第145話:未発見素材
「ありがとうございます。厄介な連中の対処はお任せしてよろしいですか?」
「ええ、任されました。カヅキへの害意は、こちらで全て封殺しますので、安心してください」
「わかりました。それで、どうやって素材かどうかがわかったかといえば、鑑定スキルを使ったからです。それも、より上位の”詳細鑑定”というスキルを使用したために、通常の鑑定ではわからないことまで知ることができたようです」
さすがに、この爆弾情報には同席している全員が驚いていた。この世界、鑑定の取得難易度が鬼畜すぎるんだよなー……まぁ、有用過ぎるスキルだから、運営としてはあまり取って欲しくないんだろうけど、こういうゲームだから実装しないわけにもいかず、やむなくこういう仕様にしたって感じなのかも?
「詳細鑑定……?鑑定スキルに上位スキルが存在したのですか?」
「そのようですね。ちなみに総合鑑定なので、植物や鉱石などの分類はなく、ほぼ全てのものを鑑定することが可能です」
「確かに、こんなスキルを持っていることが知られたら、欲しがらない者はいないでしょう。確実に騒動が起こります」
「まぁ、そうでしょうね。だから本当は誰にも明かすつもりはなかったのですが、あまりにも不可解な状況が気になったので、今後のことを考慮し、状況の解明に動こうと思ったわけです。そのためにフェルシアさんにも来てもらいました」
私の知る限り、フェルシアさんが最も長寿で博識だ。特に植物に関してなら、この人以上に知識を持ってる人類はいないのではなかろうか?以前も相当の知識を与えてもらいはしたが、その中にもなかった鑑定結果がある以上、その部分の擦り合わせが必要だろう。
「この婆では、植物だけしか鑑定できませぬが、それでもよろしければ」
「それで十分です。今回見つけた新素材は植物ばかりですから。ただ、以前フェルシアさんからは大量の知識を授けていただきましたが、あの知識には鑑定から得た知識もあったのでしょう?」
「もちろんです。知識の出し惜しみなどしておりませぬ故、見知らぬ植物素材など思い当たりませぬ」
「となると、やはり未知の素材の可能性が高いのか……」
エルフの長老でさえ知らない植物素材など、あり得るのだろうか?全速力とはいえ、2日で移動できる範囲内の森で採取できる植物なのだ。しかも、希少というほど数が少ないわけでも、見つけにくい見た目をしているわけでもない。それなのに、誰も気付かないのは何故なのか?詳細鑑定以上のスキルでなければ判明しないとかじゃないよな?頼むぞ?!通常の植物鑑定でもちゃんと反応してくれよー……
「それでは、まずひとつ目はこれです」
そう言ってインベントリから取り出したのは、その辺の樹木の根元にくっついてる苔である。
「これは……苔、ですか?」
「フェルシアさん、鑑定をお願いします」
「承知致しました。……ただの苔です。特にこれといった効能はありませんが……」
あぁぁぁぁぁっ!嫌な方の予感が当たったぁぁぁぁぁ……
フェルシアさんでこれなら、そりゃあ誰にも気付かれないはずだよっ!もう発見条件が、詳細鑑定以上なの確定じゃねーか……
「えっと……鑑定以外の知識でも素材ではないと?」
「はい。これはおそらく樹木に付着している普通の苔だと思われますが、違うのですか?」
「ええ、その通りなのですが……私の詳細鑑定だと、素材なんですよ」
この鑑定結果の画面、住人にも見えるようにならんかな……?この程度の機能なら使えても良さそうなものなんだが……
≪システムメッセージ≫
システム:ウィンドウカスタマイズ が解放されました
おいぃぃぃぃ?!あるなら、最初から使えるようにしておいてよ!なんで今まで封印していたしっ!まぁいい、便利になったのには違いないし、今は説明する方が先だ。
えー……っと?ああ、これか。うわぁ、設定項目が細かい……詳しことは後で調べよう。今は表示できるようにだけ変更して、っと……
「私が見たものが皆さんにも見えるか、試してみますね?」
「え?ええ、どうぞ」
いきなりだと驚くと思ったので、念のため一声かけてから、詳細鑑定のウィンドウを操作する。
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樹苔
分類:素材 等級:上等級 品質:B
樹木の根元付近に付着している苔。
樹皮の表面に定着しており、養分や水分を濃縮して蓄えている。
調薬、錬金の素材として用いることができる。
効果:植物系活性化
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「これなんですが、見えていますか?」
「む?これは、一体……?」
「空中に、文字が浮かんでいる?」
「これが、渡来人の……」
ああ、うん。いきなりこんなのが出てきたら、びっくりするよねー……とはいえ、今は話を進めさせてもらおう。
「珍しいのはわかりますが、今はそちらではなく、書いてある文字を見てください」
「この内容は……この苔の説明ですか?」
「ええ、これが私が見ている詳細鑑定の結果です」
「上等級、品質B、それから調薬、錬金の素材……こんな効果が……」
「これが……渡来人が使っているというシステムというものですか?」
「その機能の一部、ですね。今までは住人に見せる方法がなかったのですが、これくらいならできるようになりました。それで、フェルシアさん。この苔についてどう思われますか?」
「信じられないと言いたいところですが、カヅキ様に我々を騙す理由がない以上、この情報は正しいのでしょう。おそらくは、この詳細鑑定でなければ知ることのできない情報だと思われます。また、この効果の説明から察するに、回復薬やポーションの効果を増幅するのではないかと」
「私もそう思います。この苔は他の地域でも採取可能ですか?」
「はい。珍しいものではありませんので、大抵の森であれば少し探せば見つかるでしょう」
「フェルシアさんの鑑定でも効果が見えないようですが、他の方でも間違わずに採取できるでしょうか?」
「問題なく。これも郷の者たちに採取させますか?」
「そうですね……効果の高い薬はあって困るものではありませんし、それにこれから研究する必要がありますから、素材が多いに越したことはないでしょう。ですが、郷の仕事を増やして大丈夫なのですか?既に結構な仕事量になってると思いますが……」
「この程度であれば片手間にできますので、負担にはならぬでしょう」
「では、お願いしようと思いますが、まだこの他にも見知らぬ素材があるので、そちらの確認もしてからにしましょう」
「承知致しました」
「マイアさんは、資料を作成していただけますか?それから、メリルさんにはその資料の確認をお願いしたいのですが……」
「はい、わかりました。すぐに取り掛かります」
「ええ、構いません。それと、確認が終わったものから複写させておきますから、あとであなたにも渡しますね」
「ありがとうございます。それでは、他の素材も出していきますね」
はぁぁぁぁ……結局、未発見の素材だったか……これはプレイヤーのみならず、住人も含めて大騒ぎになるだろうな。生産者、特に薬師と錬金術師は研究で大変なことになりそうだが、是非とも頑張って欲しい。
私は北へ逃げるけどね!