第113話:お説教
「……………………」
なにこれ?ここはいつから総合武具屋になったの……?
メリルさんからの呼び出しを受けて案内された部屋に来てみれば、その中には師匠たち全員と、広めの部屋の半分ほどを埋め尽くす大量の武器防具の姿があった……
「おお!カヅキ、待っておったぞ。どうじゃ?ここにあるのは全部お前の装備じゃぞ!」
「どうだ?凄いだろう?!」
「あたしたちも素材提供したんだよ?」
「用途に合わせて使い分けられるように、いろいろ作ってもらったんだ」
「それを作らされたあたしは、もうヘトヘトなんだけど……?」
あぁぁぁぁもぉぉぉぉぉぉぉっ!ほんっと、この人たちはぁぁぁぁぁぁっ!!
一体、何を、どれだけ作ったんだよ?!装備一式じゃなかったのかよっ?!これ、明らかに10や20で収まらんぞ?下手すると全部で50以上あるんじゃないか……?
「…………これは一体どういうことなのでしょう?メリルさんからは、装備一式を作っているらしいとは聞いていましたが……明らかに数がおかしいですよね?」
「あ、ありゃ?思ってた反応と違うんじゃが?」
「喜んでるというより、ちょっと怒ってる感じ……?」
「え?嬉しくないのか?」
「いえ、もちろん嬉しいですよ?皆さんが私のために、頑張って作ってくださったみたいですしね」
うん、嬉しいよ。嬉しいんだけどね……世の中には限度ってものがあるんですよ?それとやり過ぎって言葉もね。この、暴走師匠どもめっ!
「おお、そうだよな!いやー喜んでくれて嬉しいぜ」
「その割には、何か雰囲気がおかしくないか……?」
「あ、これ、ヤバいやつー……」(コソコソ……)
「はい、そこ。コソコソ逃げようとしない」(ジロッ)
「ヒィッ!!」
「それで……?」
「ん?」
「それで、これは総額いくら掛ったんですか?素材込みで、相場でいくら使ったんですか?」(ニコッ)
「…………………」
溜息1名、苦笑2名、それ以外は全て目を逸らす、と……
はっはっは、やってくれるじゃないか、このバカ師匠ども!向こうの世界には”過ぎたるは猶及ばざるが如し”という言葉があることを教えてあげよう。
「…………」
「あ、あー……その……だな……」
「それで、いくら、使ったの、ですか?」(ニッコリ♪)
区切る度に、静かに1歩前に出る。
それに合わせるように、師匠たちが1歩ずつ後ろへ下がって行く。
「い、いや、実は……勘定していなくて、だな……」
「そうですか……ですが、概算くらい出せますよね?」
「それ、は…………」
どうやら、余程言いたくない金額らしい。しかも視線がめっちゃ泳いでるし。往生際が悪いですね……今後のためにも、今のうちにもう少しお灸をすえた方がいいかも?
「正座」
「え?」
「全員、正座してください」
「えっと、そのセイザってなんだ?」
「ああ、こちらにはそういう座り方はないんですね。こういう座り方のことです。全員、同じように座ってください」
そういって、まずお手本を見せると、1人2人と倣い始め、全員が正座したのを確認する。
「これは、よく親が悪いことをした子供を叱る時にさせる座り方です」
「は?親が子供を叱るって……」
「叱られるようなことをした覚えなど、何もないと?」
そういって、装備の山へ視線を向ける。
「…………」
「では、そのまま、足を崩さずに聞いてください。まず、どうしてあんなに大量に作ったのですか?先程も言いましたが、あなた方が装備を作っていることは、私が目を覚ました後でメリルさんに聞きました。ですがその時は、装備一式という話でしたが……ここにあるのは、どう見ても一式で収まる数ではありませんよね?何故こんなに増えているのか、説明を求めます」
「あ、ああ……わかった。最初はお前たちが戦ってる間は暇だったから、防具一式と武器をいくつかって話で作り始めたんだが……お前が倒れてここに担ぎ込まれた後でな、そいつらが大量に注文してきたんだよ。金も素材も出すから、こういうやつを作ってくれって感じでな」
それを聞いて、思わず”そいつら”の方をジロリと見てしまう。
私に視線を向けられたと気付くと、メリルさん以外の戦闘組全員が目を逸らす。それを見たメリルさんは溜息をついている。
ただでさえ、暇を持て余しヤバそうなのを作っていただろうに、どうして拍車をかけるようなことをするのか……ああ、そういえばメリルさんが、意識不明にした負い目がどうこう言っていたな。元々ぶっ倒れるまでやりそうな勢いだった割に、実際そうなると慌てるのか……
「それで、言われるがままに作り続けたというわけですね?」
「おおよ。それぞれ戦闘スタイルが違う連中が、同じ奴に合う装備を別々に発注するもんだから面白くてなぁ、つい興が乗ってしまった」
「そうですか。ですが、修業中に私は悪目立ちする装備は困ると言っていたはずなんですが、覚えていらっしゃいませんか?明らかに目立つ装備ばかりのように見えるのですが、これは何故でしょう?」
「…………それは……えっと……そう!そういう注文だったんだよ!だから、仕方なかったんだ!」
「は?」
「おい、待て」
「ちょっと、何言ってんのよ!あたしたちは”こういうの”って注文はしたけど、細かいデザインまでは言ってないでしょう?!」
「あっ……い、いや、違う。俺は注文通りに作っただけで、俺は何も悪いことはしてないぞ?」
「こいつっ、1人だけ責任逃れしようとしてやがるっ!」
「てめぇだって、どうせならこれ使おうとか言って、いい素材持ち出してたじゃねーかっ!」
「そうそう、あたしたちにもこういう素材持ってないか?とか聞いてきたくせにぃぃっ!」
「ちょっ!ちょっと待て、お、お前ら、何言って……」
うん、ものの見事に同士討ちの舌戦が始まりましたねー……こっちから見れば、全員同罪じゃいっ!でもこのままだと収拾つかないから、一旦静かにさせないとだな。
パンッ!!
「…………」
よし、身体精密制御のおかげで、ただ手を叩くだけでもかなり大きな音が出せるようになったなー。どう手を動かしたら、大きな音を出せるのかが何故かわかる。とても便利。
「落ち着きましたか?」
「はい……」
「私から見れば全員同罪です。負い目があるから、興が乗ったからといって、散財していいわけではありません。そもそも戦闘組は、元々私が倒れる寸前くらいまでやるつもりだったでしょうに、何を慌てているんですか。それと生産組も私が目立つのが嫌いなことを知っていたはずです。それなのに、どうしてこんなに暴走しているんですか?もっと、しっかりしてください。装備品を作っていただけるのは、素直に嬉しいですよ?ですが、それも常識の範囲内であればです。あちらを見てください。数も素材も常軌を逸したレベルなのが一目でわかるでしょう?あれらを何の躊躇いもなく笑顔で受け取れるのは、欲の皮が突っ張った金の亡者くらいです。贈り物をする時は相手が喜ぶものをと考えますが、同時に贈られた相手が負担に感じないものを選ぶことも大切なのです。何事もやり過ぎは良くありません。向こうの言葉に”過ぎたるは猶及ばざるが如し”という言葉があります。その意味は、何事もやり過ぎてしまえば、それは足りないのと何も変わらないというものです。今回の場合のように、喜ばせるつもりがやり過ぎて逆に不快な思いをさせてしまった時などに使われる言葉ですね。このように、贈り物などは相手が素直に喜ぶことができる範囲内のものを選ぶべきなのです。価値が高ければ、数が多ければいいというわけではありません。わかりましたか?」
「……………………」
「どうやら、誰も聞いてなかったようなので、正座したまま最初からもう一度ですね」
他の人たちはおそらく、足が痛くてそれどころではないのだろうが……メリルさんだけは、涼しい顔して姿勢を保ったまま黙っているのは、何故なのだろうか……?
「っ!ま、待って……お願い……足、足が痛くて……」
「ぬぅぅぅ………」
「ぐぅぅ……うむ、わかった。儂らはやり過ぎたようだ。すまなかった」
「申し訳ない」
「ごめんなさい」
「……反省しましたか?」
「ああ、もう本人から以外の発注は受け付けない、だから……もう勘弁してくれぇ……」
「わかりました。全員、足を崩してもいいですよ」
「うあぁぁぁぁー………」
そういった途端、みんな揃って床に横になって、足への過負荷を解いていく。ただ1人を除いて……
まぁこれで、この先、勝手に装備を作ることはないだろう。
装備を作ってもらったことは嬉しいし感謝もするが、多分ここで止めておかないと、今度は何するかわからんからなー……もう既に、若干手遅れになっているやつもありそうだけど、それはもうインベントリの中に封印してしまおう……