第152話:レベル1ですが?
「この工房の説明はまた後でしますので、先にご飯にしてもいいでしょうか?」
「ええ、どうぞ。我は食事をを必要としないので、気にしないでください」
「ありがとうございます。それでは失礼して……」
そう言ってから、2人分の食事と毒餌を用意して、フィアと食べ始める。それを見て、ウルがあり得ないものを見たかのように驚く。
「カヅキ、質問があるのですがよろしいですか?」
『はい、なんでしょう?』
食べてる最中なので、念話で返答をする。うん、これは便利だ。
「フィアだけが食べているあのお皿に盛られているのは、どれも毒があるものばかりなのですが、どうしてフィアは美味しそうに食べているのですか?コカトリスやバジリスクなどの、毒に対して極めて高い耐性を持つ種でもないのに、あのようなものを食べたらすぐに死んでしまうはずなのに……」
『あー……その毒餌は私が作ったんです。体内に毒物として吸収されるけど、毒としての効果が出ないように調整されているので、将来的に毒のブレスとか使えるようになればいいなと思って、毒耐性がない時から食べてもらっています』
「自分がとても矛盾していることを言っていることに気付いていますか?」
『言葉だけだと確かに矛盾しているのですが、実際にこの毒餌を食べ続けてもらっていますけど、一度も毒の効果が発揮されたことはありません。それに、毒が吸収されているのも本当です。今のフィアの血肉が猛毒そのものですから。狼が噛みつけば、その噛んだ狼の方がすぐに絶命するくらいには、強い毒性になっています』
「カヅキは一体何をしているのですか……」
『フィアをコカトリスに進化させようと思っているのですが、明確な進化条件がわからないので、コカトリスに近い特性や能力を身に付けたらいいんじゃないかと考えました。それでまずは毒かなー?と思いましたが、毒で苦しませたくはなかったので、毒性が発揮されない毒餌を完成させました』
どんな進化も思いのままではなく、系統樹があるのがわかったから、コカトリスルートから外れないようにという、苦肉の策でしかないんだよね……
「本当に、何をしているのですか……それに、これほど効果の多い複合毒は初めて見ました」
『頑張って研究しましたからね。その甲斐あって、無事にかなりコカトリスに近い能力を持ってくれました』
「カヅキは優しいのか酷いのか、よくわかりませんね」
『私は多分、酷い方だと思いますよ?結構自分勝手ですからね。今もこうして好きなことをしていますし……』
「……本当に自分勝手で酷い人間は、欲望のままに自然を荒らしますよ。生息数が少ないからと採取を躊躇ったり、倒した獲物の遺体が無意味に朽ち果てるのを嘆いたりしません。そういった者たちは失われる命に対して何も思わないものです」
「……ごちそうさまでした。確かにそうかもしれませんね。さて、この工房の詳しい説明をした方がいいですか?」
「そうですね。そうしてもらえると助かります。ここは随分と特殊な空間のようですからね」
それからしばらく、説明をしながらいろいろなことを話した。説明が終わる頃には眠くなってきたので、おやすみなさいと挨拶をしてフィアと眠りについた。尤も、フィアはご飯を食べ終わったら、すぐに寝ていたが……
「んんー……おはようございます」
「おはようございます、カヅキ。体調はどうですか?」
「問題ありません。ご飯食べるので、もう少しお待ちください」
「ええ、準備が整ったら声を掛けてください」
「わかりました」
それからフィアを起こし、ご飯を食べ終えたら準備完了である。さて、今日もがんばって進みますかねー。
「準備できました。行きましょうか」
「わかりました。先に出ていますね」
「フィアは最後に出てきてね。それと話すときは念話だからね」
『ピィィ』
それから私、フィアの順で工房を出て、工房をしまう。
『それでは昨日と同じように進みましょう』
『では、ついてきてください』
そうして動き出すウルをフィア、私の順で追いかける。時折、魔物が寄って来るが、何故か昨日よりも数が少ない。たまたまそういう場所なのかとも思ったが、昨日よりも明らかに少ない。既に昼近いが、多分半分にも満たないのではなかろうか?
『ウル、昨日よりもかなり敵の数が少ないようですが、そういうルートを選んでいますか?』
『いえ、今日は少し離れたところに霧を出してみたのです。それにより音や匂いが届きにくくなっているのです。進行方向にいるものたちは仕方ありませんが、側面や後方は割と誤魔化せているようです』
『なるほど……私も何かできればいいのですが、この状況で使えそうなのは、威圧くらいしかないようです……』
『威圧ですか。己より強いもの相手だと挑発と見なされることもありますが、弱い相手であれば効果的ですね。一度使ってみてもらえますか?効果次第ではありますが、常時使ってもらった方が邪魔が減っていいかもしれません』
『わかりました。ではやってみます』
さて、どれだけ効果があるのかわからんけど、久々に使ってみましょうか。といっても、使ったのは師匠たちを怒った時だけなんだけどね。あの人たちが怯んだのだから、一応それなりの効果はあると信じたい。
これで、挑発したことになったとしたら、格上なのに通りすがりに瞬殺されてるという矛盾が発生てしまう気がする……
周辺にいるであろうものたちを、かつての師匠たちに見立てて……威圧!
ん?ウルが少し驚いてる?これはどういう意味で驚いてるんだろうな?効果が強くて驚いてるのか、それとも弱すぎてなのか、それとも他の理由なのか……
『えっと……使ってみたんですが、どうでしょう?効果ありそうですか?』
『結構な強さですね。周囲のものたちが逃げ出しています。威圧はどれくらいまで鍛えましたか?』
『え?以前、師匠たちを怒った時に生えたスキルで、まだレベル1ですが?』
『1?初期状態でこの威力ですか。先が楽しみというか、末恐ろしいというか……ともかくこの周辺の敵の強さであれば、全く問題ないようです。そのまま威圧しながら進むとしましょう。ついでに訓練にもなるでしょうし、威圧のレベルを上げるといいかもしれません』
『わかりました。そうさせていただきます』
こうして私は、威圧しながら森を駆け抜けることになるのだった。