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第165話:全速力


おはようございます。多分、朝です。


今日からは、目的地まで威圧を使っての高速移動である。

朝ご飯をしっかり食べてから、外に出る。


『それじゃぁ、ウル。先導お願いしますね』


『ええ、任せてください。最短距離で行きますね』


そうして私はウルの後をひた走る。

今日からは全速力で移動するということで、背中には昨日と同様にヴェルを背負い、胸にはフィアを抱っこしている。結構大きくなったが、人間の子供が膝を抱えた程度でしかないので、抱えたままでも問題なく走ることができる。


戦闘もせずにただ移動するだけなら、ステータスお化けな上に悪路走破と立体機動を持っている私だけの方が、フィアよりもずっと早いのだ。

今までは、せっかくだからとフィアに戦闘をさせていたが、ウルと相談して、最速で目的地へ到達することを最優先とし、それ以外は全て切り捨てることにした。その結果が、この両面抱っこ走法である。


威圧の使用によって、周囲から生物の反応が一気に遠ざかる。戦闘になりそうもない小さな反応は、その場から全く動かなくなり、それなり以上の反応は、我先にと逃げ出しているのだろう。すぐに私の空間認識の内側は空っぽになった。

さすがに広域探知の方にはまだいるが、それも時間の問題だろう。念のために他の感知系スキルも全て発動し、隠密スキルなどで隠れていてもわかるようしたら、準備完了だ。




予想通り、移動速度は劇的に上昇した。

ウルもその速度に合わせて先導してくれているので、真っ暗で足場の悪い森の中とは思えぬ異様な速度で駆け抜けていく。


なにしろ、邪魔するものが何もいないのだ。感知系は全て使用しているが、それ以外のリソースを移動に注ぎ込んでいるのだから、そうなるのも当然だろう。

故に、ただひたすらに突き進む。止まっているのは、食事と睡眠時のみという非常に極端な生活になってしまった。


そんな風に過ごしつつ、3日目の午後、今まで完全な暗闇だったのだが、僅かに明るくなった。

走っている速度が速度なだけに、その明るさが増していく速度も結構なものになる。そして、ついに自分の姿が薄っすらではあるが見えるようになってきた。おそらく、このまま通常の森程度の明るさになっていくのだろう。


『ウル。徐々に明るくなってきていますが、森を抜けるのですか?』


『いえ、この先もずっと森が続きますが、日光の差し込まい領域はもう少しで終わりになります』


『となると、この先は今までとは全く違う生態系になるのでしょうか?』


『そうなります。ここから先にいるのは、まだカヅキが見たことのない生物ばかりになるでしょう。また、今までの生物たちよりも格上の生物になるため、より強くなっていますね。』


『そうですか。ところで、こちら方面に逃げてきたものたちも、それなりにいると思うのですが、それらはどうなったかわかりますか?』


普段、完全に住み分けが行われている場所で、急に別地域の生物が恐怖に追いやられて大量に雪崩れ込んだら大変な騒ぎになる。そういう環境破壊をしたいわけではないので、できればあまり大事になっていないといいなぁ……


『問題ありませんよ。この森の生物たちは特殊ですからね。森を抜けることなく、左右に分かれて逃げていきましたから、この先で暴走などが起きていたりはしませんよ』


『それはよかった。無用の混乱を引き起こしたいわけではないので、うまく逃げてくれて助かりました』


『ですが、そうはいきませんよ?カヅキが威圧を使っている限り、その範囲内は大騒ぎになるでしょうからね』


『そう、ですね……それはもう、殺されるよりはマシだと思ってもらいましょう。ところで、目的地まではあとどれくらい掛かるのでしょうか?予定よりも、かなり早いペースで移動していますが……』


『もう既に6割ほど進んできているので、あと4割くらいですね。今のペースを維持するなら4~5日くらいで到着すると思いますよ』


もうそんなに進んでいたのかー……予想よりずっと早いな。それにあと5日と考えても、おおよそ20日前後ということになる。死の森もこのペースで駆け抜けていたら、もっと早くなっていたのだろう。まぁ、それでも半月は掛かることになるが……


それにしても、私のこの速度でもこれだけの日数が掛かるのだ。他の人がこの森を抜けるのに、一体どれだけの日数が掛かるのやら……割と洒落にならん日数になるのではなかろうか?


もし仮に、普通の冒険者パーティだったとして、タンクなどの重装備では、あの湿地で沈み込んでまともに動けなくなるだろう。それに術士系統も、基本的に足は遅いし装備もローブ系だろうから、湿地では相当な鈍足になるのではなかろうか?

この場合、下手すると私の立体機動時の速度の1割にも満たない可能性すらある。仮に私の10倍の時間が掛かるとしたら、概算で150日以上掛かることになるわけで……言い換えれば、この時点で既に5か月以上過ぎているということになる。


あー……うん。無理だろう、これ……5か月分の食料と水って、一体どれだけの大荷物になるというのか……

本来であれば1日3食のところを、1日2食に減らしたとしても300食分の食料と、休憩などで飲む分も含めた水の総量となれば……考えたくもないほどの量になるだろう。だが、それでもひとり分でしかないのだ。これが6人パーティだった場合、この大荷物が6倍に増えるということだ。

プレイヤーならインベントリがあるため、この量でも何とか持てるかもしれんが、住人にはまず無理である。


おまけに暗闇と静寂と緊張のせいで、普通なら精神の方が先に耐えられなくなるのではなかろうか?そんな場所で大荷物をかばいながら、湿地で足を取られながら、襲い来る敵に対処しつつ、方角を一切間違わずに150日以上進み続けるとか、はっきり言って不可能に近い。


確かに、これでは死の森と呼ばれるのも納得である。

生きて戻って来れた人がいるとしたら、水も食料も半日分しか持たずに、日帰り予定で最低限の荷物だけ持った軽戦士か狩人くらいだろう。


そりゃあ、前人未踏の不可侵領域になるよねー……


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