第120話:フィアの初陣
いよいよ街の外での戦闘解禁です。
やったね!これで経験値が入るよ!
とはいえ、しばらくしたらまた街に戻るんですけどね……
他のプレイヤーから遅れること、早半年。
予定よりも遥かに時間が掛かってしまったが、それに見合うだけの、いや、それ以上の成果を得た。遂に街の外へ出て、敵を倒して経験値を得ることができる。
そう!やっとだ、やっとレベリングができるのだ!!
こんにちは、経験値。これから末永くよろしくお願いします。
などと、妙なことを考えながらも南門を抜けて平原に出る。
数か月ぶりに平原へ来たため、開放感が凄いな。周りに視界を遮るものがほとんどないのだ。遮るものといえば、視界内に数本だけある樹木のみ、それ以外は人っ子一人いやしない。相変わらず無人なのね、この平原……
まぁ、目立ちたくない私からすれば好都合なんだけど、逆にこの状況を見られると、すげー目立つのではなかろうか?とも思ってしまうわけで……
うん。そこまで気にしてたら身動きとれなくなるな。もし見つかって悪目立ちしたら逃げればいいや……そういうことにしておこう。
まずは、弓の威力を見てみたいところだが、こんなところで確殺乱獲状態になってるところは見られたくないので、それは夜に回すとして……それまでは、地中精査でもしながら、薬草採取でもしてましょうかね?
結局、以前から来ている水場まで、のんびりと採取しながらの散歩となった。
この辺まで来ると完全に人の気配がない。門番どころか街壁も見えないのだから、さもありなん。
地中精査の結果、ここの水源となるのは森の中らしい。森まではまだ結構あるのだが、意外と細い水脈なのに長く延びるものなんだなぁ……って思った。
ついでに水底も調べてみたが、これといったものは何もなかった。残念……
さて……周囲に人目はなし、気配、魔力もなし、空間認識でも余計な存在は感知できず……よし、やるか!
「フィア、起きてー」
そう言いながら、肩で寝ているフィアを揺すって起こす。
ピィィ……?
「おはよう、フィア」
ピィィ!
うんうん、元気があって大変よろしい。それじゃ、その元気を発散してもらいましょうかね。
「フィアにはこれから、戦闘をしてもらいます。ただし、これは今までのような練習ではなく、本当の戦闘。実際に敵を倒してもらいます!」
ピィィィッ!
「私がこれから石を投げてうさぎを呼ぶから、それを倒してもらえる?それと、まずは全力でやってね?倒せない時は私が倒すから、何も心配しなくていいよ」
ピィピィ!
羽をパタパタさせながら、やる気を見せるフィアを地面に降ろして少し離れる。
「よし!それじゃ、呼ぶよー」
ピィ!!
真っ直ぐ私に向かってきた場合、フィアの正面を横切ることになる位置にいるうさぎに向かって、拾った石を投擲する。ただし、最弱のノンアクティブ故に基礎ステータスの高い私だと、それだけでも倒してしまいかねないので、投げつけるのではなく、上に放って当てるだけにする。
そして、石に当たったうさぎはそれだけで体力を1割も減らし、敵と認識した私に向かって突撃してくる。
フィアはまだ動かずジッと待っているが、その目はしっかりと向かってくるうさぎを捉えているようだ。うさぎがそのままフィアの真正面を過ぎた瞬間に飛び出し、後ろ斜めから頭を蹴り飛ばした!
ただでさえ突撃していたところに、後方から蹴り飛ばされたせいで、地面に倒れても勢いが乗ったまま転がり続けたからか、止まってもすぐには動けないようだ。
そこに走ってきたフィアが飛び上がり、そのまま蹴りを繰り出し踏み潰す。さらに勢いの乗った上体を使って嘴と共に、左右の羽を叩きつける!
それにより、体力が尽きたうさぎはお亡くなりになった。
なんというか……奇襲からのライダーキックじみた蹴り、そして3発同時の連撃へと繋ぎ、敵に攻撃することはおろか、防御もさせずに止めを刺したその手腕は、見事としか言いようがない。
だがしかし、これ絶対に師匠たちの入れ知恵だろう……そもそも、最初の奇襲の仕方が普通じゃないもの。一度通り過ぎてから、後ろ側から相手を加速させるように蹴り飛ばすとか、そんな崩し方は誰かに教わらなかったら思い付くことさえ難しいはずだ。
しかも、その後のライダーキックっぽい蹴りは、どう見ても鳥類の蹴り方じゃない。一度飛び上がり体の向きを90度曲げながら、下側になった片足を上げつつ、もう片足を伸ばして斜め下方に蹴り込むとか、人間の蹴り方だからっ!
おまけに、蹴りに使った運動エネルギーを余さず使うために、追撃まで仕込みやがったな!
あの状態からなら、伸ばした足を曲げて体を捻り、上体を倒せばそれだけで嘴が届く。ついでに蹴りの時点で上げていた両の羽を振り下ろせば、突きと打撃と打撃が運動エネルギーと共に同時に叩き込まれるという寸法だ。
加えて、曲げた足を伸ばすことで、相手を土台にして跳んで距離を取ることも可能という、反撃避けまでセットになってるな、これ……私がすぐに思い付くものを、あの人たちが思い付かないはずがないのだから……
あの人たちは全くもう、なんてものをフィアに教え込んでるんだ!これでフィアがコカトリスじゃなくて、ハーピーみたいな人型に進化したらどうするんだっ!
そりゃまぁ、フィアが強くなるのは喜ばしいことだけど、進化の系統樹がズレそうなことをするのはやめていただきたい……
はぁ……まぁ、憤っていても仕方がない。ここは切り替えよう。
折角フィアが初陣を無傷で完勝したのだ。褒めてやらねば。
「おおー、フィア、凄いじゃないか。一発で倒すなんて!よしよし、えらいぞー」
そう言いながら、飛び込んできたフィアを抱っこしつつ、撫でながら褒めてあげる。フィアも勝てて嬉しいのだろう。とてもはしゃいでいる。いいことだ。
まずは成功体験をさせる。これは大事なことだ。
最初に失敗すると、苦手意識が芽生えてしまうことが多いからな……あとは、成功したらしっかり褒めること、これも大事。褒めて伸ばすのは基本だからね。
いずれは、敗北や挫折も知った方がいいのだろうが……それはまだまだ先でいい。今はまだ、すくすくと成長してくれればそれで十分だ。