第141話:素材売却
さて……おそらく、最適であろう目的地が見つかったわけだが、問題はその前人未踏の領域へ、私の戦力で辿り着けるかだな……
過去、誰一人としてそこへ到達していないのは、あの暗黒地帯の向こう側へ行こうとしなかったのか、それとも行くことができずに諦めたのか……それによって難易度が全く変わるんだよなー……
「ひとつお聞きしたいのですが、私はまだあの光が差し込まないところまで踏み入ったことがないのですが、その先に住むものたちは、やはり強いのでしょうか?」
『この辺りのものたちとは比べ物になりませんが、あなたであれば問題はないでしょう。目的地周辺でも、多少手こずる程度ではないでしょうか?』
ウルが把握している私の戦力ってどれくらいなんだろうな?この泉周辺を掃討した時のものだろうか?それだけで、どうにかなると思える程度の敵しかいないのであれば、とっくに誰かが進んでいそうなものだが……
「わかりました。一度眠って、起きたら街に戻って準備を整えます。到達するまで数十日は掛かりそうなので、心配しそうな人たちに挨拶もしたいので、少し時間が掛かると思います」
『そうですか、それでは森の手前でまた会いましょう』
「はい、よろしくお願いします。それでは私は眠ります。おやすみなさい」
『ええ、おやすみなさい』
その言葉を最後に、ウルの姿が見えなくなる。おそらく私が認識できるように、わざわざ実体化していてくれたのだろう。ありがたいことだ。それじゃあ、テントを出して寝ますかねー。
あの後、テントの中でゆっくりと眠り、起きてからは真っ直ぐに街へと向かう。道中もいろいろもったいないので、フィアに戦ってもらいつつ、採取をしながら戻ることにする。
そんなことをしながら、これからの予定を考える。説明に時間が掛かりそうなメリルさんのところは最後に回すとして、割と情報に抜けがあったことをマイアさんに伝えておいた方がいいだろう。スゥ婆さんやマールさんに渡すものもあるし、モームさんのところに行ったら、旅立ち前にご飯を出されそう……
ああ、そういえばフィアが進化していたんだったな。かなり大きくなってしまったが、門番に止められたりしないだろうか?まだこの大きさなら大丈夫、か……?
説明しないと街に入れないとかあるかなぁ?どこかに登録しに行くことになったら面倒だなー……フィアに全力で気配を消してもらったら、なんとか気付かれずに通れないだろうか?まだスキル化もしてないし、無理だろうなー……
などと考えていたのだが、従魔ですと言ったら実にあっさりと通された。うん、楽でいいんだけど、ちょっと拍子抜けしてしまった……
既にお昼は過ぎているし、この時間帯ならスゥ婆さんの店も空いているだろうから、そっちから行くことにしよう。
「こんにちは、ただいま戻りました」
「ああ、おかえり。思っていたより早かったね」
「ええ、まぁ。ところで、いろいろ狩ってきました。量も結構あるのですが、どうしましょうか?」
「ふむ……それなら少し奥で話そうかね。ついておいで」
そう促され、スゥ婆さんについて店の中へ。解体場のようなところへ通される。
「それじゃあ、ここに出しておくれ」
「わかりました」
そう言われて、動物を各種1体ずつ並べて出す。それと食材になりそうな植物も同様に出して見てもらうことにした。
「ほんとうにいろいろ持ってきたねぇ……傷跡も少ないし、鮮度も十分。それで?こいつらは、後どれだけ狩って来たんだい?」
インベントリを見ながら、それぞれの数を伝える。中には3桁いってるものもあるが、まぁ乱獲みたいになったこともあったし、それをもったいないからと全部回収したので、数が膨れ上がるのは致し方ない。
「たった数日で、どれだけ狩ってるんだい……怪我するような無茶はしてないんだろうね?」
「大丈夫ですよ。フィアが進化したので、そのおかげでもあります」
「やっぱり、あの白いヒヨコだったのかい。一体どんな進化をしたら、こんな姿になるのやら……まぁ、子は親に似るっていうからね。そういうこともあるかもしれないねぇ」
ピィピィ♪
確かに、森で活動しやすいように暗色系の装備だから、フィアと色合いが似てるけども……フィアが似てると言われて喜んでるので、何も言えん……
それから、他の食材も含めて個数を調整して売却し、代わりに野菜類をしこたま買い込んだ。その際に、今度は戻って来るまで数か月掛かるかもしれないと言っておいた。
さすがに、行先も告げずに数か月戻れないなどと言えば心配される。とはいえ、ずっとここに住んでいるのだから、北の森のことは知っているだろう。そんなところに行くと言えば、今以上に心配させてしまうため、内緒にしておいた。
戻ってきたらまた顔を出す約束をすることで、ようやくスゥ婆さんから解放された。気持ちはわからんでもないが、心配しすぎじゃないかとも思う。
次はマールさんだな。薬草類を頼まれていたから、それを届けなければ。
「こんにちは、ただいま戻りました」
「おや、おかえり~。カヅ坊にしては珍しい時間に来たね~」
「そんな時もあります。依頼の品を持ってきました」
「はいはい、それじゃあ中に入って~」
「それでは、失礼しますね」
そうして店の中に入り、いつもの部屋へと移動する。
ただの雑貨屋が、薬草類を大量に仕入れるところを見られるわけにはいかないからね。
「依頼された月光花の他にも、調薬に使えそうな素材も採取してきましたが、どうしますか?」
「見る見る。もちろん見させてもらうよ~」
そんなわけで、調薬関連の素材を全種類テーブルの上に並べる。
薬草ではないハーブだったり果実だったりするのだが、これらも立派な調薬素材らしい。詳細鑑定のテキストに書いてあったから、間違いはないはず。ただ、それが知られているかはわからないので、見てもらうことにしたのだ。
「調薬素材じゃないのも混じってるね~。なんでこれも調薬で使うって思ったの?何かに書いてあった?」
「鑑定結果で、調薬にも使える素材ってなっていたからです」
「……はい?鑑定?したの?」
「ええ、鑑定できるようになりましたので、使いながら採取していました」
「はぁぁぁぁ……全くカヅ坊は……多芸にも程があるわね~。でもまぁ、鑑定で調薬素材って出たんなら、使えるんでしょうね~……」
「どうします?やはり知らない素材は要りませんか?」
「いやいや、喜んで買い取るよ~。おじいちゃんでも知らなかった素材だよ?めちゃくちゃ圧を掛けられた仕返しに、おじいちゃんの作れなかった薬を作ってみせるよ~」
あ、まだ根に持ってたんだ……成功したら、おじいちゃんが悔しさでポルターガイストになりそう……
「新薬、楽しみにしていますね。次に戻ってこられるのは数か月後になりそうなので、ゆっくり研究してください」
「え?何それ?数か月後って、どこまで行くの?」
「結構遠いところです。行先は……内緒ということで」
「内緒って……今までそんなこと言ったことなかったのに~……」
「戻ってきたらまた顔を出しますので、また修業してるとでも思ってください」
「ほんとだよ?必ず戻って来ること、いいわね!」
「わかりました。運が良ければ、お土産も持ってきますね」
「全く、仕方ないな~……気を付けていってくるんだよ~?」
「ええ、ちゃんと戻ってきますので、そこは安心してください」
「うんうん、それじゃ商談に戻りますか」
それから、ほとんどの素材を買い取られたのだが、お金は大丈夫なんだろうか?
研究資金として用意してある分から出したとは言っていたが、月光花の単価が高いのに数が多かったので、ちょっと心配になった……