第150話:死の森突入
完全な暗闇になる前に、この森についてウルに質問しておかないと……
「ウル、この森の中では、やはり音や光はマズいのでしょうか?」
「ええ、かなり敏感ですね。森自体が暗く静寂に包まれているため、非常に目立ちます。かなり離れたところにいるものでも気付くでしょう」
「となると、ウルとはどのように会話したらいいのでしょう?森を抜けるまで、無言でウルの後をついて行けばいいのでしょうか?」
「それもつまらないですね。それではこうしましょう。我の手を取ってください」
そう言われて、差し出された手に触れる。
『これで口を開かずとも会話することができるようになったはずです』
「え……?」
『口を閉じたまま、我に意識を向けて伝えたい言葉を思い浮かべてください』
『こうですか?』
『はい、できています。これで音を出さずに会話することができますね』
『原理が全くわからないのですが、精霊に触れるとこのようなことが可能になるのですか?』
『精霊が望めば、ですね。一方的に触れても、こうはなりませんよ』
≪システムメッセージ≫
<特殊スキル:念話 を獲得しました>
……そうくるのか。まぁ、アレだ。もう放っておこう。気にしていても仕方ないからね……
『フィアへの指示はどうしましょうか?攻撃を受けても回避と迎撃のみで、基本的には後について来るだけと指示することもできますが……』
『確かにそれだけですと、少し危険かもしれませんね。さすがに言語まではどうにもなりませんが、意思疎通できるだけでも違うでしょう。フィアに説明してあげてください』
『フィア、聞こえる?聞こえていたら、声を出さずに私を思い浮かべながら答えてみてくれる?』
ピィ?……『ピィピィ!』
よし!ちゃんとできてる。さすがフィア、賢い。
『うん、それでいいよ。今度からはこっちで答えてね』
『ピィィィ!』
『大丈夫そうですね。これで森に入っても、声を出さずに意思疎通ができます』
『ありがとうございます。これで問題なく進めると思います。フィア、大変だろうけどついてきてね』
『ピィィィ!』
『それでは先導、お願いします』
『わかりました。最短距離を突っ切りますが、道中の魔物などは倒しますか?』
『300m以内で、こちらに敵対して向かってくるものは攻撃しますが、可能な限り足を止めずに駆け抜けようと思います』
『では止まる時は言ってくださいね。それまではカヅキの速さに合わせて先導しますね』
『はい、では行きましょう』
それからは、ほぼ一直線に暗闇の中をひた走る。
私もフィアも悪路走破スキルがあるため、湿地であろうとも泥に足を取られることもなく、平地と変わらぬ速度で走ることができる。場所によっては沼のようになってる場所もあるのだろうが、おそらくはウルが、そこを避けるようにコース取りをしてくれているのだろう。問題なく走り続ける事が出来る。
それと、やはり魔物らしきものがあちこちから襲い掛かってくる。この静かすぎる暗黒空間に適応しているだけあって、移動する相手はすぐ感知できるのだろう。そして狙いはもちろん、隠密能力の低いフィアである。まぁ、従魔用アクセだけでは、こうなるとは思っていたけどね……
前方からだけではく、左右後方からも足の速いものは追ってくるため、フィアを前に出しウル、フィア、私の縦列で走り、私が最後尾から弓を射ることで進路を確保しつつ、並列思考による魔術で側面と後方をカバーする。
足元が湿地だからか、とにかく蛇とカエルとトカゲと思われる形状の敵が大量に寄ってくる。大型のものはまだ現れていないが、その代わりに小型が多数寄ってくる。基本的に私が倒しているが、小型が多いので正面はフィアに任せて轢き殺してもらうことにした。麻痺睨みで動けなくなったところを嘴、羽、足で攻撃しながら激走しており、それで生き残っていても、毒と尻尾の追撃で強制退場である。
ああ、もったいない……
通常時なら、これ全部インベントリに入れているのにー……正面の敵の分はまだ走りながらインベントリに入れているが、それ以外の方向からの敵の遺体は、地に落ちた時点で後方に置き去りになっているため、拾うためには後戻りするしかないので諦めるしかない……
解体できるように正面だけで諦めるか、少なくていいから解体をオフにしてシステム的に全て拾うか、どっちにしてもロスが出るという悲しい現実。くっそー……解体オンにしてても、絶命したらインベントリに入ってくれれば、遺体を無駄にせずに済むのにぃぃぃぃぃっ!
≪システムメッセージ≫
<称号:強欲なる簒奪者 を獲得しました>
<称号:命への感謝を忘れぬ者 を獲得しました>
おい、待て、こらぁぁぁぁぁっ!!
誰が、強欲なる簒奪者か!人を悪徳商人みたいに言うんじゃないよっ!人が走りながら、戦闘しながら、遺体回収してるというのに、妙な称号を与えるんじゃないよっ!
あれ?なんだか、遺体がどんどん消えていってる……?倒したそばから遺体が消えていく。地面であろうが空中であろうが、倒した時点で地に落ちるより早く姿が消える……
まさかと思い、インベントリのウィンドウを視界の端に表示させると、そこにどんどん数字が増えていってる項目がある。これ多分、今さっき獲得した称号の効果なんだろうな、タイミング的に……
おのれ……これでは有用過ぎて、文句言いたくても言えんじゃないか……