第161話:運営への要望?
その後は、特に何事もなく前方を駆逐しながら走って移動していた。
ヴェルにとっては、結構大変な移動だったかもしれないが、それでもそれなりに成長はしているのだ。ヴェルの頭部は、私の頭の真上に固定されているため、移動ルートの説明がとてもやりやすい。そうして、予めルートを伝え、思い付く限りのアドバイスをした上で、さらにタイミングを直前に教えることにより、徐々にではあるが反応し始めてきた。
ここまでくれば、あとは反復練習あるのみである。何事も最初が一番大変だからねぇ……技術を身に付けるための基礎はおろか、その基礎を学ぶために必要な身体の動かし方がわからないのだから、どうすればいいのかわからない。そのどうすればいいのかわからない状態を脱するのが難しいんだよねー……
ひとつでも手掛かりを見つけてしまえば、それを利用できるから楽になるんだが、それまでがきつい。でもヴェルはようやくそれを見つけた。あとはそれを見失わずに、手元に引き寄せることができるかだな。
引き寄せて、完全に自分のものとして身に付けられたのなら、もう基礎は十分だろう。あとは応用を利かせれば、いろいろな技術に派生していくだろう。そこまでになるには、まだまだ時間が掛かるだろうが、それでも可能性は見えてきた。今はそれだけでも十分だろう。
この子が何処まで強くなるのか、今から楽しみである。
ちなみに、フィアも結構長い尻尾を持っているのだが、こちらは器用に操って全く当たる様子がなかったりする。
というか……フィアはやや大きめの段差はジャンプして飛び越えていたのだが、段々とそれに慣れてきたのか、樹々の間隔が狭いところを通る時に、樹の幹を蹴ってジグザグに連続跳躍するという、立体機動的な移動をするようになってきたのだ。
私は何も教えてないから、多分自分で考えてやり始めたんだろうけど……たまに敵がいないところでも、羽を振っていたり回転したりしてるから、仮想敵へと攻撃しながら移動してるのだろうが、フィアの戦闘技能とセンスが、ここにきてどんどん磨かれていってる気がする。
私自身と違って、スキルとか生えても通知とか来ないから、いつの間にかパルクールとか立体機動とかが生えていたとしても、別に不思議でも何でもないんだよなぁ……
そういえば……フィアは全然レベルが上がらんのだが、一体どうなっているのだろう……?いくら何でもレベル1の期間が長すぎる。ヒヨコ時代は非常に特殊な状態だったとしても、今は変異種とはいえ普通に生息する種族なのだ。であれば、経験値が貯まればレベルアップしそうなものだが……何らかのバグだろうか?後で運営にメールでもしてみようか?でも「仕様です」って、あっさり返ってきそうな気もするし、もう少し様子を見てみるか。
その時は、ついでに機能追加の要望も出して見るかなー?過去に何を何体倒したか知りたいんだよねー……できれば、どのエリアでどの敵が何を落としたかなどの統計とか取ってみたい。ドロップだけならインベントリを見ればいいけど、個数は不安定だから、何体倒したかは不明なんだよね……
あと欲しい機能は、敵を倒したらそれらを自動的に記録する図鑑みたいなやつが欲しい。1体だけ倒しても姿と名前だけしか載ってなくて、倒せば倒すほど詳細なデータが記載されていくタイプのやつだと、やり甲斐があっていいんだよなー。
最終的にはドロップも載るようになっているけど、これは自力でドロップするまで記載されないタイプでもいい。まだドロップしていないのが見れるのもいいけど、まだ見ぬドロップアイテムを追い求めるのも楽しいよねー。あのいつまで経っても出ないアイテムを追い求めて、それこそ万単位の乱獲の果てにようやく出たの時の達成感たるや……興奮と歓喜と達成感で脳汁ダバーってなるあの感覚は、他では早々味わえない特級の快楽だと思う。
レアアイテムのみならず、スキルとかでもそうだけど、やはり到達点が遠ければ遠いほど、困難であればあるほど、到達した時の感動もひとしおである。図鑑とかも、ある意味ではそれらと同類であろう。自力でページを埋めねばならないという非常に地道な作業を要する、人によっては拷問と何ら変わりのない、苦行としか言いようのない生き地獄と感じることもあるだろう。
この辺は個人の感性によるものなので、大半の人にとっては面倒だと思うことでも、一部の人にとっては面倒ではなく、むしろ楽しめる要素だったりする。
個人的には地図埋めとか図鑑埋めとか整地とか、楽しいと思うんだけどなー……
人間は、無意味なことを延々とやらされることに苦痛を感じるし、耐えられない生き物だ。少なくとも大半の人間はそうだろう。
例えば、私の知っている拷問のひとつに”穴掘りと穴埋め”というものがある。どういう拷問かといえば、名前の通りにひたすら穴掘りと穴埋めをさせられると言うものだ。そんなのはただの土木工事で、拷問じゃないだろう?という人もいるかもしれないが、これが拷問となり得る最たる理由は、どちらも自分自身の目の前だけで完結することである。
どういうことかといえば、まず自分がすっぽり入るほどの身長より少し深い穴を掘らせる。次にその穴を掘って出た土を使って、その穴を埋め戻させる。この時、なるべく土が残らぬように踏み締めながら埋めさせる。埋め終わったら、同じところを同じように掘らせ、まだ埋め戻させる。ただひたすらにそれだけを繰り返させる。何の意味もない、ただ時間と体力を浪費するだけの、あまりにも無意味で終わりのない行動を休むことなく強要される。
そして止めとなるのが、栄養はあるがとてもマズい食事である。空腹は最高の調味料?どんな調味料でも消せないマズさはあるもので、そういうものを厳選して食べさせる。残すことも吐き出すことも許されず、もし吐き出せば1食分追加で胃に押し込まれるという、生き地獄が追加されることになるという……
この様に、無意味な行動というのは結構心を蝕むのだが、無心で何かすることに苦痛を感じるどころか、むしろそうしていると落ち着くという人種も一定数いるのだ。
そういう一部の人たちのためにも、楽しめる要素を提供できないか、運営に提案してみることにしよう。
報酬に称号とかを出してもらえば、やり甲斐も出そうだし、運営としても称号と条件を設定するだけで、バランスの調整に気を遣わずに済むのではなかろうか?
幾つか、称号と条件をセットにして提案に混ぜ込んでみるかなー?