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第15話:エミーリア


その後、気になる点はその都度マイアさんに質問しながら資料を読み込んでいく。それから住人の生態を確認しながら、自分でもシステムを操作しつつマイアさんにシステムとプレイヤーに関する説明をしていく。ついでに昨日の情報提供後の各地の状況を教えて貰う。

情報交換が終わる頃には既にお昼を回っており、昼食にする事になったのだが…ここで問題が再浮上する。そう、隣に座ったままの王女様である。


この王女様、私とマイアさんが話し合っている間、一言も喋らず、物音も立てずにずっとこちらを眺めていたのである。しかもどういうわけか、とても楽しそうというか嬉しそうというか、とにかく上機嫌で今もこちらを眺めているという…

マイアさんも状況が読めないのか話しかけられずにいるのだが、事ここに至っては何も言わずに解散や昼食にする訳にも行かず……


「ところで…王女様に質問があるのですが…」


「構いませんよ。ですがその前に、王女は他にもおりますので、エミーリアとお呼び頂けますか?」


え?何、その切り返し…想定外なんですが?


「わかりました、エミーリア様」


「エミーリアです。もしくはエミリーとお呼び下さい」


いや、だから何なの?!敬称略どころか愛称呼びとか、どう考えてもおかしいから!何でそんなに押せ押せなの?


「いえ、王族相手にそれはちょっと…対外的な眼もありますし…」


「ここは公的な場でも城内でもありませんし、わたくし達の他はマイアしかおりません」


そう言われてマイアさんの方を見る。それこそ視線に「助けて!何とかして!」と言う思いを込めて。

しかしマイアさんは少し逡巡してから目を閉じ頭を下げる。そこには言葉にしてはいないが「申し訳ございません。どうにも出来ません」という意思がありありと見て取れた。

そして視線を戻すと、とてもにこにことしたお顔で、名前を呼ばれるのを今か今かと待ち侘びている王女の姿が…

だがしかし、ここで一度でも気安い呼び方をしてしまえば、この押せ押せ王女の事だ。最悪婚約辺りまで一気に持っていかれかねん。それは非常によろしくない。何としてでも避けねば!

”王女の婚約者”何て言う強固な鎖で城に繋がれるとか真っ平御免である!

で、あれば…


「では、普段はエミーリア様とお呼びして、条件付きでエミリーと呼ぶと言う事でいかがでしょう?」


「条件付き、ですか…その条件とはどのようなものでしょうか?」


「主な条件は容姿の変更です。具体的には髪型の変更と冒険者や一般の女性が着ている服装と似た物を着用する事です。出来れば顔の一部が隠れるような…そうですね、眼鏡や眼帯の様なアクセサリーなどがあれば、一目で王女だと思われる事もそうそうないでしょう。

加えて公的な場はもちろん、他の貴族などエミーリア様の声を覚えて居そうな方々が付近に居ない場合に限ります。

それとこの事については私とエミーリア様とマイアさんの3人以外に知らせない事です。他の人に知られたら困りますからね」


「なるほど…公私混同はしないと言う事ですね。それにわたくしも余計な横槍は望みませんし、その条件全て承知いたしました」


はぁぁぁぁぁっ、よしっ!よくやった私!これで王女ルートは回避したはず!!回避しきれてない気もするが、少なくとも直結ルートは潰せたはずだ。ならば今はこれでよし。後は未来の私が何とかしてくれる、はず!


「では話が纏ったところで質問なのですが…他の皆さんは情報交換前に帰ったのに、何故一人だけこちらに残り、着いてきたのでしょうか?」


「単純に興味があったからです。情報交換の内容にも、それを持ちかけたカヅキ様にも。ですが積極的に関わる事を慎むようにと言った本人がそれを破る訳にも行かないため、黙ったまま傍に居る事にしたのです」


「でもそれだと一緒に言った監視にも引っかかるのでは?」


「問題ありません。わたくしが見ていたのはマイアの情報交換ですから。その際にカヅキ様も視界に入っていただけです」


うわぁ、めっちゃ詭弁だ……マイアさんの方を見ると、あちらも苦笑していた。


「あとは、何故私の隣に座ったのかですね。初対面の男性の隣に未婚の女性が、それも王女が座るなど本来有り得ないのでは?」


「そうですね。確かに通常であれば安全性を考慮し、すぐに近寄れない位置に座ることになります。ですが今回に限ってはその危険度は極めて低いと判断したため、より良く知るために隣に座りました」


「マイアさんが部屋から出て、一時的とはいえ二人きりになった状況で、危険度が低いと判断するのはおかしいと思いますが…」


「それは事前に入手出来たカヅキ様の情報のおかげですね。ギルドマスター達とのやり取りでカヅキ様が権力者から距離を置こうとするタイプだと判断出来たため、わたくしを避ける事はあっても近づく事はないと判断しました。現に今もわたくしから距離を置こうとしていらっしゃるでしょう?肉体的にも心情的にも」


そう言って少しだけ身を乗り出して来たため、その分身を引いてしまう。


「エミーリア様」


マイアさんから窘める様な声が放たれる


「失礼致しました。ですがこれでカヅキ様がわたくしに危害を加える可能性が極めて低い事が立証出来ました。これでも足りないと言うのでしたら、わたくしから見たカヅキ様の性格からくる根拠をお話し致しますが、どうなさいますか?」


「一応聞いておきます」


「わかりました。まず前提となる性格の部分からお話しします。これは権力者から距離を置こうとする心情とはどの様な人が持つのかという点ですが、大まかに3種類に分かれると思っています。

一つは見咎められては困る後ろ暗い事がある人、一つは過去に何らかの事情があり嫌っている人、一つは面倒事を引き寄せる厄介者として避けている人の3種です。

カヅキ様には後ろ暗い所がある様にも嫌っている様にも見えませんので、厄介者として避けているのだと思われます。さらにわたくしのみならずギルドマスター達にも同様の反応を示していたため、権力者だけではなく有力者、有名人など知名度の高い人は全員厄介者として認識しており、出来れば知り合う事すら避けたいと考えているのではありませんか?」


「概ねその通りだと思います。」


良くもまぁ、それだけ見抜くものだ。王族の人を見る眼ってすげーなー……


「この事からわたくしに近付けば近付く程、知られれば知られる程、面倒事が降り掛かると思い、可能な限り接触を避けようとする。以上の事から例え二人きりになろうとまず危険はないと判断したのです」


それにしても、やっぱりこの王女すげー頭の回転が速い!

なんだろう、どこぞの飼い犬と永遠に暮らしたいがために自国を売り飛ばした有能王女思い出したわ。

結論。うん、この王女はやべーです。近づかんとこ……


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