけ離れているのかと、そこで温泉が出るかということだな……
空間認識、超集中、超感覚、詳細鑑定、地中精査、広域探知、熱感知を全力で使用して、周囲の地中をこれでもかというほど徹底的に調べ上げる。
まずは、地上5m地下5mに上下を設定し、薄く広く地表を一気に浚う。これにより、半径約15km四方が丸裸になった。東にあるという川までの距離は5km弱、結構遠いな。湖は範囲内にそれらしきものはないので、ずっと奥にあるのだろう。
樹々の間隔は、密集している場所はなく、少し開けて水場になってる池のようなところが7か所、逃げ出したであろう動物たちは、13kmほど離れた位置にちらほらと居るが、未だ川沿いに逃げていると思われるものたちもそれなりにいる。一体どれだけ恐れられているというのか……威圧の効果が凄過ぎる……
北側の方が地表の位置が高いかと思ったが、ほとんど変わらないな。もっと先へ行かないと勾配の変化はないらしい。麓までは平地で、割と急に山岳地帯になっているのだろうか?
まぁいいや、これ以上離れた場所は後回しでいいだろう。他に範囲内で気になることは……温度は水場付近が低めだが、それ以外はほぼ一定。全く手入れされていない森のはずなのに、育成不良と思われる樹木がなく、倒木すら全くといっていいほどないのは不自然な気がしなくもないが……林業をしていたわけでもない私ではよくわからんな……
とりあえず、地表はこれくらいでいいか。次は本命の地下探査だな。まずは源泉の位置と大きさを特定しないとだな。
そういえば、真下というのは教えてもらったけど、深さは教えてもらってないな……まぁ、とりあえず1kmもあれば大丈夫でしょ。それより深かったら、はっきり言ってめっちゃ困る……
うん?なんだこれ?全く見つからんぞ?まさか、もっと下なの?それなら範囲を3kmくらいに設定して……あったぁぁぁぁっ!!えっと……距離は約2400mだと?!温度は71度?!ちょっとどころではなく、熱すぎませんかね?まぁ、熱い分には冷ませばいいだけだからまだいいか。それにしても、温泉ってこんな深い所まで掘らないと出ないのか、知らんかった……2~300mも掘れば出ると思っていたら、その10倍も深かったという……事前にちゃんと調べておかないから、こういうことになるのだ。反省せねば……
まぁ、それはそれとして、この温水もかなり広域に広がってるなー。
そういう地層らしいからっぽいが……地層と言うからには結構な広さがありそうだし、これならもしかして、川付近でも大丈夫なのでは?あまり頼り過ぎるのは良くないと思うが、ウルに聞いてみるか……
『ウル。少し聞きたいことがあるのですが、いいですか?』
『ええ、なんでしょう?』
『この温水のある地層は結構広そうですが、東の川の向こう側まで広がっていますか?』
『この水溜りは結構大きくて、ここから北側ならこの森中に広がっていますよ』
『この辺りが最南端で、東西と北ならどこでもいいというわけですか?』
『ええ、その水が欲しいようだけど、どうするのかしら?』
『そこまで穴を掘って管を通します。おそらく、それだけで勝手に湧き出してくると思います。なので、まずは何処に穴を掘るかを検討しないといけませんね。できれば景観の良さそうな場所にしたいので、この付近を少し歩き回ろうと思います』
『カヅキはどんな景観が好きなのかしら?楽しみね』
あれ?なんかハードル上がった?余計なことを言った気がするが、もう手遅れだな……精々いい場所を探すとしよう。