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第156話:妙な種族名


そこから先は実に単調な旅路となった。


なにしろ、これまでは意図的に使用しなければ、その効果を発揮することはないと思っていた探知の額冠の広域探知スキルが、他の範囲系スキルに影響を与えることが判明したのだ。というか、空間認識ができるから、あまり気にしてなかったというのが正しい。


なので、この際だからと有効活用してみることにした。

そしていろいろと試してみた結果、広域探知も基本的には、使用者を中心にした球状の探知範囲ではあるが、条件付けによって変更可能だった。思ったよりもカスタマイズ性が高くて驚いた。

対象を適性存在のみ、探知の上下幅を地上30m、地下10mに設定したら、めっちゃ範囲が広がった。その距離、なんと半径約3kmである。いや、いくらなんでも範囲広すぎない?さすが秘宝級といったところだろうか。なるほど、国宝として宝物庫などに収蔵されるわけだ。性能がヤバすぎる……


範囲が予想以上に広すぎたので、空間認識の能力の一つである等間隔のマス目を使うことにした。半径10m毎に同心円状のラインを引き、50m、100m、500m、1kmのラインは少しずつ太くして見やすくした。それと円形なので16方位に分割し、方角もわかるようにしておいたので、慣れればラインなしでも3kmまでなら、かなり正確な位置を割り出せるようになるんじゃないかな?


こうして、半径3kmを見通す目と自動回収を手に入れた私が、正面をフィアに蹴散らしてもらいながら、移動射撃をしつつ駆け抜けたらどうなるか……

そりゃあもう、ノンストップで快進撃ですよ。広域探知を利用することで、実質3kmの視界を手に入れたため、前方扇状の敵を射貫きながら疾走しているので、途中からは側面からも後方からも敵が寄ってくることはなくなった。そのため、さらに前方に集中することができ、食事と睡眠時以外は目的地を目指して走り続けてしまった。


私が駆け抜けた後の森を生物の有無で見たら、きっと幅2km弱の南北に長く延びる空白地帯が生まれていたことだろう。

こんなことができるのも、この世界がゲームであればこそだ。どれだけ乱獲してもリポップするから問題ない。こんな乱獲状態を他者に見られたら、何と言われるやら……ここが前人未踏の未開領域でよかったー。




そんなこんなで、ひらすら目的地に向かって前方を駆逐しながら進み続けること9日、いつものように広域探知しながら敵を射貫きつつ軽快に走っていると、今まで見たことのない妙な種族名を見つけた。


その名称はヴェノムサーペント。

今まで出てきた蛇系の敵はスネークとヴァイパーとパイソンの3種類。基本的に陸地に生息する蛇で水場でも活動可能な種族のため、これらは別におかしくはない。だがサーペントは大抵の場合、別物だ。その理由は、主に水中もしくは海に生息する海蛇、あるいは海竜といった水棲種族となる場合が多いことと、成長した際の体の大きさの違いである。


この世界のサーペントがどのような存在なのかは、まだ見てないので確たる情報は何もないが、他のゲームなどでは初期、あるいは下位のサーペントであればそれなりの大きさで済むが、上位や特殊な個体だと、下手すると数百m級の超巨大な体躯を誇ることもある大型種族なのだ。


世の中には私が知らないだけで、川に棲むサーペント種も存在しているのかもしれないが、それでも小川に棲めるような種族ではないだろう。そのため、もし川に生息するサーペントがいたとしても、相応の川幅と水深を持つ、それこそ大河と呼ばれるほどの河川でなければ、生息できないのではないかと思っている。


しかし、今なお一切の光がないこの森の中では、そのような大河はもちろん、幅5mほどの川すらありえないのだ。何故なら、そういった川の上には光を完全に遮るほどの枝葉がないから。そんな場所が少しでもあったなら、これほど完全な暗闇は完成しないだろう。つまりこの暗闇こそが、この森の中に川が存在していないことの理由になるのだ。


それはそのまま、サーペント種の生息域足りえないことを指し示す。だが、実際には1体だけとはいえ、ここから北東に少し行ったところに存在しているのだ。

何故?明らかに生息域ではないところに1体だけいるのだ?可能性としては、スネークなどの陸地型の蛇が、突然変異や異常進化などにより、本来ではありえない種族になってしまったか、あるいはどこからか運ばれてきたかの2択だと思われる。


どちらにしても、望まぬ状況に陥っているのではないのか?しかも自分で選んだわけでもないのに、状況だけが勝手に、それも理不尽に変更され、苦痛を強いられているのだとしたら……?

自分で選んだというのであれば、それでいいだろう。だが、もしも望まぬ理不尽に翻弄されているのだとしたら?たった独り、誰にも助けてもらえず、襲い来る理不尽になす術なく踏み躙られようとしているのであれば……手を差し伸べるべきではないのか?


ヴェノムサーペントはほとんど動いていない。にも関わらず、その周囲を取り囲むようにしている複数の狼とトカゲは、忙しなく動き回っている。仲間いないから、体が大きいから、餌にするのにちょうどいいと思ったのだろう。自然の中ではよくある当たり前の弱肉強食。ただそれだけのはずなのに……私の中で何かがざわつき始めた。


たった独りを、寄って集って嬲り殺しにしようとしている。まるで、お前には生きる資格がないとでも言うように。ふざけるな!恵まれた肉体も才能も、はじめから自分たちの餌になるために用意されたものだとでも言うつもりか?そんな言い分、誰が認めるか!弱肉強食?自然の摂理?そんなこと知ったことか!

そんな大義名分を振りかざし、大勢で取り囲んで逃げ場をなくし、数の暴力で個を踏み躙ろうというのであれば、こちらもやりやすい。遠慮も容赦もする理由がなくなるからな。

貴様らはヴェノムサーペントに対して、弱肉強食という名の理不尽を行っているのだから、私が貴様らに対して同様のことを行ったとしても、受け入れるよな?自分たちだけが特別で、攻撃されないなどと思うなよ?自分たちがどれほどの理不尽を行ったのか、その身をもって知るがいい!


『ウル。すみませんが、少し寄り道をします。北東にいるヴェノムサーペントに加勢しに行きます。フィア、ついてきてね』


そう告げて、私はヴェノムサーペントのいる場所へと進路を変えた。


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