第160話:背負いサーペント
『それじゃぁ、再確認するよー。3、2、1、はい!』
『ピィィィィ』
『はい、良くできました。ふたりともえらいねー』
そう褒めつつ、ふたりの頭を撫でてあげる。
『ピィピィ』
『グルゥゥ』
無事、念話での会話(?)ができるようになった。とはいえ、話すのは基本的に私だけで、ふたりの返事からニュアンスで返事の内容を汲み取るしかないのだが……
だって、ヒヨコ語とかサーペント語とか知らないし、念話でも日本語に自動翻訳されるわけじゃないから、何を言ってるかさっぱりなんだもの……
なんとなく、こんな感じなのかな?って勝手に思ってるだけで、実際は全く別のことを言ってる可能性も十分あるのだ。もしそうだったら、かなり凹む……
それはさておき、移動を再開しますかねー。
ちょっと想定外の事態が起こってしまったが、結果オーライである。なにせ、毒系統のサーペントがうちの子になってくれたのだから!これを喜ばずに何を喜べと言うのか。
まだまだ当分先の話ではあるが、いずれは海を探し出し、戦艦を作って無人島探しをするつもりだったのだ。その際、やはり戦艦だけでは不安もあるので、小回りの利く戦闘可能な水棲生物が欲しいとは思っていたのだ。時期尚早だと思わなくもないが、その時に備えてじっくり育成できると思えば、なんてことはない。むしろ、楽しみが増えたようなものである。
とはいえ、今はまだその時ではない。まずは目的地に行って、温泉を完成させねば!それから、ルリたちを連れてくる時のために、生活基盤となる各種施設を造らなければならないから、ふたりにはその時にでも、周辺で修業してもらうことにしよう。
『ウル、そろそろ行きましょうか』
『わかりました。それでは先導しますね』
『お願いします。ふたりとも、移動するからついて来てねー』
『ピィィィッ!』
『グルゥゥゥッ!』
と、移動し始めたのはいいのだが、ヴェルが思ったよりも遅かった……
まぁ、そうだよな。水中ならともかく、沼ですらない湿地帯で、サーペントが思ったように動けないのは当然である。一応水場でもあるので(普通なら膝下くらいまで足が沈む)、水面を滑るように移動しているのだが、悪路走破持ちの私とフィアが走る速度には届かなかったのだ。
どうにかして、速度を上げたいところではあるのだが……でかいんだよなぁ……4m近い全長と人間並みの太さということは、当然それなりの重さになるわけで……あら?意外と軽い?
『えっと……ウル?ヴェルの体重、随分と軽い気がするんですが、これ大丈夫?実は絶食してて激痩せしてるとかありません?』
『え?ヴェルにおかしなところはありませんよ?痩せてもいませんし、体格も小さいわけではありませんね』
『うーん……持ってみたら、意外と軽くてびっくりしたんですよ。見た目からして、私の数倍重いと思ったんですけど……?』
『ええ、カヅキの体重の3倍以上あります。それを軽く感じているのであれば、単にカヅキの筋力が高いだけではないのですか?』
あ……そういえば、私ってステータスお化けだったな……はじめの頃は、ステータスが4倍になったー!動き難いー!って困っていたのに、今はその数倍になってるにも関わらず、全く気にならなくなっている……慣れって怖いなー……
『そういえば、そうでした。レベルが上がった時に結構増えてましたね。筋力とか増えてもあまり違和感なかったので、忘れてました。最初、急にステータスが増えた時は、かなり違和感を感じたんですけどね……』
『それだけ身体に馴染んだということでしょう。この世界に来たばかりの時は、身体に馴染んでいないから、僅かな差でも違和感を大きく感じたのではありませんか?』
『そうかもしれませんね』
ふむ……これだけ軽く感じるなら、私が引っ張って行けばいいのでは?いや、弓で両手が塞がってるし……背負えばいける、か?とりあえず、試してみるか。
というわけで、即席のおんぶ紐のようなものを作りました。
そして、ヴェルの頭が私の頭の少し上にあるような状態になるように、位置を調整しておんぶ紐で固定。後ろの胴体はというと、水の上に浮かせて滑らせる感じで移動することにしました。
『とりあえず、これで試してみようと思います。ダメそうだったら、また考えることにしますので、移動を再開しましょう』
『まさか、サーペントを背負って走る人間を見ることになるとは思いませんでした。カヅキは本当に面白いことをしますね』
『面白そうという理由で、やっているわけではないんですけどね……』
『そうですね。それでは先導しますが、動き難いようでしたら、すぐに言ってくださいね』
『わかりました。ありがとうございます』
そうして、再び走り始めたわけだが……重さは特に問題はない。弓も普通に扱えてるし、移動にも攻撃にも何も問題はない。ないのだが……それ以外のところに問題が発生した。
それはヴェルの反応速度である。私が樹々の隙間を縫うように移動すると、後ろに伸びたヴェルの胴体が樹にぶつかるのだ。胴体を柔軟に動かし、私が通ったルートをなぞるように身体を動かせばいいと思うのだが、どうやら反応速度が遅いらしく、身体を曲げようとしたときには既にぶつかってるらしい……
やめようかとも思ったが、今後のことを考えると、この程度の速度に反応できないようでは非常に困るので、いっそのこと、これを訓練にしてしまうことにした。
この状態でも自由自在にぬるぬると身体を動かし、それこそ身体の一部分だけスライドするような、細かい回避運動もできるようになってもらうことにした。茶摘みウェーブができるくらいになったらいいなー。
ただし、身体の動かし方を身に付けるまでは、あちこちに身体をぶつけてしまうので、その都度ヒールで回復しておくのも忘れない。何気にヒールの熟練度稼ぎに丁度良かったのである。私もフィアも基本的に攻撃を喰らわないので、ヒールの出番がなく全く育てられなかったのだ……
偶然とはいえ、一石二鳥でとても嬉しい誤算だった。目的地に着くのとヴェルの成長、果てしてどちらが先か、ちょっと楽しみである。