第157話:救出
『カヅキ?急にどうしたのですか?』
『1体だけサーペントなのが気になるんですよ。これは、私個人の勝手な憶測ですが、この森はサーペント系統の生息域ではないと思うんです。それなのに、何故こんなところに単独でいるのか、どうして複数の種族から取り囲まれて襲われているのか、それが気になるんです』
『よくある弱肉強食ですよ?あのヴェノムサーペントは極稀に発生する特殊個体ですね。ただ、生まれた場所が良くなかったというだけ。周囲のものたちは、本能的にそれが成長すれば脅威になるとわかるのでしょう。だから、まだ弱いうちに倒してしまおうということなのでしょう』
『……ウルからすれば、こんなことはよくあることで、いちいち介入する理由もないのでしょう。弱肉強食は世の常で、自分たちが生き延びるために、脅威となり得る異物を排除しているだけ。弱いうちに倒してしまえば、脅威は減るし餌にもなって、一石二鳥といったところでしょう。異物がなくなれば生態系が崩れることもない。単なる自然淘汰であり、気にすることなど何もないと……』
『ええ、そうですね。それが理解できているのならば、どうして助けようとするのですか?』
『気に入らないからです。あのヴェノムサーペントが何をしたというのです?森を破壊しようとしたわけでも、他種族を根絶やしにしようとしたわけでもないでしょう?ただ、本来の生息域で生まれなかっただけ。望んでそうなったわけでもないのに、どうして殺されなければならないのです?場違いなところに生まれるのが悪い?脅威となり得る才能や資質を持って生まれるのが悪い?運が悪いことは、生きることを否定されるほどの罪だとでもいうつもりですか?』
『そんなことを言うつもりはありませんよ。生まれた場所や才能などで善悪は定まりませんし、運が悪いことは罪ではありません。ですが、運が悪いものたちは死にやすい。幸運と不運は生と死に言い換えることもできます。生と死の天秤に乗せられる錘、それが幸運や不運です。才能や資質はそれよりも軽い錘と言えるでしょう。そして死の秤が下がり切ったら死ぬというだけのことです』
『……そう、ですね。ですが、私はそれを認めたくありません。生まれつき不運だから死にやすい、幸福になれないなど、理不尽じゃないですか。私には記憶がないので憶測でしかないのですが、きっとあのヴェノムサーペントに自分を重ねているんだと思います。自分が何かしたわけでもないのに、他者から寄って集って攻撃されたことがあるような気がするんです。そうでもなければ、ここまで心がざわつくこともないんじゃないかって思うんですよ。だからでしょうね、何とかしてあげたいって思うのは……』
『助けるのは構いませんが、その後はどうするのです?カヅキが去れば、遠からずまた同じことが起こります。だからといって、その都度助けに戻ってくるわけにもいかないでしょう?それとも、生息域を探し出して、そこまで連れて行くのですか?』
『それは、本人(?)……本サーペントに聞いてみるしかない、かな?理不尽に死を与えられるのではなく、自分がどうしたいのかを選んでもらえればと。その場に残りたいなら、それ以上は何もしませんし、海へ行きたいというのであれば、結構時間は掛かると思いますが、連れて行こうと思います』
『今後もいろいろなところを巡っていれば、似たようなことに度々遭遇すると思うのだけど、その時も毎回手助けするのかしら?』
『本人に起因する理由がなく、理不尽に踏み躙られているようなら、多分手を出す気がします。少なくとも精神が不安定なうちは、抑えられないと思います』
『本当にカヅキの精神状態はどうなっているのかしらね?普段はとても穏やかで安定してるのに、何かの際に急に不安定になるし、若干攻撃的というか敵対的な感じになるのは、どうやったら治るのかしらね?』
『女神が言うには、余計なことを考えずに、好きなことをしながらのんびりと時間を掛けるしかないらしいです。それはともかくとして、ヴェノムサーペントの周囲の殲滅が終わったので、可能であれば対話を試みようと思います』
『通訳が必要だと思ったら声を掛けてね』
『わかりました。その時はお願いします』
さてと……目的のヴェノムサーペントはというと、自分だけを残して他を全て殲滅させたこちらに対して、超警戒しておられる。まぁ、当然といえば当然なんだけどね。
誰だって、自分一人ではどうにもならない程の集団を、あっさり殲滅した相手と1:1で真正面から向き合ったら、そりゃあビビるよねー……
とりあえず、武器はインベントリにしまってから、相手を驚かせないようにゆっくりと近付くわけだが、ある程度で止まらないと余計に警戒させてしまうので、ほどほどの位置で止まる。
それから治癒魔術で外傷を治す。念のために解毒もしておく。それから、まだ加工してない生肉を取り出し、相手から見えるように持ったままゆっくりと近付く。
『そういえば……ウル、今この状態で声を出して話しかけても大丈夫ですか?それとも念話の方がいいのでしょうか?』
『周辺にはもう何もいないから、普通に声を出しても大丈夫でしょう』
『わかりました。ありがとうございます』
とはいえ、一応かなり小声で話すことにする
「これ、食べられますか?」
こうして、私とヴェノムサーペントの対話が開始されたのだった。