第155話:威圧の計算式
確かあの時、師匠たちが作った装備類は確認しながら回収したはず。その時はメリルさんが作った籠手だけが伝説級だったはずなのに……なんで3つも増えてるの?いつ私のインベントリに入った?製作者が師匠たちだから、いつぞやのように女神が勝手に投げつけたわけでもないのだろう。あの時に見逃したとでも?それにしたって3つも見逃すか?
わからんなー……戻って真相を聞き出したくなるけど、わざわざそのためだけに帰るのもなんだし……それに、真相がわかったところで今更等級が変わるわけではないし、どうせ誰かに見せるつもりもないのだから別にいっかー……人がいるところでは、自作の奴以外は使うつもりないしねー。
それにしても、やはり装備品には威圧スキルに関係ありそうなところはないよね?凶蛇、妖花、首狩りあたりの装備は何かあるかも?と思ったけど、それっぽいスキルもなければ、フレーバーテキストにも書かれていないってことはハズレなんだろうなー……
となると、あとは称号くらいしかないんだが、どれも字面的に違う気がする……
それでも、一応見てみるか。効果が想像できない称号もあるしね。
≪上位精霊に認められし者≫
上位精霊に交流する価値ありと認められた者の証。その時点で下位の存在とは大きな隔たりが生まれ、畏敬の念を抱かれるようになる。特に自他の格差を重視する野生の獣などには効果が高い。
尊敬、威圧、畏怖などの格下の存在に影響のある効果が2倍になる。
≪上位精霊ウルのお気に入り≫
水の上位精霊ウルの興味を引き、考え方や振る舞いを気に入られ、交友関係に至った者の証。ウルが協力的になり、様々なことを手伝ってくれるようになる。
その反面、水のあるところに遍在するため、気に入られている限り、何処に行っても逃げられない。
≪強欲なる簒奪者≫
ほんの僅かな損失も惜しみ、己の獲物として仕留めたものは、全て手に入れようとする強欲なる者の証。
戦闘時、離れた場所で仕留めた獲物を、自動かつ即座に回収することができる。対象に魂が宿っていた場合、その魂はインベントリの”霊魂”タブ内へ自動回収される。
≪命への感謝を忘れぬ者≫
命に対して敬意と感謝を忘れぬ者の証。己が奪った命に対して真摯に向き合い、その遺体を可能な限り活用することを信条とする者に与えられる。
アイテムドロップ率及びレア度、個数が上昇する。
…………こんなところに当たりがあるとは思わんて。上位精霊に認められるだけで威圧2倍になるとか、どうやって予想しろと?いや、だけっていうのはおかしいけど、だからといって自分が強くなったわけでもないのに、格差が生まれるというのは何か違う気がする……
とはいえ、それでも効果は2倍で止まっているんだよなー……2倍になったくらいで、あんな広範囲に影響出るか?ん?広範囲……?そういや、私の今の装備品の中に、広範囲に影響を及ぼすアクセサリーがありましたね……まさかとは思うが、アレの範囲がそのまま適用されているとかない、よね……?
仮に!そう、仮にそうだったとしても、私の威圧はレベル1だったのだ。2倍になったところで、たかが知れている。レベル2程度では一瞬怯む程度だろう。他にも威圧効果に影響のある何かがなければ、獣たちが逃げ出すはずがない。
他には……あ!ここの文章、野生の獣などには効果が高いって……これは……2倍とは別で、さらに効果アップってことになるのでは?あと、今まで気にしてなかったけど、装備品の獣特効とかって、こっちにも効果乗ったりするのだろうか……?
これは……こういう計算は、多分システム上でやってるはずだから、きっとヘルプに仕様が載っているはず。というか載っていてくれー!
…………ヘルプを探した結果、載っていました。そして効果も乗っていました。
今現在の私の特効は、獣3、虫2、そして飛行、死霊、水棲、人間、首が各1である。いや違う。私の場合、種族特性で全種族特効持ってるんだった……そしてヘルプによれば、特効の効果はひとつで威力+100%、3つだと+300%という計算になるらしい。そして、大抵の生物には首があるため、多分首特効も加算されると思われる。
つまり、最初に威圧を使った時点での計算式は、まず獣特効が3つに首が1つ、さらに種族特性で+500%、つまり6倍になる。上位精霊の称号でさらに2倍、獣ということで効果が上昇して3倍になり、最終的に18倍。と、こうなるわけだな……
要するに、最初の時点で威圧レベル18として計算されていたわけだ。そして現在はレベル8にまで上昇しているので、レベル144扱いになっているのでは……?
そりゃあ逃げますよ!一目散に逃げ出しますよ!!ボスだって涙目になって、ガタガタ震えてへたり込みそうなレベルだもの!!!
何、この化物……私はそんなものになった覚えはないぞー……
「あー……ウル?私の威圧の効果が異様に高い理由がわかりましたよ」
「あら、そうなの?やっぱり何か理由があったのね?どう考えてもレベル1の威圧ではなかったものね」
「ええ、まぁ……それで、その理由なんですが……」
と、装備品や称号の説明を含め、先程からずっと考えていたことをウルに話すと、どうやらウルも合点がいったようだ。
「なるほど……これは、カヅキが渡来人だからこそ起きた現象ってことなのね」
「まぁ、そうなりますね。私も知らなかったので、いろいろ調べてみてびっくりしました」
「そうでしょうね。まさか威圧の効果が、常に18倍になるとか思わないわよね」
「そうなんですよ。それでですね……これから先、威圧を使ってもいいものかわからなくて、相談に乗ってもらえますか?」
「ええ、もちろん。でも、何がわからないの?」
「威圧レベルが8に上がったことで、下手に使うと獣たちが一斉に逃げ出して、暴走が起きるのではないかと危惧していまして……昨日は街の方から奥に向かって来ていましたし、レベルも低かったので、街の方へ逃げて行った獣はほとんどいないと思います。ですが、一晩ここで眠っている間に、周辺の動物たちもある程度落ち着いたと思うのですが、この場所で再び威圧を使えば、ここより南側の獣たちの多くが、一目散に街の方へ逃げ出す可能性が高いと思うのです」
「そういうことですか……では、人間の街へ影響が出ない場所までは、狩りをしながら進みますか?10日も進めば、威圧を使っても問題ないでしょう。獣たちもどれほど恐怖に駆られようと、せいぜい数日程度で動きが止まりますからね」
「わかりました。では、そうしましょう。相談に乗っていただいて、ありがとうございます」
「気にしなくていいのよ?それでは、行きましょうか」
「ええ、それでは準備しますね」
そうして、私たちの3日目が始まったのだった。