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第143話:マイアの受難


「そうですね……例えば、この街周辺の生態系とよく似た地域が他にもあったとして、その別地域で発見された同じ素材の情報は、この街にも共有されますか?」


「……それは、こちらでも生えているけれど、素材として認められていない植物でも、他の地域で素材として認められた場合、その植物は素材であると、この街へ情報が流れてくるのか?ということでよろしいでしょうか?」


「ええ、そうです。この街にない書物や資料が他の街にのみあるのであれば、各街の情報は各街毎に管理され、他の街とは共有されていない可能性が高いですよね?それこそこの街の中でさえ、各ギルドに専門的な知識はあるのに、この図書館にはそれらの資料が存在しないのですから」


「……仰る通り、多くの情報は共有されることはありません。特に価値のある情報は、利益を独占するために秘匿される場合がほとんどです。特殊な素材などはその典型と言えるでしょう。そのため、特殊な素材の採取を依頼する場合は、相応の契約が結ばれることが良くあります。このことからもわかるように、価値のある新素材の情報が、各街に行き渡ることはまずありません」


まぁ、この世界の住人だって、ごく普通の人間だもの。そういう強欲なやつだっているよねー……こればっかりはどうしようもない。せっかく自分が手に入れた有用な権利なのだから、利用したくなるのは普通のことだしね。尤も、独占し続けるのは、やり過ぎだとは思うけど……


「つまり、この街周辺にも価値ある情報を秘匿され、普通に生えているのに誰も知らない素材があってもおかしくはないのですね?」


「おかしくはありませんが、辺境とはいえ人の出入りはそれなりにありますし、何より長い歴史があります。採取を生業にしていた冒険者が、引退してこの街に住み着いたこともあるでしょう。各専門ギルドでも当然有用な情報は集めますから、完全な情報封鎖は不可能でしょう」


「であれば、西の町までの半分にも満たない半径内で、いくつもの新素材が見つかることなどあり得ないと?」


「はい。この街も最初からこの規模だったわけではありません。最初は生きるために、周辺にあるものは手当たり次第に利用したことでしょう。それ以降も誰にも知られずに、難を逃れ続けた素材があるとは考え難いです」


こうまで言い切るとなると、有益な秘匿情報がバラされた場合、報復に出る奴らもいそうだなー。このまま話を続けると、かなり面倒なことが起きそうだ……私の見つけた素材が価値あるものかはわからないが、万が一のことを考えると用心に越したことはない。


渡来人のみならず、この世界の住人の中にもなかなかに度し難いのが混じっているようで……情報を公開せず、暴利を貪るために狭い市場でしか活動していないなら、潰れてもそれほど問題は出ないだろう。どうせ、その狭い界隈の人間たちしか知らないのだから……


そして、そういった連中に対抗するためには、入念な事前準備が何よりも重要となる。情報を集め、根回しをし、包囲網を敷き、過剰戦力を揃え、逃走経路を封鎖した上で、全員同時に仕掛けるくらいのことはできないといけない。

さらに言えば、相手が悪あがきできないように、権力、財力、戦力、人脈で上回り、圧倒的な重さで二度と起き上がれぬように圧し潰すことができれば最上。


そして、非常に都合のいいことに、それらを滞りなく行えそうな人を知っていたりする。私の考えなのに他人任せになってしまうが、私には権力も財力も情報収集力もないから仕方ないのだ。とはいえ、相手側にとっても、未知の素材情報が複数入手できるのだから、十分なメリットがあるだろう。情報料代わりに、矢面に立って面倒な奴らを始末してもらおうというだけで、こちらから何かを要求するわけでもないし、問題はないだろう、と思う……


こうなると、先にこっちに来たのは失敗だったかなー……?

メリルさんと話してから、こっちに来た方が良かったかもしれんが、こうして話していたからこそ現状があるわけで……ほんと、世の中ままならないものだなー……

でも、そうすると……マイアさんから情報が流れるのはマズいので、しばらく黙っていてもらうしかないのだが、多分この情報は報告義務が発生するレベルのやつだろうから、先に手を打たねばなるまい。


「…………この後、お時間をいただいてもよろしいでしょうか?それも結構長い時間を」


「それは構いませんが、急にどうされました?」


「いえ、少し思うところがありまして……場所を変えさせていただきたいのです」


「場所を?こういってはなんですが、今いるこの部屋はかなり機密性が高く、ここでの会話が外に漏れる心配はありませんよ?」


「それはそうなのでしょうが、私が考えてることはそれだけではなくてですね。これからメリルさんの屋敷に向かおうと思うのです」


「メリル様?!まさかとは思いますが、元辺境伯爵夫人のメリル様のお屋敷のことでしょうか?」


あー……そういやそうか。いくら高位の司書といっても、呼ばれてもいないのに貴族の屋敷に行くことになったら、こういう反応になるか……


「ええ、そのお屋敷です。実は大分前からなのですが、私の部屋はその屋敷の中に用意されているのですよ。ですから、旅から帰ってくる際に客人ができたようなものなので、大丈夫だと思いますよ?幸いなことに、マイアさんは身元もしっかりしていますし、何も問題はないでしょう」


「いくらなんでも招待状もなしに、いきなりお屋敷に行くわけにはいかないでしょう。それに心の準備ができていませんし、何より正装ではありませんから……」


「これでも一応、家人扱いになっていますので、その私が直接招待しているのですから、招待状は必要ないでしょう。司書としての制服を着ているのですから、それは正装と同義だと思いますので、そちらも問題ないでしょう。心の準備は……到着までにしてくださるとありがたいです」


「何故そこまでして…………もしや、報告義務を危惧していらっしゃいますか?」


「さすが、話が早いですね。お気付きの通り、結構ヤバイ情報な気がするので、あちらに移動してからメリルさんも交えてお話しできればと……」


「っ?!メリル様も同席なさると……?」


「屋敷に戻ったら、旅での出来事を話すことになっていますので……これなら二度手間にならずに済みますし、何よりいろいろな意見もいただけるかもしれませんので、その方がいいと判断したのです」


会話が進むたびに、マイアさんの顔色がどんどん悪くなっていく……これが漫画だったら、顔に縦線が入って、目からハイライトが消えかかってるような状態になっておられる。

まぁ、そうなるよね?私だって、いきなり知り合いが貴族の家人になっていて、その屋敷に招待された挙句、当主同席の上でヤバめな重要案件を話すことになったら、こうなる自信がある。むしろ、ならない方がおかしいとさえ言えるだろう。


ほんと、唐突に訪れた挙句、胃に穴が開きそうな状況にしてしまって申し訳ない……


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